このブログ記事は、新型コロナウイルス対策特集の一部です。
政府にとって大切な役割のひとつは、市民の健康と安心を守ることだ。最近のコロナウイルス流行のような有事の際にはその役割が最も重要かつ明白となる。国際通貨基金(IMF)は、ウイルス流行の影響に苦しむ国を支援するために、速やかな支払いが可能な緊急融資として500億ドルを用意している。クリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事が述べたように、IMFは、資金不足によって人命が失われることが決してないようにしたいと願っている。
命を救う
各国政府や国際社会にとっての優先課題は、感染防止と感染した人の治療だ。医療支出を増やすことで、自国はもちろん世界各地の人々の命を救える。
今回の感染拡大の速さを考えれば、支援のための行動を起こすことは、対応能力が限られている国を含め各国の医療体制を崩壊させないための助けとなりうる。
医療支出は、その国の予算にどれだけの余地があるかとは関係なく実行されなければならない。低所得国は、他の方法では捻出できない医療支出を賄うために、贈与や無利子融資を至急必要としている。エボラ熱など過去の感染流行時の経験から、感染拡大の封じ込めには譲許的融資の迅速な実施が不可欠であるとわかっている。
有効なワクチンの開発にも公的資金が必要になる。
人や企業を守るための計画
各国政府は、この世界的な保健危機がもたらす経済的影響から人々を守るべきだ。最も大きな打撃を受けている人々が、自分たちには何の落ち度もないのに、破産したり生計を立てられなくなったりするようなことがあってはならない。観光に依存する国にある家族経営のレストランや、地元地域での検疫のために閉鎖された工場の従業員たちは、この危機を切り抜けるための助けを必要としているのだ。
行政能力次第ではあるが、各国政府は今すぐにでも人々や企業を支援できる。その方法の例を複数、以下に提示したい。
1. ウイルス感染の防止・検知・抑制・治療・封じ込めを行うため、また、隔離を余儀なくされた人々や影響を受けた企業に対して基本的サービスを提供するために、資金を投入する。例えば中国や韓国が実施したように、中央政府としては、地方自治体がこうした分野で支出できるよう資金を割り当てたり、影響を受けた地域にクリニックや医療従事者を動員したりすることができる。
2. 緊急事態が鎮静化するまでの間、最も深刻な影響を受けた人や企業に対して、適時に対象を絞った一時的なキャッシュフロー救済措置を提供する。
- 感染拡大を抑えるために、人や企業に賃金助成金を支給する。例えば、フランス、日本、韓国では、臨時休校中に家庭で児童の世話をするために休業した個人や企業に対して助成金を出している。フランスは、ウイルスの直接的影響を受け自宅隔離となっている人には病気休暇を与えている。
- 脆弱な層に対しては特に、金銭と現物支給の両面で給付を拡充する。中国は失業保険給付金の支払いを迅速化し、社会的セーフティネットを拡大している。韓国では、若年層向け求職者手当を増やし、同手当を低所得世帯向けにも拡大している。
- 納税が困難な個人・企業を対象に税制上の負担軽減措置を取る。中国は、最も脆弱な地域や、運輸・観光・ホテルなど影響が甚大な業界について、企業の税負担を軽減している。韓国は、影響を受けた業界の事業者に対して、法人税や付加価値税の申告・納付の期限を延長している。中国、イタリア、ベトナムは、資金繰りが苦しくなっている事業者に対して、税の申告・納付の期限延長を認めている。イランは、企業や事業者への課税を簡略化している。中国は、企業の社会保障負担の一時停止を許可している。
3. 業務継続計画を立てる。財務省であれ、税務当局であれ、税関であれ、ウイルス感染が広範囲に拡大した場合には、電子的な手段を可能な限り活用して、市民や納税者、輸入業者へのサービス提供を行う必要がある。例えば米国では、連邦緊急事態管理庁(FEMA)が連邦政府の運営・活動について継続性の調整を図っている。
これらの措置の中には行政手段によって実施可能なものもあれば、緊急予算を要するものもある。後者の場合は全体的な財政コストの評価も必要になるだろう。
また、緊急措置や当初予算の変更は、安定性や持続可能性と両立可能であることを一般市民に伝えていくことも重要である。IMFの能力開発は、公共財政管理や歳入管理において各国が行政面から緊急事態に対処する能力を強化するのを後押しできる。
国際通貨金融委員会(IMFC)の声明でも強調されていたように、IMFをはじめとする国際社会は、資金援助を必要とする国の政府を支えるために各種融資を用意している。
現状では、経済に対する財政支援措置として最も有効なのは上述の措置である。これらの措置によって、新型コロナウイルスの感染拡大を防止または抑制し、最も影響を受けている個人や企業を守ることができるだろう。所得や利益が減ってしまった個人や企業に対する減税や失業給付をはじめとする給付金の引き上げなどの、いわゆる自動安定化装置も各国で発動されるだろう。
IMFが2020年4月に刊行する次号の「財政モニター」では、再びこれらの問題を取り上げ、IMFの加盟各国がそれまでに実施してきた政策をさらに詳述する。
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ヴィトール・ガスパールは、ポルトガル国籍でIMF財政局長。IMFで勤務する前には、ポルトガル銀行で特別顧問など政策関連の要職を歴任。2011~2013年にはポルトガル政府の財務大臣。2007~2010年に欧州委員会の欧州政策顧問局長、1998~2004年に欧州中央銀行の調査局長を務めた。ノーバ・デ・リスボン大学で経済学博士号とポスト・ドクター学位を取得。また、ポルトガル・カトリカ大学でも学んだ。
パオロ・マウロは、IMF財政局副局長。現職以前はIMFのアフリカ局、財政局、調査局で様々な管理職を歴任。ピーターソン国際経済研究所でシニアフェローを務め、2014~2016年にはジョンズ・ホプキンス大学ケアリー・ビジネススクールの客員教授。「Quarterly Journal of Economics」「Journal of Monetary Economics」「Journal of Public Economics」などの学術誌にて論文を発表し、学術界や主要メディアで多数引用されている。共著に『World on the Move: Consumption Patterns in a More Equal Global Economy』、『Emerging Markets and Financial Globalization』、『Chipping Away at Public Debt』の3冊がある。