1. JISPA修了後の経歴を簡単にご紹介下さい。JISPAの体験はキャリア形成にどのように役立ちましたか?
2008年にJISPAを修了した後、ガスプロムネフチのチームへの参画を任じられ、非現金支払いの全く新たな企業システムをキルギスの市場へ導入する業務に携わりました。分析スキルと統計手法の知識は大半がJISPAで身に付けたものですが、そのおかげで、チームの価値ある一員となることができ、そこでは市場を分析し、売上を予測し、売上目標を設定し、ガスプロムネフチのモスクワのオフィスへの報告書を作成する業務に従事しました。1年間の業務の後、部門長に指名されました。実際のところ、JISPAのおかげで、必要な資質を身に付けて新しい領域を切り拓くことができ、公共政策や、国際的な開発や経済のような異なる分野の異なる地位に対する競争力のある候補者となることができました。その結果、2011年には、国際ビジネス会議(IBC)の事務局長に選出されました。これは、我が国の高額納税者をまとめ上げるビジネス団体です。IBCの使命は、キルギス共和国の経済開発を支援することであり、政府と民間部門の橋渡し的な役割を果たしています。そのため、民間部門の職務ではありますが、我が国の経済発展という共通の目標に向かって、政府や国際的な開発パートナーと緊密に連携して業務に取り組んでいます。
2. 日本に関連する仕事や地域協力に関する仕事をされたことがありますか?その場合の仕事内容と、それがどのような経験だったかをお話下さい。
IBCの事務局長として、民間部門や政府だけでなく、我が国の開発パートナーや外交機関とも密接に連携しています。例えば、在キルギス共和国日本国大使館や国際協力機構(JICA)のキルギス共和国事務所とも緊密に連携してきましたし、今もそうしています。2011年には、キルギスタンにおける経済開発と投資に関する第2回日本・キルギスシンポジウムに積極的に関わりました。このイベントは、日本とキルギスタンの間の貿易関係の発展を促進するとともに、キルギスタンへの投資を誘致することを目的として、日本国大使館が企画したものでした。我々は、レアメタル、ハーブ、飲料水部門など、協力の可能性のある分野について協議しました。2013年からは、JICAの「キルギス共和国におけるビジネス団体の強化」と題する、国に特化した研修コースに参画しました。このプロジェクトの全体目標は、キルギスタンの経済発展を減速させている現実の問題を解決するために政府と企業との間で持続可能な対話を確立し、成功裏に実施していくことです。そのためには、企業団体と経済省のスタッフの能力を強化することが必要になります。この研修プログラムには3つの常設の機関があり、私が事務局長を務めるIBCもその1つです。これまでに日本への出張が一度あり、同僚を一人派遣して参加させました。共同の活動の大半はキルギスタンのためのものです。日本の研修プログラムには、経済産業省、中小企業庁、日本貿易振興機構、ロシアNIS貿易会、日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本商工会議所、中小企業基盤整備機構のような様々な機関や研究所やシンクタンクの会合や研修が含まれています。
米国国際開発庁の「地域貿易の自由化と関税改革」プロジェクトに参画しました。我々のチームは、キルギスタンと近隣諸国間の貿易について研究を行いました。2010年に我が国で起こったできごと(キルギス騒乱)の後、これはとても慎重に対応すべき課題になりました。我々が主催した一連の研究会や討論会で政府に対する提言を行い、貿易に関連する諸問題を緩和することを試みました。
2012年には、高い能力を持つ専門家のチームを率いて、プログラム立案の出発点としてキルギスタンの鉱業部門の部門別概観を行いました。これは、ドイツ国際協力公社が行う「中央アジアにおける開発のための鉱物資源(MRD)」プログラムのアジェンダのすべてのテーマをカバーするものでした。このプログラムの目的は、現在の鉱業部門をキルギス共和国における持続可能な開発の推進力として発展させるために、諸条件を改善することでした。分析の目的は、鉱業会社がキルギスにおいて鉱物資源の生産を行う、あるいは生産を開始する能力や準備に悪影響を与える具体的な障害やかい離を明確にすることでした。このプロジェクトの一環として、視察旅行に参加しましたが、これはカザフスタン、キルギスタン、タジキスタンの各国とドイツの鉱業界との間の地域的なネットワークと知見の交流を確立し、強化することを目指したものでした。私は研究の成果をキルギスタン、カザフスタンとドイツで開催した会議で報告しました。
2011年と2012年には、欧州委員会の資金による「キルギスタンと中央アジアにおける持続可能な経済発展のためのビジネス仲介機関(BIOs)の強化」と題するプロジェクトを統括しました。このプロジェクトは、アムステルダムに本部のある環境とアグリツーリズムのための欧州センター(ECEAT)、タジク旅行業協会、キルギス旅行業協会とキルギス地域主体観光協会のパートナーシップで遂行されました。我々の活動は、世界観光機関(UNWTO)、カザフスタン観光協会とカザフスタンホテル・レストラン協会の支援を受けました。この業務の成果には、以下のようなものがありました。
