Newsletter
日本-IMFアジア奨学金プログラム・ニューズレター
vol 4. 2014年 3月
当ニューズレターはJISPA創設20周年を記念する2013-14学年度、年4回にわたり、JISPAの最新イベント、同窓生や現在の奨学生に関する特集記事をお届けします。JISPAは日本の大学院で経済学や公共政策関連分野の研究を望む、アジア太平洋地域諸国の経済関連省庁の幹部候補生に奨学金を供与しています。
最新号JISPAのビジョンを共有: アジア地域の未来の政策立案者育成に向けた提携大学のコミットメント
JISPA20周年をテーマとした一連のニューズレターの締め括りとして、今号と次号ではJISPAの提携大学の考え方について特集します。JISPAの特徴について見解を述べると同時に、各大学は政策立案者育成に向けたマクロ経済に焦点を絞った自校のプログラムについても説明します。さらにJISPAの歴史に関連して、GRIPSプログラムについてローズ教授の特別インタビューもお届けします。
同窓生ニュースでは研修プログラムの実現で国際大学(IUJ)と協力したミャンマー中央銀行のチョー・チョー・テイン氏のインタビューも掲載しています。また2012年12月から2014年2月までのJISPAの活動、インドネシア財務省出身の現奨学生レインヌア・アミン氏へのインタビューもお届けします。
座談会の内容はこちら 続く
JISPA提携大学4校から座談会に参加した教授は以下のとおりです。
- GRIPS (政策研究大学院大学): ロベルト・レオン・ゴンザレス教授、マクロ政策プログラム (MEP: Macro Economic Policy Program)
- 一橋大学 : 有吉章教授、アジア公共政策プログラム (Asian Public Policy Program: APPP)
- IUJ (国際大学): 小谷浩示教授、 マクロ政策プログラム (Macroeconomic Policy Program:MPP)
- 東京大学 : 西沢利郎教授、公共政策修士・国際プログラム (Master of Public Policy/International Program: MPP/IP)
1. JISPAのどのような面がその特徴と言えるでしょうか?
有吉教授 (一橋大学): 最初に失礼します。最も大きなファクターは、IMFの関与、そしてアジア地域でIMFが持っているマクロ経済政策関連政府機関との関係とコンタクトです。そのおかげで大学はマクロ政策に関連する主要政府機関より優秀でモチベーションが極めて高い候補者を募集できます。もう一つの重要な側面は日本です。米国、英国、欧州、オーストラリアなど他の先進諸国と比べると日本にはユニークな学習環境があります。アジア域内にある日本はアジア諸国との間に親密で強固な関係を築いています。日本とIMFの組み合わせがJISPAの特徴と言えるでしょう。
西沢教授 (東京大学): JISPAのコンセプトは明確で一貫性があります。また提携大学、奨学生、そして同窓生の間には強いチーム精神があると感じています。我々の誰もがより良いマクロ政策の立案と実行にコミットしているのです。
小谷教授 (IUJ): JISPAの最大の特徴はマクロ政策問題に焦点を絞ったプログラムだという点です。ですから、すでに自国で政策立案の経験を持つJISPA奨学生たちは授業のディスカッションに積極的に参加して議論をリードし、他の学生にもプラスの影響を与えています。IUJでの経験、そこで修得する知識とスキルを通じてJISPA奨学生は優秀な成績を修め、優れた論文を書きます。これもJISPA奨学生を特徴づけるファクターと言えます。
レオン教授 (GRIPS): GRIPSの最大の役割は多分野で将来の政策リーダーを育成することですが、そうした中でもJISPAプログラムは マクロ経済の政策立案に特化しています。当校ではマクロ・ミクロ経済学、計量経済学をはじめとするさまざまな経済学関連科目を必修としています。もう一つの特徴はJISPAの学生採用プロセスの効率性です。IMFとの提携のおかげで、いずれの提携大学でも政策立案に関与した経験を持つ奨学生の受け入れが可能になり、奨学生にとっても、JISPAでの研修の機会を享受できます。IMF-OAPが開催するセミナーやイベントを通じてJISPA奨学生同士の人脈を拡げることも可能です。もちろん、GRIPSも人脈を大切にしていますが、JISPAのおかげで奨学生は他校で学ぶ奨学生との人脈作りの機会も与えられるのです。
2. レオン教授がおっしゃられた通り、JISPAは提携大学間同士の協力で運営されています。こうした協力関係や取り組みについて、そしてJISPAと奨学生にもたらされるメリットについてお話いただけますか?
