戦争があらゆる経路を通して金融システムの強靭性を試すなか、金融安定性のリスクが高まっている
第1章は、ウクライナでの戦争による金融システムへの影響を検証する。一次産品価格の上昇により、中央銀行は両立困難な課題に取り組まなければならない。多くの新興市場国とフロンティア市場国が、特に難しい状況に直面している。中国では不動産部門が圧迫され続けていることや新型コロナ感染が改めて拡大していることから金融面の脆弱性が高いままだ。中銀は、回復を阻害しないまま、物価上昇圧力が長引く事態を避けるために断固たる行動を取るべきだ。政策当局者は、エネルギーの安全保障とグリーン化のトレードオフ(両立困難な課題)など、戦争によって際立った構造的な問題に対処しなければならない。
第2章は新興国市場で見られるソブリンと銀行の連関について協議する。新型コロナウイルスのパンデミックを通して、新興市場国の銀行部門が保有する自国ソブリン債の額が急速に増えた。公的債務が過去最高水準にあり国債格付け見通しが悪化するなか、マクロ金融環境の不安定化をもたらしかねない負のスパイラルに陥るリスクがある。第3章は、フィンテックの高リスク事業が急速に拡大していることによる金融安定性の課題を検証する。フィンテック企業と既存金融機関双方を対象とした、各々の部門の規模に相応する政策が必要である。第1章 : ウクライナでの戦争が金融安定性に及ぼす影響
ウクライナでの戦争により、金融環境が逼迫し世界へのリスクが高まった。一次産品価格の急上昇により、中銀は両立困難な課題に取り組まなければならない。多くの新興市場国とフロンティア市場国が、特に難しい状況に直面している。中国では不動産部門が圧迫され続けていることや新型コロナ感染が改めて拡大していることから金融面の脆弱性が高いままだ。中銀は、回復を阻害しないまま、物価上昇圧力が長引く事態を避けるほか、金融の脆弱性に取り組むため、断固たる行動を取るべきだ。政策当局者は、エネルギー安全保障の観点にも留意しつつ、2021 年の国連気候変動会議(COP26)のロードマップを実現する努力を強化すべきである。
第2章 新興市場国におけるソブリンと銀行の連関:リスクを伴う関係
新型コロナウイルスのパンデミックにより新興国では銀行が保有する自国ソブリン債の額が急増し、銀行と政府の相互関係、いわゆる「ソブリンと銀行の連関」が強まっている。本章は、この連関によってどのようにマクロ金融の安定性がリスクにさらされるかについて、実証的に検証した。本章の分析によれば、ソブリンリスクが高まると銀行のバランスシートが悪化するほか貸出意欲が低下する。この傾向は銀行部門の自己資本が相対的に劣後する国でより顕著に見られる。財政状況が悪化すると非金融部門の企業も資金を調達しづらくなり、設備投資が減る可能性がある。世界的に金融環境が逼迫し地政学的な緊張が高まるなか新興国は、ソブリンと銀行の連関が強まることで複雑な政策上のトレードオフに直面する。本章で政策対応を検討する。
第3章 フィンテックの急拡大:脆弱性と金融安定性維持の課題
フィンテックは、効率性と競争を促し、金融サービスへのアクセスを広げることができる。ただ、リスクが高い事業分野での活動を急速に拡大しているほか、規制が不十分なことや、伝統的な金融システムとつながりがあることにより、金融安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。本章では、デジタル銀行(「ネオバンク」とも称される)と米国住宅ローン市場における定着しているフィンテック企業、分散型金融(decentralized finance=DeFi)の3種のフィンテックをケーススタディを用いて検討する。本章は、フィンテック企業と既存金融機関双方を対象とした各々の部門の規模に相応する政策 が必要であることを示す。DeFiに関しては、ステーブ ルコインの発行体や仮想資産の交換所など、仮想資産のエコシステムで DeFi を支える主体を重点 的に規制すべきである。