あらゆる人々のための経済成長を世界貿易がどのように促進するか

2018年10月9日

世界貿易機関(WTO)のアゼベド事務局長、世界銀行のキム総裁、経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長、また、ご出席の皆さま、本日はお越しくださいまして、ありがとうございます。IMFを代表して皆さまを世界貿易に関する共催カンファレンスにお迎えできることを私は嬉しく思います。

ご挨拶のはじめに、アダム・スミスの言葉を引用したいと思います。彼は「諸個人の間の商業と同様、諸国民の間の貿易は、本来は連合と友情の絆であるはずなのに、 不和と敵意の源泉となっている」と述べました。

この言葉は彼の著作である「国富論」からの引用ですが、現代に書かれたものであってもおかしくないでしょう。というのも、より優れた貿易制度の構築がこれまで簡単な仕事であった試しがないことを思い出させてくれるからです。

現世代の政策担当者は、あらゆる人々のためになる貿易制度、つまり、崩れることのない連合と友情を生み出す上で、どう貢献できるかによって、評価されることになるでしょう。どのような貢献が可能でしょうか。私は優先事項が3点あると思っています。

まず、現在の貿易紛争を緩和し、建設的な議論を始めるために力を合わせる必要があります。この点に関しては、貿易を改善し拡大することに対する意欲が見られますので、私は希望を持っています。

WTOを強化するための歓迎すべき議論や提案が相次いで行われていることを思い起こしましょう [1] 。もしくは、TPP11やアフリカ大陸自由貿易協定など新しい貿易協定が生まれていること、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に進歩が見られたことを考えても良いでしょう。ですから、摩擦を和解へと変えていくために今生まれている勢いを活用しようではありませんか。

2点目ですが、世界貿易制度を壊すのではなく、修理し、現代にあったものに変えていくために、協力をする必要があります。つまり、国家の補助金がどのように歪みを生んでいるかを検討し、知的財産権の遵守を強化し、効果的な競争を保証するために施策を打つのです。また、市場支配的な地位の行き過ぎを防ぐためでもあります。

また、eコマースや貿易可能なサービスが持つ可能性をすべて解き放つことも意味します。こうした分野すべてにおいて、WTOの枠組みの中でより柔軟性の高い交渉アプローチを用いることができるでしょう。例えば、WTO加盟国のうち、ある分野について前進する準備ができている一部の国々の間でプルリ合意を行うことができます。

3点目ですが、世界貿易が人々のため、あらゆる人々のための役割をより効果的に果たせるように私たちは国内政策を実行する必要があります。

貿易が世界の姿を変える力であり続けてきたことを私たちは理解しています。貿易は生産性を高め、新たな技術の伝播を促し、製品がより安価に手に入るようにしてきました。

例えば、ここアジアでは、貿易が世界で最も大きな中間層の創出に大きな役割を果たしてきました。世界中で、経済統合によって1人あたりの所得が向上し、賃金のより高い雇用が何百万も新たに創出されてきました。

しかし、労働者の一部や地域の一部が、原因がテクノロジーであれ、貿易であれ、両者の組み合わせであれ、もたらされた混乱によって人的コストの影響を大きく受けたことも、私たちは理解しています。

ですから、より効果的な国内政策が必要となるのです。例えば、職業訓練や社会セーフティネットに対する投資の拡大です。働く人々がスキルを伸ばし、より質の高い雇用へと移行し、所得を上げられるようにすることができます。

誰もがより多くのことを実行できますが、単独では不可能です。IMFは加盟国を分析と政策助言によって支援しています。

例えば、最新の「世界経済見通し(WEO)」や、IMFとWTO、世界銀行が共同でまとめた貿易に関する新しい調査 [2] があります。 また、IMFは各国経済について年次の評価を行っています。こうした評価では、多くの場合、国ごとに固有である貿易の側面について、助言を行っています。

そして、もちろん、私たちはベストプラクティスや新鮮なアイディアを共有するためのプラットフォームを常に提供しています。

今日のカンファレンスは、より優れた世界貿易制度を構築することを目的にアイディアを共有し、協力するために私たちが行っている取り組みの素晴らしい事例です。こうした機会を通じて、諸個人と諸国の間に連合と友情の綻ぶことのない絆を創り出すために、私たちは貢献できるのです。

これからの議論を楽しみにしております。ご清聴、ありがとうございました。



[1] カナダと欧州連合が改革案を提案している。

[2] IMFとWTO、世界銀行が共同でまとめた貿易に関するペーパー「貿易と包摂的な成長を強化する(Reinvigorating Trade and Inclusive Growth)」

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