有吉教授 (一橋大学): 複数の提携大学があることで、JISPAでは個別大学の枠を超えた同窓生ネットワークの形成が可能になります。こうした同窓生ネットワークはアジア地域のマクロ経済政策立案に携わる人々のネットワークという点でユニークなものです。とりわけ、夏期の準備コースであるオリエンテーション・プログラム(OP)では、異なる提携大学で学ぶ奨学生同士が関係を構築して人脈を拡げる機会を提供しています。これらからJISPA奨学生の間では絆や仲間意識が生まれます。留学を終えたJISPA同窓生に対するOAPのフォローアップは、個別大学の人脈を超えてJISPA同窓生が付加価値のある人脈を維持していく上で重要な役割を果たしています。
さらに、面接などの選考過程は全提携大学の協力のもとに行われています。我々は願書に目を通すだけでは分からない候補生のモチベーションを判断するにあたり、選考プロセスにおける面接を非常に重視しています。他の提携大学との協力がなければ当校はアジア地域の全ての国の全候補者と面接することはできません。今ある仕組みは強いモチベーションを持つ候補者を採用するのに極めて有効なのです。
西沢教授 (東京大学): 有吉先生のご指摘にもあった通り、広範な同窓生ネットワーク は非常に有利な点です。特に卒業後10年や20年を経た同窓生も含む全同窓生が相互に検索できるJISPA同窓生ネットワークのサイトは素晴らしいと思います。もう一つの側面は提携大学同士が互いに学び合えるという点です。当校は創立10年で、英語によるプログラムは3年前に創設されました。プログラムが比較的新しいことから他の大学の経験やプログラムを知る機会を得ることは当校にとって大変有用なのです。
小谷教授 (IUJ): IUJは首都圏から離れた新潟県にありますから、JISPA奨学生を対象にしたイベントはIUJで学ぶ奨学生が他校で学ぶ奨学生と知り合い人脈作りをする機会となります。JISPA奨学生はすでに自国でマクロ経済の政策立案に関与した経験を持っていますが、他国の奨学生との関わりを通じて他国の経験を学べるほか、政策実行に関する知識と理解を深められます。これは非常な強みです。
レオン教授 (GRIPS): 皆さんがご指摘されたとおり、人脈作りの機会は非常に重要です。JISPA奨学生は違う大学に入っても互いを良く知っています。 歓迎会や送別会、さまざまなセミナーで会う機会があるからです。こうした機会から生涯続く人脈が築かれます。さらに、奨学生はIMF-OAP主催のセミナーを通じて現実の政策課題を学ぶ機会も与えられます。JISPAの運営は複数の提携大学によって行われていることから、我々は最高のアイデアや良質かつ標準的な慣行を取り入れつつ自校のプログラムの内容を真摯に検討しています。先ほどのお話にあった通り、選考過程で他の大学との協力がなければ当校は全ての国の候補者をカバーできませんでした。他校を受験する候補者を審査したり、逆に当校受験者の選考で他校に審査してもらうのはユニークで興味深い経験です。
有吉教授 (一橋大学): 奨学生の交流という観点から見たプラスの影響について一言加えさせて下さい。他校に友人を持つことには利点があります。たとえば、一橋大学に所属する奨学生は冬休みにIUJの学生を訪問してスキーを楽しんでいます。ご存知の通り浦佐周辺地域は豪雪地帯でスキー場で有名です。逆にIJUの奨学生は一橋大学などで学ぶ首都圏の友人を訪ねて、東京で文化体験したり都会の生活を知ることができます。こうした奨学生の個人レベルでの交流もJISPAの長所でしょう。
3. 提携大学は学業プログラムの質をどのように管理しているのですか?
