日本-IMFアジア奨学金プログラム(JISPA)創設20周年を記念して今年度発行する予定の4本のニューズレターのうち2本目となる今号は、IMFアジア太平洋地域事務所(OAP)の前所長の石井詳悟と現所長のオッドパー・ブレックへのインタビューを通じて、「IMFがJISPAに果たす役割」を特集します。石井は2010年5月8日から2013年7月5日まで同事務所の所長を務め、ブレックは2013年7月8日に新所長に就任しました。
今号では、2013年5月から8月までのJISPAの活動を紹介するほか、JISPA同窓生で現在、モンゴル財務省の財政政策及び債務管理局の局長を務めるドルジハンド・トグミッド氏のインタビューを掲載しました。また、現奨学生を代表してカンボジア国立銀行出身のスレイリーク・モン氏が登場します。
1. アジア太平洋地域事務所(OAP)を紹介して下さい。
オッドパー・ブレック: IMFアジア太平洋地域事務所(OAP)はアジア太平洋地域が世界経済に果たす重要な役割、またそうした重要性の高まりに鑑みて、1997年にIMFの窓口として東京で設立されました。OAPの役割は、アジア太平洋地域のサーベイランス、日本とモンゴル各国における二国間サーベイランスへの協力、APECやASEAN+3といった域内の国際会議への参加、地域セミナーやJISPAを通じたキャパシティ・ビルディング業務、対外広報活動、IMF本部業務への支援などがあります。
2. IMFがJISPAに携わる理由とOAPによる同プログラム運営の経緯を教えて下さい。
石井詳悟: オッドパーが説明した通り、IMFの3大業務の1つであるキャパシティ・ビルディング(他の2つはサーベイランスと融資業務)の取組みの一環としてOAPはいくつかのキャパシティ・ビルディング業務に携わっています。日本政府とIMFはマクロ経済運営に果たす制度面のキャパシティ・ビルディングの重要性に対する認識で一致しており、両者はアジア太平洋地域の持続可能な経済発展に寄与するという共通の目標を持っています。この目標の達成に向けて、日本政府とIMFは主要経済関連省庁の幹部候補生の研修として奨学金供与に合意したのです。
当初、JISPAはワシントンDCにあるIMF本部のIMF研修所(現在のIMF 能力開発局)が運営していました。その後OAPが東京に設立されると、2001-02年度のJISPA拡大に伴い、プログラムのモニタリングや日本の大学との調整の円滑化のために運営機能がOAPに移管されました。
3. IMF/OAPのJISPAへの関与について主な特徴と強みを教えて下さい。
オッドパー・ブレック: JISPAのユニークな点は、プログラムの対象をIMFの業務内容と整合的な、マクロ経済及び金融関連分野を学びたい主要経済省庁の幹部候補生に絞り込んでいる点です。こうした背景とプログラムの目的を踏まえれば、IMF/OAPの関与によりJISPAは恩恵を得ていると考えられます。例えば、OAPエコノミストは履修カリキュラムがマクロ経済と政策に重点分野を置くよう、カリキュラムの作成や評価の際にアドバイスをしています。またアジア太平洋地域における各国のIMF駐在代表と主要経済省庁間の緊密な関係を通じてJISPAは奨学生候補の募集を行っています。
4. JISPAの今までの実績をどのように評価していますか? 奨学生の出身国、日本、IMFとの関係でお願いします。
石井詳悟: JISPAは著しい成功を収めたと考えています。JISPA同窓生の多くが幹部職に昇格し、政策決定で重要な役割を果たしていることに大きな喜びを感じています。奨学生の派遣元省庁は日本政府とIMFによる長期的サポートを評価しています。同窓生の一部は日本との調整や交渉が必要な分野で活躍しています。また、IMFの交渉窓口となる人物の多くもJISPA同窓生となっています。
5. JISPAの質の管理についてOAPの関与を教えて下さい。
