1. JISPA修了後の経歴を簡単にご紹介下さい。JISPAの体験はキャリア形成にどのように役立ちましたか?
2003 年を振り返ると、JISPA を卒業した後、私はカンボジア国立銀行総裁室の選抜ワーキング・グループの一員に選ばれました。総裁室の業務は銀行の管理業務、行内研修、そして総裁補佐に対し金融政策の提言を行うことです。2年後にはジュニア・エコノミスト、課長になり、2008年には総裁室長に昇進すると同時に、事務局部門の次長としてカンボジアのマクロ経済の実績監視、銀行業及び金融の基本方針、及び人材開発を任されることになりました。こうした責任を果たす上で、日本で得た知識や経験を活かす機会が大いにありました。
2010年に私はカンボジア国立銀行の金融政策専門ワーキング・グループのリーダーに任命されました。このグループでは若手のエコノミストや海外の大学を卒業したばかりの人たちとも働くことができました。 その後、経済調査及び国際協力局局長に昇進し、カンボジア国立銀行の若手エコノミストクラブの長になりました。また、こうした地位を経験したことで、政府各省、IMF、ADB、ASEAN、ASEAN+3、SEACEN 多国間協力センターと共に働く機会を得ることができ、地域の中央銀行のいくつかとは国の成長のために共通する分野で相互協力をすることができました。この間、私は職員の能力や分析スキルを監督し、指導することもできました。
人事異動方針の一環として、2013年に私は中央銀行の人事管理を担当する人事局局長兼事務次長に昇進しました。ここでは、ライン管理者と緊密に働き、大学卒業生や研究者をライン部門に溶け込ませるための管理を行っています。また、中央銀行の人事管理や人事開発について意見や経験を交流する地域フォーラムにも参加しました。在職期間中、私は人事部門で4つの主要な役割を果たしました。戦略的パートナー、改革エージェント、事務専門家、行員代表の4つです。
現在、私はカンボジア国立銀行の事務次長として人事管理と総裁室を任されています。総裁室は銀行の意思決定機関を擁しており、銀行業務全体の中心的フィルターの役割を果たすと考えられています。そのため、 現在、私は次の6つのワーキング・グループを任され、責任を負っています: (1) 金融政策、 (2) 金融安定化、 (3) 銀行業務監督、 (4) 人事管理及び人事開発、 (5) 資金管理、 (6)国際協力です。
まとめとして言わせていただければ、日本は我が国の発展にとっての戦略的パートナーであるだけでなく、アジア及び経済移行国の学生や行政の幹部職員にとっては、国家開発計画について学び研究を行うための地域及び国際的な学習拠点でもあるのです。JISPAは、私たち奨学生に変化する世界、連携の構築及び地域全体のネットワークの形成についての知識を提供するだけでなく、日本の文化や人々の洗練された手腕を学ぶ上でも重要な役割を果たしています。そのおかげで、私たちは自分たちの強い指導力並びに責任を果たすための努力と併せて、日本での経験と働く文化を活用し、組織目標を達成するために職務上の専門能力を形成していくことができるのです。
2. 日本に関連する仕事や地域協力に関する仕事をされたことがありますか?その場合の仕事内容と、それがどのような経験だったかをお話下さい。
カンボジア国立銀行の経済調査及び国際協力局局長として、国際金融機関、地域金融機関、並びに地域の中央銀行と2国間、多国間で仕事をしました。カンボジア国立銀行は、ASEAN+3 金融協力の枠組みの下で、日本の財務省、日本銀行、ASEAN+3の他の参加国による専門ワーキング・グループと共に、地域の金融協力強化と、地域金融のセーフティネット発展に取り組むことで、地域の金融安定・成長を確実なものとするとともに、地域の持続可能な経済的繁栄の促進を目指しています。
今日、ASEAN+3の金融協力は目に見えて進展しており、チェンマイ・イニシアティブのマルチ化(CMIM)による地域金融のセーフティネットの創設と発展、ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)による地域のマクロ経済及び金融に対する監視の強化、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)による地域の債券市場の成長などが顕著です。加えて、新たな発展と協力のイニシアティブが活発に議論されてきており、その中には共同研究、キャパシティの構築、インフラ金融、自然災害保険、貿易決済における現地通貨の使用などがあります。
さらに、私たちはJICAと協働し、脱ドル化・カンボジアの通貨リエルの利用促進に関する、キャパシティ構築と共同研究にも取り組みました。専門的なレベルだけではなく、カンボジアと日本の間ではもっと高度な国のレベルにおいて、外交・政治上の関係や社会・経済の発展から文化交流に至るまでの幅広い開発の分野で、非常に多くの共同事業が行われてきました。そのような協力と支援はカンボジアにとって有益で掛け替えのないものでした。
3. 現在カンボジア国立銀行の事務次長を務めていらっしゃいますが、現在直面する難問等(もしあれば)に触れながら、事務次長としての職務の概要についてお話しいただけますか?