小谷教授 (IUJ): IUJの場合、プログラムの質確保の観点から大学に迎える新教員の採用プロセスを重視しています。当校には教員と奨学生は同じキャンパスで生活し、緊密に交流するというユニークな環境があります。全教員は様々な出身国のバックグラウンドを持つ奨学生の教育にあたって、親切で柔軟な態度を採り、忍耐強く接するというビジョンを持ってそれを実践しているほか、最高の質の研究を行うことが求められています。また教員の指導方法について学生が評価し、フィードバックを与える仕組みがあるので、教員は最大限の努力をします。履修カリキュラムの策定にあたっては、数年前にあったOAPの入札要望に応えて当校では金融関連の講座を強化しました。JSPA奨学生が履修するIUJのMPPでは、コアとなる経済学関連の講座に加えて金融と日本のマクロ経済に関する講座が設置されています。
レオン教授 (GRIPS): 当校GRIPSは内部評価および外部評価を通じて学業プログラムの質確保に真摯に取り組んでいます。内部評価プロセスでは、定量•定性の両面から奨学生による評価が行われています。教員は同僚の講義を聴講して互いに学び合い、フィードバックするよう奨励されているほか、当校は運営陣とIMFに対しプログラム強化に向けた方策についての年次報告書も提出しています。また1年に2回、JISPA奨学生と会合の機会を設けて意見交換をしています。
さらに履修プログラムを評価するために外部評価が定期的に行われています。今年は外部の国際諮問委員会が開催され、国際的なベスト・プラクティスという観点から履修カリキュラムの評価が行われる予定です。
有吉教授 (一橋大学): 当校のプログラムAPPPの目的は、出身国の健全で持続可能な経済成長に貢献できるマクロ経済の政策立案者となりうるエコノミストの養成です。この目的の実現に向けて、強固な経済学の理論的背景を持ち経験豊かな政策立案者でもある全教員スタッフは、こうしたレベルに奨学生を導いていくために注力すべき分野を熟知しています。目標の実現には学生側の多大な努力が求められます。学生の学業上の背景や職歴は多様なので、必修科目での弱点に対応するため当校では数学コースを提供したりティーチングアシスタントを手配する等の教育支援も行っています。
さらに、これは小規模プログラムの利点ですが、プログラムの全2年間を通じ、当校は学生1人に1名の教員を付けて中身の濃い学業サポートを行っています。1名の教員には最大で4人の学生があてがわれ、週1度のゼミやそれ以外のミーティングも行われます。政策立案者としてのキャリアを成功する基盤となるスキルを身につけて卒業できるよう、当プログラムの教員は奨学生を注意深く見守りながら相談に乗っています。
西沢教授 (東京大学): 当校ではプログラムの質を管理するのに学生からのフィードバックを最も有効なツールとして分析します。たとえば、学生は学期ごとに「最高の教員賞」の投票を行います。また学業の質確保だけでなく実務者向けに価値あるコースを提供するため、職業専門学校として当校は政策立案者や高官を招いて政策立案者養成に向けた講義を行っています。履修カリキュラムの開発に関して申しますと、当校のカリキュラムは将来の政策立案者育成を重視した理論、応用、ケーススタディを提供しています。
インタビューの続編は2014年6月に発行予定の次号に掲載されます。次号では各大学の特徴と強み、JISPAの実績に対する大学側の見方、JISPA候補者へのメッセージ、奨学生に提供される大学の生活環境などに触れます。
ローズ教授特別インタビュー
GRIPSにおけるJISPAの変遷
長年にわたりJISPAへ支援を行い、ご経験を積まれたジェームズ・ローズ教授(GRIPS学長顧問兼経済学名誉教授)による、JISPAの歴史とGRIPSにおけるプログラム関するインタビューをお届けします。
続く
日本-IMFアジア奨学金プログラム (JISPA)に関わられて20年になります。JISPAの歴史と発展について簡単に説明し、ローズ教授のプログラムとの関わりとご経験についてお話し下さい。
私は1988年にGRIPSの前身である埼玉大学大学院政策科学研究科(GSPS)に参りました。日本-IMFアジア奨学金プログラム (JISPA)には1993年の埼玉大学での創設からずっと関わり、創設以来20年余に起きたプログラムの劇的変化に立ち会ってきました。こうした変化は主にアジア経済とグローバル経済の変化を反映し、その発展に伴いGSPS/GRIPSにおけるJISPAプログラムの名称と構造も変化しました。
移行経済プログラム (1993-2010)とJISPAの拡大 (2001)
JISPAが創設された契機は1991年末のソ連崩壊です。ソ連邦参加国の経済の特徴だった国家計画経済と管理の旧いシステムは機能不全に陥っており、市場原理に立脚したシステムへの移行の必要性が広く認識されていました。移行経済プログラム (TEP)がこうした新たな情勢に対応するために創設されました。
