国際金融安定性報告書

不確実性が漂う中での強靭性強化

2025年4月

厳しさを増した国際金融情勢と、貿易および地政学的な不確実性の高まりによって、世界の金融安定性リスクが大幅に高まった

資産価格のボラティリティが高まる中、第1章では、世界の金融安定性リスクが大幅に高まったと評価している。この評価は、3つの主要な先行的脆弱性指標によって裏付けられている。1)一部の主要な市場でバリュエーションが高止まりしている。2)一部の金融機関が高いレバレッジを利かせていることと、そうした機関の銀行システムとの連関。3)公的債務の水準が高い法域における市場の混乱のリスクと債務の持続可能性に関する課題。

第2章では、重大な地政学的リスクイベントが株価の大幅な下落を招き、ソブリンリスク・プレミアムを上昇させ、マクロ金融の安定性にとって潜在的な脅威になり得ることを示す。

GFSRの評価および分析は、2025年4月15日までにIMF職員が入手できた金融市場のデータに基づいているものの、同日までに公表されたデータが全ての場合において反映されているとは限らない。

レポートの各章

第1章  世界貿易の不確実性が漂う中での強靭性強化

国際金融情勢が厳しさを増し、経済・貿易政策の不確実性が高止まりする中、第1章では、世界の金融安定性リスクが大幅に上昇したと評価している。この評価は、3つの主要な先行的脆弱性指標によって裏付けられている。まず、最近の市場の混乱にもかかわらず、いくつかの主要なセグメントでは価値評価が高止まりしており、見通しが悪化した場合、価格調整がさらに進む可能性があることを意味している。結果として生じる国際金融情勢の厳格化は、新興市場国の通貨と資産価格、資本フローに大きな影響を及ぼし得る。第二に、高レバレッジの金融機関を中心に、一部の金融機関は変動の大きい市場で緊張にさらされかねない。ヘッジファンドや資産運用セクターの拡大に伴い、全般的なレバレッジの水準や、銀行部門との連関も高まっており、経営が脆弱なノンバンク金融仲介機関がマージンコールや償還の増加に直面した際にレバレッジ解消に追い込まれる不安が生じている。第三に、特に公的債務の水準が高い法域において、ソブリン債市場がさらなる混乱に見舞われる可能性がある。市場の機能が滞り、中核的なソブリン債市場においてレバレッジを利かせた裁定取り引きが解消に向かった場合、ボラティリティが一段と増す要因となり得る。すでに実質資金調達コストがこの10年で最高となっている新興市場国は、今後より高いコストで債務を借り換え財政支出を賄うことを余儀なくされる可能性もある。全体として、公的債務の持続可能性や金融部門におけるその他の脆弱性に関する投資家の懸念は、相互に補強し合う形で悪化しかねない。

第2章 地政学的リスク:資産価格と金融安定性への影響

地政学的リスクイベントが資産価格に与える影響は総じて限定的である。しかしながら、軍事紛争などの重大なイベントは、株価の大幅な下落につながり、ソブリンリスク・プレミアムを上昇させる可能性がある。財政余地や外貨準備バッファーが限定的な新興市場国への影響は特に大きい。地政学的リスクは、貿易や金融の連関を通じて他国に波及する可能性もある。投資家は株式・オプション市場に地政学的リスクを一定程度織り込んでいるようだが、リスクが顕在化すれば金融市場のボラティリティを誘発しかねない。急激で重大な地政学的リスクイベントは、銀行やノンバンク金融機関の安定性に影響を及ぼしかねず、マクロ金融の安定性にとって潜在的なリスクとなる。地政学的イベントに由来する金融安定性リスクを軽減するために、金融機関とその監督機関は、ストレステストやシナリオ分析などを通じてそうしたリスクの特定・定量化・管理を行うべく、十分なリソースを配分すべきである。新興市場国と発展途上国は、負の地政学的ショックの影響を緩和するために、金融市場の発展・深化や、十分な財政政策余地および外貨準備の維持についての取り組みを継続すべきである。