- 「キルギスタン観光促進開発理事会」という公的基金を創設しました。これは、キルギスタンの主要な観光ビジネス仲介機関を結びつけています。また、個々の経済的領域における優先課題を特定するのを支援し、ひいては公共と民間のより円滑で生産的な対話を促進する基盤としての役割を果たします。
- キルギス共和国の観光のためのロゴとスローガンを創出しました。
- 中央アジア観光協会(CATA)を設立しました。この協会の主要な目標は、旅行や観光に関連する法的、経済的または技術的課題について、とりわけ消費者により良いサービスを提供できる見込みのある課題について調査を行うことです。
- 「中央アジアにおける観光部門の協調的発展に向けて」と題する中央アジア観光会議の初回の会議を主催しました。
私が参加した地域協力のもう1つの事例は、米国における社会起業家精神の増大とイノベーションがいかに社会的、環境的変化を牽引できるかを調査したプログラムで、これは米国国務省のインターナショナル・ビジター・プログラムが主催するものでした。このプロジェクトでは、社会的起業家精神の理念とともに、市民参加とイノベーションを支援する政府のイニシアチブに重点を置いていました。社会的起業家精神の成功モデルの調査を通じて、社会問題を解決するためにコミュニティに取り組むベンチャー企業を組織し、創出し、経営するために市場に基づく解決策を適用する新しいアイディアを探求しました。
写真左側:ババノフ・オムルベク首相(当時)
IBCオープン会合 "Legal Aspects Restraining the Development of Mining Industry"
キルギス共和国、ビシュケク 2012年6月
3. 現在国際ビジネス会議の事務局長を務めていらっしゃいますが、現在直面する難問等(もしあれば)に触れながら、事務局長としての職務の概要についてお話しいただけますか?
IBC は、キルギス共和国における先導的ビジネス団体の1つで、我が国の公共と民間の対話において積極的な役割を果たしています。事務局長としての職務は、チームを率いて以下の4つの主要な活動を行うことです。
- 擁護: 立法と公的活動に積極的に参加することを通じて、正当なビジネスの利益を保護し、キルギス共和国を魅力的な投資先にすることに貢献します。
- リーダーシップ: アイディアを結びつけたり広げたりしながら、我が国の開発の最も重要な側面に関する新しい方法と取組み方策を考え出します。
- 研究: 我が国の経済開発の現状と将来展望について、独立した研究を日常的に遂行します。
- 情報: 定期刊行物によって、我が国のビジネス環境と投資環境に関する最新の進展について、ビジネス界、政府職員、一般の人々が認識をさらに深めるのに寄与します。
毎日が私にとって大きなチャレンジです。というのは、我が国の経済成長に関わるあらゆる利害関係者と集中的で継続的な対話を行っているからです。すなわち、キルギス共和国の政府と議会、ビジネス界、国際的な開発パートナーと金融機関、国内や世界のNGO、マスメディア、地域コミュニティと地元の当局者です。これは、ビジネス界の問題を提起し、鉱業、小規模融資、建設やその他の経済部門における利害の対立の影響を最も受けやすい課題に取り組むという一貫した骨の折れる業務であることを意味しています。私は、様々なレベルの15を超えるワーキンググループのメンバーになっていますが、これには「持続的発展のための国民評議会」も含まれています。これは、大統領が議長を務め、議会議長、首相、政党の党首など23名からなる評議会ですが、私はビジネス部門を代表する2名の委員のうちの1人です。ほとんどのワーキンググループは、首相か経済大臣が議長を務め、積極的な参加とたゆまぬ取組みが求められています。そうすることで、当局に影響を与え、既存のビジネスを成長させ、新しい投資家を誘致するためのビジネス環境を確実に改善させ、その結果として、我が国の社会経済的な開発を促進することを目指しているのです。もう1つの難題は、私がビジネスの規制枠組みに関する独立した専門家としての役割を担っていることであり、その結果、国内の報道機関には毎日のように顔を出すことが必要になっていることです。
写真右側:テミール・サリエフ経済相
IBCオープン会合 "National Development: Vision of Business Community"
キルギス共和国、ビシュケク 2014年4月
4. キルギス共和国の経済の見通しと政策的課題について教えてください。
私はここで、キルギス共和国の経済の状況を表す数字をお示ししようとは思いません(誰でもインターネットを見ればわかるからです)。むしろ、具体的な政策上の課題についてもう少しお話したいと思います。キルギス市場への投資を促進することは、我々の1つの業務です。ですからまずは、我が国の持つプラスの面についてご紹介しようと思います。投資場所としてのキルギス共和国の強みには、以下のようなものがあります。