1993年に開設されたTEPの第一期生にはアジア7ヶ国出身のわずか7人の学生しかいませんでした。こうした先駆者の学生とスポンサーは共に大きな困難に直面していました。まず第一に、学生の共通言語は英語ではなくロシア語でした。当時、1年のプログラムで修士の学位を授与することができなかったため、初期の学生には修了証書のみ授与されました。現場でも多くの実務問題を乗り越える必要がありました。外国人留学生は日常生活のほぼ全ての側面で助けを必要としていました。一例として、全てのJISPA留学生に大学寮が提供されたわけではなく、適当な住まいを見つけるのは容易ではありませんでした。次第にJISPAプログラムに参画する国と学生の数が増えるにつれ、実務上のさまざまな問題は減っていきました。
初期には教えることにも大変な困難が伴いました。初期のTEPの学生は最も基本的な経済学の基礎概念すら知りませんでした。マーケットを一度も経験したことのない学生にどうやってその概念を説明したらいいのでしょう? TEPの初期の学生は市場経済について教室の授業からよりむしろロヂャースやダイクマといったディスカウントストアの訪問から学んだと言うのがフェアでしょう。伝統的な大学教育で訓練を受けた教員の私のような者が、市場に基づく経済システムを形成するのに必要な機関の創設について何が教えられるでしょう? 私が米国で受けた従来の教育ではそうした機関の存在は所与のものでした。ですからTEPの当時のパンフレットをめくってみると、GSPSの教員の大半はPdDを持つエコノミストではなかったことが分かります。当時のGSPSの運営陣は、移行経済が直面している問題に鑑みて市場に基づく機関の創設に際しては、現場の経験を持つ実務者が必要だと確信していたのです。当時の運営陣は日本の発展のプロセスが他のアジア諸国にとって貴重な道標になると考えていたのでした。
1997年のアジア金融危機に呼応して、危機に最も晒された国の支援に向けてJISPAには大きな構造変化が起きました。2001年にプログラムは提携大学4校に拡大され、JISPAとしての統一性を保ちつつも留学候補者には学校選択の自由が与えられるようになりました。同時に対象国と学生数も増えました。提携大学とのより円滑なコーディネーションのため、JISPAの運営機能はワシントンに拠点を置くIMF研修所(現IMF能力開発局)から東京に拠点を置くIMFアジア太平洋地域事務所(OAP) に移管されました。このような取り組みを私は評価していますし、提携大学やIMF-OAPと協力できることを嬉しく思っています。
アジア太平洋地域諸機関の能力開発 (2009年〜)、アジア経済政策プログラム(2010年〜2011年)
JISPA創設以来、アジア諸国は経済パフォーマンス、またマクロ経済政策の運営において着実な進展を見せました。次第にTEPは時代錯誤に見えるようになり、それはある意味、自身の成功の犠牲者だったと言えます。とはいえ、プログラムには存続すべきいくつかの理由がありました。アジア金融危機(1997年)とグローバル金融危機(2007年〜8年)により、多くのエコノミストと政策立案者は地域と世界レベルでのマクロ経済政策の政策協調強化の必要性を強く認識するようになりました。市場を強化する機関の発展と向上だけでは不十分なことも明らかになりました。その結果、2009年にJISPAの重点分野はアジア太平洋地域の諸機関の能力開発に移りました。GRIPSにおけるJISPAプログラムの名称は、2010年に「アジア経済政策プログラム」(AEPP)に代わり、しばらく前から進められていたプログラムの方向転換をより忠実に反映するものとなりました。この名称は、実効性を伴う政策立案には現地の政治と社会状況についての極めて多大な知識が必要だというGRIPSの基本原則を示唆するものでもあります。
マクロ経済政策プログラム (2011年〜現在)
2011年にはJISPA提携大学入札事業に呼応して GRIPSにおけるJISPAプログラムの大きな再編が行われました。IMF-OAPが実施した入札プロセスは、JISPAがよりマクロ経済重視に移行していることを明確にしました。GRIPSでは、1年制あるいは2年制の「マクロ経済政策プログラム」(MPP)を創設しました。2011年プログラムの4本の柱は、マクロ経済学、ミクロ経済学、金融経済および計量経済学です。その後若干変更が加えられたこの新たな構造はGRIPS の教員構成の抜本的変化を映し出しています。GRIPSの経済学関連の教員は質量ともに劇的に増強されました。今や新たなプログラムの中核的要素は先進諸国の一流経済機関のプログラムと極めて類似しています。新たな構造は、経済の原則は普遍的だということに加え、伝統的な経済学の教育が可能であり、それを行うことが望ましい段階までアジア経済が発展したことを反映していると言えるでしょう。とはいえGRIPSは、多様な選択科目の形でJISPA奨学生に経験豊富な実務家と経済開発問題の専門家から実地の知識とスキルを得る機会を提供しています。