オッドパー・ブレック: OAPは東京に拠点を置く地の利を生かして大学との緊密な連携をはじめとしてJISPAの日常的運営に携わっています。提携大学の履修プログラムに対するフィードバックを得るため、OAPスタッフは各大学を訪問してJISPA奨学生と意見交換の場を設けています。さらに、OAPは奨学生選考プロセスを一元化しており、全提携大学の教授陣で構成される選考委員会との緊密な連携や協議を行っています。このような一元化された選考プロセスのおかげで、志願者全体の中から最も高い潜在力を持つ奨学生を選考出来るのです。
日常的な運営業務に加え、OAPは大学が提供するプログラムの質を確保するシステムを導入し確立しました。OAPは提携大学を選定する公開入札を定期的に実施しています。次年度である2013-14年度には各提携大学のプログラム並びにOAPのJISPA業務について、内部中間評価を実施予定です。
JISPAはOAPが行う主要業務の1つです。OAPはIMFのキャパシティ・ビルディングの一環としてプログラムの質を確保する取り組みを続け、日本政府との協力の下、アジア太平洋地域の経済発展の寄与に強くコミットメントしていく所存です。
6. OAPがJISPA奨学生向けに行っている活動について紹介して下さい。
石井詳悟: 「日本-IMF」奨学生としてのアイデンティティを醸成するためにさまざまな活動を企画・実施しています。こうした活動はIMFの業務と専門知識を活用したものであり、奨学生が大学で受ける専門教育を補完していると思います。例えばOAPエコノミストや来日するIMF本部エコノミストの参加を得て、マクロ経済や金融分野での時事的な政策課題を討議するJISPAセミナーを定期的に開催しています。また、JISPA奨学生はOAP主催のハイレベル地域セミナーにオブザーバーとして招かれ、最前線の政策議論のみならず地域フォーラムの雰囲気に接することが可能です。またOAPは国際大学との協力のもとにアカデミック英語と数学スキルの再学習を目的としたオリエンテーション・プログラムを新規奨学生向けに企画しています。また、JISPA奨学生が日本滞在を楽しく過ごせるよう、このオリエンテーション・プログラムでは基礎的な日本語と日本文化の講座も提供しています。
私自身、そうした活動に参加してきましたが、セミナーでの活発な討議やOAPとの会合を通して、奨学生の勉学に対する熱心な姿勢と意欲に常々感心させられたものです。
7. OAP所長として3年を過ごし、JISPAの運営と活動に深く係わってきました。その中で印象に残った経験を紹介して下さい。
石井詳悟: JISPA運営とさまざまな活動の取り組み、とりわけ奨学生や同窓生との交流は印象深くまた楽しみでもありました。キャンパス訪問では、提携大学の教授陣がJISPA奨学生の優秀な学業成績と意欲を高く評価していたことがとても嬉しかったです。昨秋、JISPAのプロモーション活動でミャンマーを訪問した際には、JISPAの多くの同窓生がIMF代表団との交渉に携わっているのを見て、JISPAが途上国の経済発展に大きく寄与をしていることを認識しました。
8. 2013年7月にOAPの所長に就任しました。今後JISPAをどのように運営していきますか?またJISPAの方向性をどのように考えていますか?
オッドパー・ブレック: JISPAはすでにアジア太平洋地域、日本、そしてIMFにさまざまな面で良い影響を及ぼしてきました。OAPは今後もJISPAのプログラム運営に深く携わり続けるでしょう。とりわけ、提携大学による履修カリキュラムをモニターし、その実効性を今後も確保したいと考えています。履修カリキュラムはJISPA奨学生に洗練された知識とスキルを授け、彼らが将来直面するだろうマクロ経済や金融分野の複雑な政策課題を解決出来る能力を身に付けさせるものでなければなりません。
さらにアジアにおけるIMFの 窓口であるOAPは、地域フォーラムへの参加や地域セミナーの開催に際して、主要経済省庁におけるJISPA同窓生の広範なネットワークを積極的に活用してきたいと思います。JISPAプログラムはより良いマクロ経済運営と国際的な政策協力に寄与し、奨学生の出身国のみならず、日本、アジア太平洋地域、そして世界経済に恩恵をもたらすことが出来ると私たちは堅く信じています。
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