JISPAニューズレター第4号に続き、今号はJISPA提携大学4校の教授のインタビューの続編を特集します。各大学の特徴と強み、JISPAの実績に対する見解、将来の奨学生候補者たちへのメッセージ、そして各大学が奨学生に提供している生活環境についても説明します。
同窓生ニュースではラオス中央銀行、ラオス証券取引所事務局局長のヴァサナ・ダラロイ氏のインタビューを掲載し、現在活躍する同窓生のキャリアパスを紹介します。またJISPAオープン・トラック奨学生として横浜国立大学の博士課程プログラムに在籍する、ウズベキスタン国家税務委員会のアシュラフベク・オリモヴ氏のインタビューもお届けします。そして今号では2014年3月から5月までのJISPAの活動もご報告します。
JISPA提携大学4校から座談会に参加した教授は以下のとおりです。
- GRIPS (政策研究大学院大学): ロベルト・レオン・ゴンザレス教授、マクロ政策プログラム (MEP: Macro Economic Policy Program)
- 一橋大学 : 有吉章教授、アジア公共政策プログラム (Asian Public Policy Program: APPP)
- IUJ (国際大学): 小谷浩示教授、 マクロ政策プログラム (Macroeconomic Policy Program:MPP)
- 東京大学 : 西沢利郎教授、公共政策修士・国際プログラム (Master of Public Policy/International Program: MPP/IP)
4. 提携大学はどのような生活環境をJISPA奨学生に提供していますか?
レオン教授 (GRIPS): JISPA奨学生はGRIPSが所有する寮に滞在します。寮には日本人スタッフが常駐しており、病院に行く時など必要に応じて学生を支援します。GRIPSの事務スタッフは全員英語に精通しており、入居から日本での生活ガイダンスまでのサポートを提供します。学内には常駐の看護婦一名のほか、非常勤医師が健康問題の相談に乗っており、必要がある場合には母国に住む奨学生の家族に報告も行います。またGRIPSのスタッフは日本に住む奨学生の家族にも支援を行っています。
小谷教授 (IUJ): JISPA奨学生をはじめとするIUJの学生は様々な国の出身ですが、キャンパス内の寮で生活しており学生間の交流は緊密ですから孤立することはありません。孤立するのは不可能とも言えます。IUJのある浦佐周辺地域の地元住民は外国人留学生とその家族の対応に慣れており、とくに保育園や小学校は留学生の子供たちが入園・入学することに慣れています。ですから家族も通学や生活面で問題を感じることはないでしょう。さらに、けがなど問題が起きた場合には日本人学生1名が留学生1名に付いてサポートを行います。当校は留学生受け入れに30年の経験があることから事務面の対応はテーラーメイドに行われています。
西沢教授 (東京大学): 東京大学はJISPA奨学生向けの寮はありませんが、留学生アドバイザーから家探しのサポートが得られます。また先輩の留学生が新規留学生に大学生活と日常生活のアドバイスを行うという仕組みもあります。東大には優れた言語研修プログラムもありますから、それによっても留学生が日本の生活に適応することがサポートされるでしょう。日本人学生によるチューターや経験豊富な留学生も奨学生をサポートしていますし、もちろん教員も常時学生をサポートしています。
有吉教授 (一橋大学): 当校はJISPA奨学生に大学が所有する寮の部屋を提供しています。寮では留学生は他のプログラムの留学生や日本人学生と交流しながら互いに助け合えます。何度か申したとおりAPPPは小規模なプログラムですから、当校のプログラムマネージャーは奨学生の快適な暮らしのために広範なサポートを提供し、入居をはじめとする様々な問題に対応しています。APPPは英語のプログラムですが、当校は奨学生が日常生活を送りやすくするためにサバイバル日本語コースを設けています。最も重要なことは、同級生同士の相互扶助・相互協力によって奨学生は活発な生活を送り交流活動や休暇中の旅行を計画しています。
5. 上記の通り提携大学ではJISPA奨学生に対してマクロ経済に重点を置いたプログラムを提供していますが、各大学の強みや特徴は様々です。貴校の特徴と強みについてお聞かせ下さい。