JISPAにおける私の役割も次第に変化しました。最近まで私はマクロ経済学と金融経済学を教える最も主要な教員でした。2011年以来、私はGRIPSにおけるJISPAプログラムの上級顧問です。また最近はGRIPSの国際関係、プロモーション活動にも携わっています。こうした役職の一環で私はアジア全域を広く訪れ、多くのJISPA同窓生と会うとともに、若手職員をJISPA提携大学に派遣する役割を担う政府高官と話をしてきました。JISPA同窓生の大半が重要な政策立案の役職に就いて優秀な仕事をしていると報告できることを嬉しく思います。会った同窓生は誰もが日本政府とIMF-OAPによって提供された素晴らしい機会に大きく感謝していており、彼らの上司も同窓生が抱くJISPAへの熱意を共有しています。この重要なプログラムにおいて微力ながら役割を与えられ、それを果たせたことに私自身、今後も感謝し続けることと思います。
JISPA ニュース
JISPA セミナー
2013年12月3日、IMF財政局(FAD)のマーチン・ゲルギル副局長によって「財政ルールの機能と課題」と題したJISPAセミナーが開かれました。ゲルギル副局長は財政ルールの特徴とその直近の動向について説明したほか、財政ルール導入に関連した新たな課題にも触れました。講演後には質疑応答セッションが設けられ、奨学生たちから自国での政策インプリケーションについての質問がありました。 続く
JISPAセミナーに対する奨学生のコメント: 2013年12月3日にIMF財政局のゲルギル副局長が行った政策立案における財政ルールの重要性を強調した講演は示唆に富むものでした。財政ルールに関するこうしたタイムリーなディスカッションに参加できたことはIMF奨学生の特権だと思います。財政ルールは財政の統計数値に上限を設けることで過剰支出を抑制するとともに、財政面の耐久力と債務の持続可能性の確保を狙うものです。財政ルールには債務、予算バランス、支出、収入の4カテゴリーがあります。IMF財政局によれば、財政ルールがある国の大半には予算均衡ルールあるいは/または債務ルールがありました。そうした国の大半は、「支出と債務のルール」、「支出と予算均衡ルール」、あるいは「債務と予算均衡ルール」の組み合わせを採用しています。ゲルギル副局長がプレゼンテーションで強調されたように、財政ルールは、歳入・支出の構成よりも財政総体に対する関心を高めることで財政政策の質を低下させることにもつながる可能性があります。
IMFで2013年12月4日に行われた「財政モニター:税制改革」において、ゲルギル副局長は経済成長に優しい租税に焦点を充て、最も歪みが少ない租税は不動産税なのに大半の先進諸国は不動産税への依存が比較的低く、所得税、付加価値税、法人税といった経済を歪める度合いがより高い税収源に依存している点を強調されました。不動産市場が底堅ければ、不動産税は先進諸国そして多くの発展途上国で主要な税収源になり得るのです。またゲルギル副局長はそれとは別に国際的な租税問題にも触れました。たとえば所得税については歪みを大きくし課税基盤を小さくする取り組みを多くの国が行っているが、法人税と付加価値税に関して行う国はほとんどありません。貧困層に対するセーフガード政策を採りつつ付加価値税の課税基盤を拡大することは経済の効率性に考えれば最も優先順位が高い課題です。新興諸国や低所得国では極めて大きな税収を生む余地があるタックス•コンプライアンスの推進は至難の技です。先進国と新興国のいずれでも、税収拡大のためのコンプライアンスと政策の間のギャップは極めて大きくなっており、こうしたギャップを埋めるための迅速な行動が求められます。先進国では税収増の余地が限られていることから、財政調整は支出削減に大きく依存しています。先進国では不動産の課税強化によって所得分布上位の集団からの税収を増やす余地が依然としてあります。新興諸国や低所得国では税収源は法人税に偏っていますが、法人税による税収は金融危機に極めて脆弱です。税改革が不可欠なこれらの国では国際的な税構造に対する取り組みが遅れています。ところが、いくら最高の設計に基づく税制と最も適合性の高い財政ルールがあっても、不安定な政治がそれらを台無してしまう可能性があります。ですから、最高の結果を生むためには財政調整には政治の安定が必要なのです。
(モハンマド・イマム・フセイン氏、2012年〜14年、東京大学、バングラデシュ銀行)
ハイレベル・カンファレンス: 第1回AMRO-IMF 共同セミナーが2014年1月23日に東京で開催されました。第1セッションではJISPA同窓生であるカンボジア経済財務省のングン・ソカ長官がASEAN+3地域における現地通貨の使用促進に関するプレゼンテーションを行いました。