- 自由主義的な法律制定
- 低い税率
- 62か国とのビザなし旅行制度
- 競争力のある労働力
- 安価な電力
- 議会制民主主義による透明な社会
他のどの国とも同じように。キルギスタンにはキルギスタン独自の問題と政策的な課題があります。私の考えでは、キルギス共和国は自然資源と人的資源に恵まれていることから、急速な経済成長の可能性が大いにあります。また、人口約600万人、一人当たりGDP約1200米ドルの国としての大きな潜在力があります。この経済成長を妨げている主要な要素は以下の通りです。
- 法令や規制に対して予測がしづらい
- 政治的安定を欠いている
- 公共政策と経済政策の間に一貫性がない
- お役所仕事と高官の腐敗がある
- 金融円滑化が弱い
- 道路、鉄道、航空接続などの整備が遅れている
現在のもう1つの重要な課題は、キルギス共和国が間もなくロシア、カザフスタン、ベラルーシと共にユーラシア経済連合とユーラシア関税同盟に加盟するということです。これによって我が国の法令に多くの新たな規定や変更がもたらされることになります。キルギスタンの最も密接な貿易相手国は中国、ロシア、カザフスタンとトルコです。我が国の多くのビジネスマンで、中国やトルコのような関税同盟の非加盟国との経済関係に関わる人々にとっては、こうした新しいルールによって輸出入の関税率が高くなります。近隣のカザフスタンやロシアの通貨の切り下げによって、キルギスの通貨にも悪影響が及びます。キルギスの経済は、海外で働く自国民からの送金に大きく依存しています。これまでこうした送金の大部分はロシアからのものだったため、ロシアのルーブルが切り下げられるとロシアからの送金と、キルギス国民の利益が減少する原因となり、その結果、将来失業率が大幅に上昇する恐れがあります。
5. 日本での学生時代、専門や研究上の関心、生活体験について簡単に教えて下さい。
日本で過ごした2006年から2008年までの2年間は、私にとっても家族にとっても大変有益なものでした。日本では妻とともに過ごしましたので、1年間は、大学の構外の新潟県の南魚沼市に住まなければなりませんでした。日本の人たちの中で実際の生活に触れたおかげで、日本の人たちの文化や伝統をさらに深く学ぶことができました。日本の慣行の中には、キルギスタンのような発展途上国に導入し、うまく実施できるものもあります。一例をあげると、私は我が国における廃棄物の管理と活用の新しい手法を促進している者の一人ですが、日本で経験したことを優れた実例にすることができると考えています。平日は授業と宿題で多忙を極めましたが、それはさておき、長い冬の季節には、山の温泉(日本流のサウナ)やスキーを堪能しました。研究方法論や経済学の教授の授業助手を務めることもできましたし、東南アジア、アフリカやラテンアメリカなどの冬のない国から来た友人たちに、スキーの手ほどきをすることもできました。
私の研究は、キルギス経済における貿易の自由化問題をテーマとしたものでした。農業に生産税を導入し、関税率を引き下げた場合の影響についていくつかのシミュレーションを行いました。シミュレーションは、キルギス共和国国家統計委員会の2005年の産業連関表を使用し、応用一般均衡モデルを用いて行いました。この研究の目標は、農業生産を高め、国民の福利の向上を図る適切な政策を探究することでした。シミュレーションによって、こうした起こりうる政策の変化が生産、政府部門、民間部門、海外部門と価格に及ぼす影響について、具体的な成果を得ることができました。これに基づき、こうした政策変更がキルギス経済の繁栄に与える全般的な影響についての結論を出すことができました。
6. 現在のJISPA奨学生と奨学生志望の人たちにメッセージをお願いします。
JISPA奨学生というのは、質の高い教育という観点からは、素晴らしい他に例を見ない体験です。それだけではなく、このプログラムでは、世界の経済大国の1つである日本についてさらに深く知る機会を得ることができます。また、様々な国から来た学生と新しい友情のきずなを築く機会を得ることもできます。私は、現在でも国際大学(IUJ)時代からの友人と連絡を取っており、世界の各国にあらゆる場所に友人を持っていることを誇りに思っています。
7. 日本に対するメッセージをお願いします。
JISPAに参加し、IUJから学位を得たことで、私にとって新しい機会と展望が開けました。私のキャリア開発にとって本当に力になりました。日本で得た知識と経験を我が国の社会経済発展のために最大限生かせるようにと望んでいます。発展途上国が自国の公共部門の人的資本を強化するのを支援するこの機会を得られたことに対して、IMF、JISPAのコーディネーター、日本の政府と国民の皆様に、心から感謝を申し上げます。
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