レオン教授 (GRIPS): GRIPSの3つの特徴をご説明します。GRIPSの強みは政策立案に携わるリーダーを育成するという明確なビジョンと目的を大学全体が有しているという点です。この目的に沿ったGRIPSの教育には2つの側面があります。技術研修、そして応用と政策立案者とのコミュニケーションを通じたより実務的な課題への取り組みです。JISPAで言えば、こうした2つの側面は強化されています。JISPA奨学生にGRIPSが提供するMEPは、マクロ•ミクロ経済学、計量経済学、金融をはじめとする分野での経済理論の厳密な基礎に基づいています。これらのコースに加え、政策立案に関する経験豊富な教員による応用コースとケーススタディがあります。もう一つの側面は、GRIPSがアジア地域に持つ幅広い同窓生ネットワークです。あらゆる国に「GRIPSファミリー」の一員がいます。最後になりましたが、GRIPSは留学生に最適な環境を提供するということにかけては30年の経験があり、スタッフは全員英語を話します。GRIPSの環境は極めて国際的なのです。
有吉教授 (一橋大学): 一橋大学は社会科学における我が国で最高峰の大学の一つであり、質の高い教員を擁しています。JISPA奨学生が履修する当校のAPPPは、先程から何度か申し上げているとおり大変小規模なプログラムです。大きな大学やプログラムには多様な講義があり、多くの専門性を持つ大人数のスタッフがいます。しかし、当校には小規模なプログラムだけにしか提供できないユニークな利点があります。当校の教育は極めて中身が濃く、各講義の受講生の最大人数はわずか15名程度なので、さまざまな交流ができます。先ほど申した通りプログラムの2年間を通じてアカデミック・アドバイザーが各奨学生に付きます。アドバイザーは修士論文作成から研究方法まで学業上の課題についてガイダンスを与えます。こうした緊密な交流と指導体制により、学生は理論基礎から、応用・出身国への政策インプリケーションの見地まで質の高い論文が書ける環境に置かれます。恐らくプログラム期間中の学生の勉強時間の四分の一から三分の一は論文作成に当てられ、それにより一橋大学における勉強の極みに達すると言えます。他の大規模プログラムと違い当校は沢山の科目を提供せず、経済学のコアとなる科目と経済学の政策立案への応用に関する特定の科目に絞っています。教えるのは当プログラム教員と外部の専門家ですが、その誰もが確固たる理論的背景を有しこの分野で経験を積んだ専門家です。
当校のプログラムは規模が小さいおかげで学生の間には生涯続く強く深い絆が生まれます。こうした国を超えた絆は中央銀行や政府の国際会議では極めて大きなメリットとなります。一橋大学の特徴は学業と経験の濃さと言えるでしょう。
小谷教授 (IUJ): IUJの特徴と強みはその立地にあると言えるでしょう。宿舎をはじめとする全施設はキャンパス内にあります。その結果、学生は教員の一日24時間の予定ですら全て知っているほどです。夜11時、あるいは真夜中でも学生は相談するために私を訪問できます。これは学生がいかに緊密かつ柔軟に教員とコンタクトできるかの一例に過ぎません。さらに、JISPA奨学生の1人から、IUJ留学時は生涯で最も勉強した時間だったと聞いたことがあります。浦佐周辺地域はいわゆる雪国であり、豪雪地帯として有名です。雪が降ると学生にできるのは勉強と交流活動しかなく、こうしたIUJのユニークな環境のおかげで奨学生は勉学に集中できるのです。
教育という見地で見ると、JISPA奨学生は定量分析や解析のスキルに関心を持っています。教員の指導のもとに、奨学生は難易度の高いトピックを選び、質の高い論文を書きます。論文の中には博士課程の水準に到達しているとみなされるものもあります。当然のことながら当校は定量分析と解析のコースを多く用意しています。
西沢教授 (東京大学):東京大学の強みを3つの側面からお話したく思います。まずJISPA奨学生が学ぶMPP/IPの教員は、経済学、法学、政治学のトッププラスの研究者で構成されており、その多くは政府の主要な諮問委員会や、あるいは政府高官として政策立案に携わった人々です。プログラムは学術科目から政策問題まで幅広い科目を提供しています。もう一つの強みは教育スタッフとして多くの外部実務者がおり、より実務的な知識と経験を教えています。3番目の点は、将来、官民いずれかの分野で働きたいと考えている、当研究科に在籍する日本人学生との交流です。JISPA奨学生には、官民両分野で将来キーパーソンとなる可能性がある人々との人脈作りの機会が与えられるのです。