OAP主催セミナー: アジア太平洋地域事務所(OAP)はさまざまなセミナーを開催し、JISPA奨学生が招かれました。2013年12月4日にゲルギル副局長を基調講演者に迎えてFADとOAP共同の「財政モニター:税制改革」が開催されました。2014年12月19日にはIMF戦略政策審査局(SPR)のタミム・バユーミ副局長による「グローバル政策アジェンダ」のプレゼンテーションが行われました。1月22日にはOAPによるカントリー・セミナー・シリーズの一環として、IMFアジア太平洋局(APD)のマット・デイビス副局長兼ミャンマー・ミッション長による「ミャンマーの経済変化:機会と課題」と題するセミナーが開催されました。
上記のセミナーに加え、JISPA奨学生は2014年1月23日〜24日に一橋大学とOAPが共催した「非伝統的金融政策と展望」と題するハイレベル・セミナーに招かれました。セミナーでは著名な大学関係者と官民セクターのエコノミストが一同に会しました。奨学生にとっては、このテーマにおける参加国の経験と政策論議について学び、こうしたタイムリーなトピックへの理解を深める絶好の機会となりました。
同窓生ニュース
JIPPA奨学生の皆さんはその知識とスキルを使って母国で必要な計画を実行できます。
チョー・チョー・テイン氏は2013年12月から政策研究、国際関係及び研修局のASEAN部門主席研究員としてミャンマー中央銀行で働いています。チョー・チョー氏は2005年-07年のJISPA奨学生で国際大学(IUJ)を卒業しました。インタビューはこちらです。
続く
1. JISPA修了後の経歴を簡単にご紹介下さい。JISPAの体験はキャリア形成にどのように役立ちましたか?
JISPA卒業後、ASEANおよびASEAN+3財務相会議を担当していますが、今のポジションを得るのに意欲的に多くの業務とプログラムをこなしてきました。JISPAに参加したことはアジア地域諸国との協力や調整を行う私の仕事にプラスの影響を及ぼしています。JISPAの体験をテコに私は自分自身のキャリア開発に今まで以上に自信を持つようになりました。
2. 日本に関係がある仕事やアジア地域の協力関係の仕事をされたことがありますか?その場合にはその仕事の内容と、あるいはそれがどんな経験だったかをお話下さい。
ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)への出向前、私はミャンマー中央銀行(CBM)の政策研究、国際関係及び研修局の主任研究員でした。担当はASEAN とASEAN +3の金融プロセスで、局内のさまざまな戦略イニシアティブに関与しました。CBM首脳向けの政策評価と提言、ASEAN、SEACEN、IMFなどの地域・国際組織とのより緊密な関係構築や協力などに携わりました。
3. 今のお仕事の内容と課題について(もしあれば)お話し下さい。
シンガポールのAMROに出向中、途上国経済、および地域• 世界の金融市場発展のモニタリングのプロセスについて学びました。AMROのモニタリングと監督能力強化に向けたさまざまなレベルの金融政策や外交政策の策定、金融機関の健全性とその監督、データの適合性にも関心を持ちました。AMROの経験は、これらの問題に自信を持って取り組むのに役立つだろうと思います。
私は金融の発展に関する改革の推進を目的とした、韓国企画財政部および韓国発展研究院主催の2012年金融統合プロジェクトにも参加したほか、「アジアの地域・グローバル・ガバナンス(MRGG)を統括する:ASEAN経済共同体の機会と課題」というワークショップにも参加しました。私にとって良い経験だっただけでなく、私の関与を通じてミャンマーにとっても良い経験になったと思います。
AMROの出向からCBMに戻ると、ちょうどその時はミャンマーが2014年のASEAN議長国となる時期でした。ですから、私の今の役目は議長国としてASEANとASSEAN+3の財務相会議、中央銀行総裁会議、次官級会議、局長級会議、その他関連会議の成功に取り組むことです。またCBMの独立機関への移行に伴い金融改革のアジェンダが実行されれば、私の所属部署の仕事の範囲は拡大する予定です。2014年の私の主な機会と課題はこのようなものです。仕事が成功し熱意が報われるよう願っています。
4. ミャンマーの経済見通しと政策課題について教えて下さい。
ミャンマーの経済見通しとその政策課題は「新たな経済改革アジェンダ」に記されています。政治と経済の改革の一環として政府は経済発展を図っているほか、外国からの投資誘致に全力を挙げています。ミャンマーは天然資源が豊かな国でその輸出によって資金が得られるほか、未来の経済成長のエンジンとなるべき貿易部門もあります。とはいえミャンマーは農業への依存度も高く依然として民間部門が弱体ですから、経済成長は低い水準にとどまる可能性もあります。