カンボジア国立銀行は指導的な役割を果たす独立した国の機関で、政府からの介入は受けません。カンボジア国立銀行は中央銀行としてカンボジアの持続可能な経済発展を支援するため物価安定において重要な役割を果たしています。カンボジア国立銀行事務次長という管理職に昇進するための競争は厳しいものです。局長レベルでは、専門的能力、指導力、管理能力の高さを示さなければならず、専門的人材として実績を挙げたと認められれば、中央銀行の意思決定と政策形成に責任を負う管理職レベルへの昇進ルートに乗ることができます。
事務次長として、私はカンボジア国立銀行理事会の幹事長に指名されており、さらに人事管理、マクロ経済の監視、銀行の全般的管理を任されています。私が直面している主な課題は、国際的な基準及び急速な経済発展に沿った形で、銀行内の人事管理の効力を高めることです。地域市場の統合が加速しているので、人材の争奪戦が始まっています。職員にふさわしい能力を備えた人材は希少ですが、組織が機能し成功するためには人的資源は欠かせません。私は経営層から人事政策改訂のためのワーキング・グループを率いるよう任命されました。その目的は、民間部門に流れてしまいかねない優秀な人材を引きつけるため、人材の適切な選抜、健康保険や職員向け融資などのリテンション政策、採用計画、後継者育成計画について、行内で改訂するものです。
4. カンボジアの経済の見通しと政策的課題について述べてください
カンボジア経済は過去20年にわたり平均経済成長率7.7%という目覚ましい成長を記録してきました。この素晴らしい実績によってカンボジアは世界銀行から成長のオリンピアンに選ばれました。人々の生活水準は向上を続けており、貧困率は53.2% を超えていた2004年から2012年には17.7%と著しく低下しました。このように持続的な高成長に政治的安定と堅実なマクロ経済政策があいまって、カンボジア経済に対する見通しは非常に明るいものです。IMFを始めとする国際機関は、最近、現下の世界経済が不透明であるにもかかわらず、カンボジアの中期的な経済成長率を平均7%と予測しました。
カンボジアの高成長の道筋を持続させるには、既存の課題と今後生起する課題に適切に対処する必要があります。そのためには、観光、衣料、農業、建設といった現在の成長産業の推進力を主体的に強化する一方で、新しい潜在成長産業の発掘も必要となります。こうした目的を達成するため、次の分野で力を注ぐことが極めて重要なことであると認識しています。それは、インフラ整備、投資促進、人材開発、金融部門の安定・成長であり、これらを必要な構造改革、社会保護政策と併せて進めていくことです。
5. 日本での学生時代、専門や研究上の関心、生活体験について簡単に教えて下さい。
私は2001年から03年にかけての2年間、横浜国立大学のMBAコースで学びました。日本で学ぶための奨学金を得た時、私には外国人学生になるという人生の転機が訪れました。高等教育を受けるとともに、日本のような先進国で新たに素晴らしい生活を体験できることは自分にとって大きなチャンスでした。正直に申し上げると、私は社会経済の発展、外交関係、開発政策の研究に関して個人的に多くの変化を体験してきました。言わせていただければ、科学者と同様、知識は観察から、経験は行動から、専門能力は実践からもたらされると信じています。
日本に行く前、私は大変幸運なことにカンボジア国立銀行総裁のチア・チャント閣下と人事管理担当の総裁補佐Sum Sannisith閣下から招きを受け、直接会うことができました。中央銀行の目標や将来に向け変わりつつある中央銀行の役割について話し合う中で、総裁から私に次のような助言もありました。それは、中央銀行の独立性の重要性、ドル化が非常に進んだカンボジア経済の状況下での金融政策の枠組み、カンボジアがASEAN地域に統合されつつある中での銀行部門の成長の方策に関するものでした。この話し合いに励まされ、私の中で日本で勉強するための自信が湧いてきました。日本では横浜国立大学で経営、経済、リーダーシップについて高度な能力を身に付けることができ、帰国後はこうした能力を有益に活用し、自分のキャリアを進めることができました。
私にとってとりわけ有意義であったのは、自分の研究上の関心事であるマクロ経済運営、金融政策、脱ドル化政策の計画について、特にカンボジアの事例に即し深めることができたことです。日本ではその他に、カンボジアとは異なる新たな文化、人々、場所に出会い、そこで学業以外の社会生活を学ぶことができました。このことによって私は自分の道義心を深め、社会全体についての理解を広げました。
6. 現在のJISPA奨学生と奨学生志望の人たちにメッセージをお願いします。
お元気ですか、私の友人や仲間たち! 私はJISPAの一員であることをとても誇りに思っています。皆さんも世界の先進国経済の1つ、日本で勉強するためのJISPA奨学金を受けることができたのは大変幸運だと思います。このプログラムのおかげで私には3つの貴重な財産ができました。変化する世界についての知識、同窓生のネットワーク、アジア中にいる友人です。本当にJISPA のプログラムから専門的能力とそれにふさわしい洗練された手腕を身に付ける上で多大な恩恵を受け、そのおかげでカンボジアの政策の発展に貢献することができるようになりました。ですから、私はこれから参加されようとしている皆さんにもこのプログラムを是非お薦めしたいと思います。
7. 日本に対するメッセージをお願いします。
この場をお借りして、日本政府、日本の皆様、IMF、先生方、そしてとりわけJISPAに対し心からの感謝の気持ちを表したいと思います。成長途上の国の一職員であった私をこのプログラムに参加させてくれたこと、そして何より私自身、私のキャリア、私の将来をはるかに良いものに、より役立つものに変えてくれたのは皆様です。
日本政府及び日本の皆様に支えられた奨学金のおかげで、カンボジアの国民は日本の社会経済発展の成功体験から学ぶという非常に貴重な機会を得ることができました。発展途上にあるカンボジアにとってこの奨学金から得たものは極めて大きいと、とても感謝しています。カンボジアの国民は日本の支援を決して忘れません。日本政府及び日本の皆様がこれからも引き続きカンボジアに対して変わらぬ貴重なご支援をくださいますよう願っています。
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