6. JISPAはどの程度目的を達成したとお考えですか?
西沢教授 (東京大学): この20年の歴史を通じてJISPAは大きな成功を収めたと考えています。アジア諸国を訪問すると、どこに行っても政府高官として大きな責務を果たしているJISPA同窓生に出会うことができます。この事実そのものがプログラムの成功を物語っています。
小谷教授 (IUJ): ええ、確かに当校IUJで学んだJISPA同窓生の多くが早いスピードで昇進していると聞きます。
西沢教授 (東京大学): もう1つ。それぞれに強みを持つJISPA提携大学という取り組みのおかげで約600人の奨学生がJISPAプログラムの下で学び、同窓生はアジア地域の主要な政策立案者として域内に広がっています。こうしたことを個別の大学のみで成し遂げることはできなかったでしょう。提携大学が共同して取り組むことで達成され恩恵が生まれたのです。
レオン教授 (GRIPS): 母国でマクロ経済の政策立案の大きな責務を担うJISPA同窓生の例は数多くあります。一例は旧ソ連諸国です。ここではプログラム創設20周年がテーマになっていることから市場経済への移行国を支援するためにJISPAが創設された時のことを振り返ってみると、同窓生は計画経済から市場経済への移行に貢献しました。最近の一例は、2012年に東京で開催されたIMF-世界銀行の年次総会に、多くのJISPA同窓生が来日して母国代表として参加したことです。そのうちの何人かはオープニング•セレモニーでスピーチを行い、日本で得られた勉学の機会に大いなる謝意を表しました。
有吉教授 (一橋大学): JISPAに関与する日本国内の提携大学が限られていることで、奨学制度に一貫性を与え奨学生の強固な人脈作りに寄与します。他の奨学金プログラムの多くは奨学生に学校選択の自由が与えられることから帰属感は希薄になることが多いのです。JISPAは奨学金制度そのものが一貫性と団結を生む数少ない制度であり、大学の同窓生だけでなく奨学金プログラムの同窓生が生まれているのです。
目的ということで言いますと、JISPAの精神は母国でのより良い政策立案に寄与できる人材を育成するというものです。この点について出身組織や国際会議におけるJISPA同窓生の姿を見ますと、こうした目的や狙いは達成されたという感覚を持って良いのではないかと思います。
7. JISPA候補者にメッセージをお願いします。
小谷教授 (IUJ): 伝えたいメッセージはシンプル。日本の発展史に関心があるならJISPAを受けて欲しいというものです。日本と母国の状況を比較することは皆さんの将来、そして皆さんの国に役立つでしょう。
西沢教授 (東京大学): JISPAネットワークに加わって、マクロ経済の専門家となり、JISPAコミュニティの専門家としてのアイデンティティを分かち合おうではありませんか!
有吉教授 (一橋大学): もし皆さんが自分の国、そして国民の福祉を向上させたいと強く望み、この目的を果たすために尽くしたいのであれば、JISPAに応募して下さい。JISPAは容易なものではありません。勉強は大変ですが、必ずその努力は後で報われます。JISPAでの1年、あるいは2年にわたる勉強・研究は、後で振り返れば人生で最高の時間と経験となり、また、生涯にわたる友情も築くことでしょう。日本での生活はとても大切なものになると思います。心積もりをして準備しておいてください。
レオン教授 (GRIPS): JISPAに応募しましょう。強い理論的背景を得て今の政策論議を理解し、政策立案におけるベスト•プラクティスの方法を身につけ、母国の人々と国際社会に寄与する発展と福祉により有効な貢献ができるようになります。JISPAは知識と人的資本を高めるための、有意義で必要な投資です。それを通じて我々は政府職員の業績向上に貢献できるのです。
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