こうしたことから、良好なビジネス環境を作り、民間部門の雇用創出を強化するためには投資法の改正が必要ですし、特別経済区の創設によって通商の制約を取り除き、外国人投資家との交流を促進する必要があります。また政府は関係者にとってより透明で競争力のある政策を導入していく方針を発表しました。さらに政府は交通と通信の分野で財務的に健全かつ社会的便益の大きな投資を促進するためのインフラ開発に着手しました。外国銀行の営業をはじめとする銀行制度の強化も進んでいます。健全で効率的な銀行制度を創設し、現金ベースから銀行ベースの経済に移行することがミャンマーの課題です。ミャンマーは自国の金融サービス部門をASEAN地域に開放し、それらをASEAN適格銀行(QABs)にしようとしています。これらの改革を国の政策がサポートする必要があります。
今後、ミャンマーはアジア地域の平和と安定の維持と、国際社会の懸念事項となっている共通の問題に今以上の寄与ができるでしょう。
5. チョー・チョー氏はご自身が卒業生でもあるIUJと緊密な関係にあり、ミャンマー中央銀行の職員のための研修プログラムを組織されました。どのようにこうしたプログラムが生まれたかを教えて下さい。また大学と協力してどのようにプログラム内容を作り上げたのかを簡単にご説明下さい。
IUJのプログラムによって研修生のマクロ経済策定実行能力が強化 されると確信しています。IUJとミャンマー中央銀行は2012年と2013年、研修プログラムの策定に向けて緊密に協力しました。さらに実効性のある金融政策手段とマクロ経済モニタリング・プロセスに関するプログラムのリサーチも続けています。今日のIUJは他の外国の大学や関係者とも協力関係を構築しながら前進を続けています。
6. 日本での学生時代、専門や研究上の関心、生活体験など、学生時代のことを簡単に教えて下さい。
IUJへの留学は8年以上前になりますが、私は新興国や途上国の学生と親しくしており、経済学、金融政策、銀行政策、財政政策などの関連科目を共に学びました。私たちは猛勉強しましたが、学生同士の交流も思い出になっています。留学中の友人、先生、大学スタッフたちのことは良い思い出です。日本での生活は素晴らしいものでした。
IUJでは、現在、研究分野における他大学との協力に基づく能力開発活動や、現実の政策問題に対する研究の応用についての意見交換といった活動に取り組んでいます。IUJを卒業して以来、私は自国経済が求める能力の高みに達して人材と所属組織のインフラを強化するために、自分の知識を高める勉強を続ける機会を模索し続けています。
7. 現在のJISPA奨学生と奨学生志望の人たちにメッセージをお願いします。
JIPPA奨学生の皆さんはその知識とスキルを使って母国で必要な計画を実行できます。またそれによって母国で優れた政策の策定と実行の能力が高まると私は思います。
8. JIPPA奨学生の皆さんはその知識とスキルを使って母国で必要な計画を実行できます。またそれによって母国で優れた政策の策定と実行の能力が高まると私は思います。
私はいつでも最大限の努力をしてきました。JISPAと日本政府の私へのサポート、そしてミャンマーの改革アジェンダに対する支援に感謝します。日本での生活をこれからもずっと懐かしく思い出すことでしょう。
9. それ以外に伝えたいメッセージがあればお願いします。
全ての先生、友人たち、JISPA奨学生の皆様、いただいたご恩は一生忘れません。
現在、留学中のJISPA奨学生
日本留学によって得た貴重な知識、スキル、経験を基に、インドネシア国税総局ではより良い税制のために今以上に貢献したいと願っています。
インドネシア財務省出身のレイヌル・アミン氏は2012-14学年度の奨学生で、一橋大学アジア公共政策プログラムで学んでいます。アミン氏は日本国内を旅行したりスポーツをすることが好きです。アミン氏にインタビューしました。 続く
1. 日本に留学する前の職務内容について教えて下さい。
JISPA奨学生は中央銀行出身者が多いのですが、私は財務省、正確には国税庁出身ですから、バックグランドが少し違うかもしれません。2001年に財務省国税総局(DGT)に入局し、税務管理から税務監査までさまざまな仕事に就いてきました。2008年に初めて本局で税に関する政策立案の仕事をしました。当時は自由貿易地域における付加価値税インセンティブや外国人観光客に対する付加価値税還付といった付加価値税関連の仕事に関与していました。この経験を通じて租税政策で大きな意思決定が下されるプロセスについての知識を深められました。またインドネシアにおける付加価値税の制度改善のための部署に配属されていたこともあります。
2. 日本で勉強しようと思ったきっかけは何ですか?また、JISPAへの応募動機は何ですか?
