写真: Lee jae won/AFLO/Newscom 写真: Lee jae won/AFLO/Newscom

国際金融システムの弱点がショックを増幅

トビアス・エイドリアン ファビオ・ナタルッチ著

米国の企業債務の対GDP比は記録的な高水準にある。いくつかの欧州諸国の銀行部門では国債を過剰に保有している。中国では銀行収益が低下し、中小規模の銀行の自己資本比率は低位にとどまっている。

このような脆弱性が先進国新興国を問わず高まっていることがIMFの最新の「国際金融安定性報告書(GFSR」で指摘されている。現時点ですべての兆候が警戒警報を鳴らすほど深刻なものというわけではない。しかし、金融市場の緩和的な地合が続く中で、脆弱性がさらに積み重なると数年後の厳しい景気後退につながる可能性が高まる。

世界経済見通し(WEO」でも論じられているように、このような事態は世界経済の減速に対処しようとする政策当局にとってジレンマを生んでいる。金融政策の運営に当たって辛抱強く緩和策を続けることで、中央銀行は世界経済の減速リスクを抑えることができる。しかし、あまりに長期に緩和的な金融市場の状況が続くと、脆弱性が蓄積し、後日経済成長が急に大きく落ち込む可能性が高まる。

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国際金融システムが不安定化する短期的なリスクは、201810月の「国際金融安定性報告書」公表時に比べ若干上昇してはいるものの、過去の平均的レベルに比べなお小さい。これは良い知らせと言える。しかしながら、中期的なリスクは依然として高止まりしている。それでも、適切に政策を組み合わせることで成長を維持しつつ脆弱性の過度の蓄積を抑えることは可能である。

そもそもなぜ金融面の脆弱性の蓄積を心配するかと言えば、脆弱性が突然のショックを増幅させる可能性があるからである。考えられるショックとしては、予想以上に急激な成長低下、想定外の金融政策の変更、貿易摩擦の激化などがあげられる。脆弱性が大きければ金融不安定化のリスクの高まりにもつながる。

 

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最新の「国際金融安定性報告書」では、金融システムの脆弱性を定量的に評価する手法を紹介している。政策当局はこれを用いることで、脆弱性をリアルタイムでモニターし、必要に応じリスクを縮減する対応を取ることが可能となる。定量化の枠組みは、企業、家計、政府、銀行、保険会社、いわゆる「影の銀行」を含むその他の金融機関の6部門をカバーしている。

この枠組みでは、レバレッジ、資産・負債の期間と流動性のミスマッチ、為替へのエキスポージャーなどの脆弱性のもととなる要素の水準や変化を捉えている。脆弱性の集計は29のシステム上重要な国を対象に、地域別と世界全体で行われる。

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この枠組みから明らかになった最も危険性の高い脆弱性としては、以下のものがあげられる。

先進国では、企業債務と金融上のリスクテイクが増大する反面、借り手の信用力は低下している。米国と欧州では、危機以降BBB格の債券残高は4倍になり、投機的格付けの社債残高は2倍近くになった。金融市場がタイト化するか大幅な景気後退が起これば債務者企業の債務返済が困難となり投資や雇用の縮小を余儀なくされる可能性がある。また、以前のブログでも触れ、今回のGFSRでも指摘しているように、多額の債務を抱えた企業に対する、いわゆるレバレッジローンは特に懸念される分野である。

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  • ユーロ圏: 特定国の財政上の問題から国債利回りが急騰し多額の国債を保有する銀行に大きな損失が発生する可能性がある。保険会社も同様に損失を被る可能性がある。「政府と金融部門の連関」と称されるこの相互作用は、2011年にユーロ圏を襲った危機の核心にあった。とはいえ、銀行の自己資本比率は向上し、当局が銀行バランスシートに残る不良債権の処理を進めたのも事実である。
  • 中国: 中小規模の銀行の収益力が低下し、自己資本の水準も低いことから、小規模民間企業への与信が滞っている。しかしながら、金融、信用面での支援を強化しても、信用拡大が続くことから小規模の銀行のバランスシート改善努力が阻害され、金融不安定化のリスクを高めるおそれがある。
  • 新興市場国: 新興市場へのポートフォリオ投資の運用は、広く普及している指数に連動する運用成績を上げることを目標とするケースが多くなってきている。指数連動型の債券投資の規模はこの10年間で4倍となり、8,000億ドルに達している。このようなインデックス型ファンドは新興市場国への投資家層の裾野拡大に寄与しているものの、国際的なトレンドの変化に伴う資本流入の突然の反転を深刻化させうることにもつながっている。写真: Lee jae won/AFLO/Newscom

幸いなことに、このような脆弱性への対応策は存在する。

  • いわゆるマクロプルーデンス施策により信用の拡大を抑え金融システムの耐性を高めることができる。例えば、カウンターシクリカルバッファーと呼ばれる仕組みで、与信が拡大している時にはより多くの資本を積むことを要求することなどがあげられる。
  •  企業債務の水準が高い国では対企業与信、なかでもノンバンクによる与信に伴うリスクを低減する施策を導入すべきである
  • ユーロ圏においては、債務が高水準である政府の間で債務残高の対GDP比を低下させることがリスク削減上の優先項目である。不良債権の削減も含めて、銀行によるさらなるバランスシートの修復も、リスク軽減効果がある。
  • 中国は金融部門、特に影の銀行部門におけるレバレッジ引き下げに引き続き努めるとともに、貸し手の自己資本の充実に努める必要がある。 また、政府当局は投資商品のリスクに対処することを目的とした発表済の改革を速やかに実行すべきである。
  • 変動の激しい資本移動に悩まされている新興市場国にあっては、短期の対外債務への依存を引き下げ、外貨準備と財政上の余力の構築に留意すべきである。変動相場制を通じてショックを吸収することも一案である。

経済状況が良好でインフレが目標に達しているか上回っている国にあっては、状況によっては、行き過ぎ防止を目指して金融政策を運用することも考えられる。適切な政策の組み合わせを通じて、金融システム不安定化のリスクを抑えつつ、経済が巡航速度を保つようにすることも可能である。