陰り見え、不透明感増す
経済は2021年に一時的に回復が見られたが、その後諸リスクが現実化し始める中で、2022年になって経済動向に次第に陰りが見られるようになっている。今年第2四半期の世界GDPは、中国とロシアで景気が低迷し、米国で消費者支出が予想を下回ったことを理由として、マイナス成長となった。パンデミックによってすでに弱体化していた世界経済は、いくつかのショックによって打撃を受けた。すなわち、米国や主要欧州諸国を中心に世界全体で物価上昇率が予想を上回り、金融環境の引き締めを招いたほか、新型コロナウイルスの感染拡大とロックダウンを受けて中国の景気が予想以上に減速し、また、ウクライナにおける戦争によってさらなる負の波及効果がもたらされた。
ベースライン予測では、世界経済の成長率は昨年の6.1%から2022年は3.2%に減速する。これは、2022年4月の「世界経済見通し(WEO)」における予測を0.4%ポイント下回っている。米国については、年初来の成長鈍化と家計購買力の低下、金融政策の引き締めを要因として、成長率予測が1.4%ポイント下方改定されている。中国については、ロックダウンの強化と不動産危機の深刻化によって成長率予測が1.1%ポイント下方改定されており、それは世界全体への重大な波及効果を伴っている。欧州については、ウクライナにおける戦争に伴う波及効果と金融政策の引き締めを反映して、大幅な下方改定が行われている。世界の物価上昇率は、食料・エネルギー価格、および長引く需給の不均衡を理由として上方改定されている。今年のインフレ率は先進国では6.6%、新興市場国・発展途上国では9.5%に達すると予測されており、それぞれ0.9%ポイント、0.8%ポイントの上方改定となっている。2023年には、インフレ抑制的な金融政策の影響が出ると見られており、世界GDPの成長率は2.9%にとどまる。
見通しに対するリスクは圧倒的に下方に傾いている。ウクライナにおける戦争によって欧州のロシアからのガス輸入が突然停止する可能性があるほか、労働市場が予想以上に逼迫したりインフレ期待のアンカーが外れたりすればインフレを抑制することがより困難になりかねず、世界的な金融環境のタイト化が新興市場国・発展途上国において債務危機を誘発する恐れがあり、新たに新型コロナウイルスの感染拡大とロックダウンおよび不動産部門における危機の一層の段階的悪化が起これば中国の成長が一層圧迫されかねず、また、地政学的な分断が進めば世界貿易と国際協調を阻害しかねない。諸リスクが現実化し、インフレ率がさらに上昇し、2022年と2023年の世界経済の成長率がそれぞれ約2.6%、2.0%に低下するという現実味のある代替シナリオの下では、経済成長が1970年以降の実績の下位10%に入ることになる。
物価の上昇によって世界全体で生活水準が圧迫され続けている中、インフレの抑制が政策当局者の最優先事項となるべきである。金融政策の引き締めは必然的に現実の経済コストを伴うが、先延ばしにすればコストを増大させるだけである。対象を絞った財政支援によって最も脆弱な人々に対する影響を緩和することができるが、パンデミックによって政府財政が逼迫しており、全体としてインフレ抑制的なマクロ経済政策スタンスが求められている中、そのような政策は増税または政府支出の削減によって相殺することが必要となる。金融環境のタイト化は金融安定性にも影響を与えることになるため、マクロプルーデンス政策手段の賢明な活用が求められるほか、債務再編枠組みの改革が一層必要となる。エネルギー・食料価格の特定の影響に対処する政策は、価格を歪めることなく最も影響を受けている人々に重点を置くものでなければならない。また、パンデミックが続く中、将来の変異株に対する防御としてワクチン接種率を上げる必要がある。最後に、気候変動の緩和には、排出を抑制し投資を拡大してグリーンへの移行を加速させるために、引き続き緊急の多国間行動が必要である。