自身の価値を高めるための高等教育を受けることを、常に大切な機会と捉えてきました。日本留学は高校生の時以来の個人的目標でした。どうして日本かというと、私にとって日本はイノベーションと完璧を目指す国であり、日本がどのようにアジア初の先進国、世界第二の経済大国となったかを知りたかったからです。わずか40年足らずで日本は変革に成功して世界の「ビッグ・プレーヤー」の1国になったのです。
3. 何を勉強していますか?
一橋大学ではマクロ・ミクロ経済学、公共経済学、国際貿易・金融を学びました。経済に関するこうした基礎知識のおかげで、特定の政策がどのように国の経済全体に波及するかということについて今後はより広範な理解が得られれるようになるでしょう。さらに、一橋大学ではさまざまな経歴を持つ専門家による世界経済の現状に関するセミナーが行われています。こうしたセミナーは私自身の知識をより深め、現実の世界で経済理論がどのように機能するかを理解するのにとても役に立つと思いました。終わりになりましたが、計量経済学とデータ処理に関する知識からは、研究・分析手法についての洞察を得ることができました。
4. 日本での体験話(楽しかった/悲しかった/驚いた/感動した、から好きなエピソードをひとつ)
お恥ずかしいのですが、1度ならず3度も同じような経験をしました。ここでお話してしまいますと、私は電車に3度も物を忘れてしまったのです。1度は東西線でwifiルーターを忘れてしまいましたが、一週間後、幸いにも戻ってきました。2度目は奈良・京都旅行の最中に電車にカメラを忘れましたが、その時も4時間後には大阪駅で取り戻すことができました。そして私は(またしても!)中央線でwifiルーターを忘れてしまったのですが、それは同日中に手元に戻ってきました。つまり私が申し上げたいのは、日本はとても安全な国だということです。最初の経験で私は驚き、二度目の経験では感動し、三度目の経験では目が眩むほど感嘆しました。
5. JISPA関連の体験話・感想(Orientation Program、セミナーやIMF/OAPエコノミストとの交流イベント等)をお願いします。
私の日本滞在においてIUJでのオリエンテーション•プログラムは最も忘れがたい時間の1つでした。このプログラムのおかげで経済学に関する知識をリフレッシュできました。のみならず、このプログラムのおかげで全く新しい環境、生活、文化、伝統などへの「順応」ができるようになりました。IUJがある浦佐の静かで落ち着いた環境の下、3ヶ月近くを日本人をはじめとした各国出身者と過ごすことにより、他の人の文化と振る舞いを尊重することを学べました。真剣な勉強、活発な議論、スポーツから交流(国際大学の週末が懐かしいです!!!)まで多くが仲間と共に行われました。さらに、より大事なのはオリエンテーション•プログラム修了後も、関係が続いているということです。将来、私たちが国を代表するようになったとき、こうした絆が役に立つことを願っていますし確信しています。
6. JISPAで学んだことを将来どのように本国での業務に活かしたいですか。
日本留学によって得た貴重な知識、スキル、経験は、政策とそのインプリケーションの波及や、それが日常の実体経済に及ぼすさまざまな影響について理解を深めるのに役立ちました。これらを基に、インドネシア国税総局ではより良い税制のために今以上に貢献したいと願っています。さらに他のアジア諸国出身のJISPA奨学生と協力した経験により、多様な文化的背景の理解力がついたことから、そうした経験は必ずや私自身の将来のキャリアに役に立つものと思います。
7. 将来の夢、キャリアビジョンは何ですか?
日本留学後は、所属組織内でより上級の管理職に就くことが目標の1つです。国際機関勤務の機会を得ることももう一つの夢です。それが実現することを願っています。
8. 好きな言葉は何ですか?
「最善を尽くし、最悪に備えよ」
9. 日本へのメッセージ
「日本精神」万歳!!
10. 他に伝えたいことはありますか?
ここでの生活と勉学の機会を与えてくれた日本とJISPAに深く感謝します。「どうもありがとうございました!」
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JISPAセミナー:「財政ルールの機能と課題」
2013年12月3日、東京
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JISPAは日本政府の支援を受けてIMFアジア太平洋地域事務所(OAP)が運営している奨学金制度です。