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高齢化は世界人口の趨勢であり、パンデミックから備え方を学ぶことができる

世界人口は2022年11月15日に80億人のマイルストーンに達する。70億人から80億人に到達するまでに僅か12年しか要しなかったことは、食糧不足、失業の蔓延、天然資源の枯渇、歯止めが効かない環境悪化といった、人口の急激な増加に伴う長期的な懸念を生じさせた。

しかし、人口問題に関して世界が直面している最も厄介な課題は、もはや急激な人口増加ではなく、高齢化である。行動変化、人的資源とインフラへの投資、政策・制度の改革、そして技術革新を組み合わせて周到な準備を重ねれば、各国はこの課題に対処し、人口構造の変化から生まれる機会を活かせるだろう。  

世界人口の爆発という恐怖の影は、実は既に打開されている。いや、自然に消滅した、と言った方が正しいだろう。世界の人口増加率は過去数十年間で明らかに減速しており、今後も鈍化し続けると予想されている(図1を参照)。インドは2023年に中国を追い越して人口最大国になると思われるが、平均年間人口成長率は2020年–40年で0.7%となる見込みで、世界平均値の0.8%を下回り、インド自身の2000–20年の平均値と比較しても、その半分でしかない。現在の国連の予測もまた、一年間に人口が減少する国の数が、2022年の41か国から2050年の88か国に増加すると示唆しており、中国も人口減少国に入っている。

population growth has slowed appreciably in recent decades

新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)では、直接的・間接的な関連死者数が1,500万人に及ぶと推計され、流行開始から2年間で世界の平均寿命を約2年縮めたものの(UN DESA 2022)、世界人口の規模と増加率への影響は僅かなものでしかない。パンデミックは格差を悪化させ、いわゆるロングCOVID(コロナ後遺症)として新たな経済的負担を生み出した可能性もあるが、出生への影響は不透明である。

人口増加率は国、収入グループ、地理的地域によって著しく異なる。低所得国とアフリカの増加率は突出して高く、中所得国と(特に)高所得国、そして欧州は際立って低い。だが高齢化が世界人口動態において圧倒的に支配的な動向であるという事実は世界中で急速に広まりつつあり、その背景には出生率の低下や、寿命の延長に加えて、大規模な世代が高齢期に突入していることがある。

図2と表が示すように、人口の年齢構成は年月とともに劇的に変化している。世界の平均寿命は、1913年の34歳から、2022年には72歳まで跳ね上がり、今後も上がり続けると見込まれている。その一方で、各国の出生率は1970年から2020年の間に低下している(Bloom 2020)。国際連合と世界保健機構(WHO)が設立された時、15歳未満の児童の数は65歳以上の高齢者の7倍だったが、両グループは2050年までにほぼ同規模になる(Ataguba, Bloom, and Scott 2021)。2000年から2050年までにのみ注目しても、世界人口で80歳以上のグループが全体に占める割合は4倍に拡大し、約5%になると考えられている。

population growth has slowed appreciably in recent decades

こうした転換は、来る数十年間に医療・社会・経済面の課題が一斉に降り掛かってくる前触れである。また、広範に渡る人口減少という、従来は起こり得ないと考えられていた見通しの前兆でもある。こうした問題すべてを解決するには、生活習慣や、公共・民間投資、制度・政策の改革、技術革新とその適応に有意義な変化が求められるだろう。座して待てば、その潜在的な代償は計り知れない。縮小する労働力が急増する定年者を支えるために悲鳴を上げ、加齢による罹患率と関連医療費双方が爆発し、高齢者の生活の質が人的資源、財源、制度的資源の欠如によって低下するからだ。

人口転換への準備

人口構造の変化は概して革命的というよりも漸進的なものであり、パンデミックや内戦、国境を越えた紛争、技術革新のように、社会・経済的厚生に大きな影響を与える他の要因と比較すればそれは確実だ。人口動態の動向は比較的予測しやすいため、主要関係者には、政策を成立させ、未来の人口動態を形作る行動を推奨し、人口構造の変化の潜在的な悪影響を緩和するためのチャンスが大きく開かれている。人口転換への準備として達成可能な目標には、リプロダクティブ・ヘルスを改善すること、社会の生産的な一員となるための人的・物的資本を人々に獲得させること、人々が潜在的な生産力を発揮できるよう適切に機能する労働・資本市場を整備すること、人間が環境に与える負荷を抑制する制度・政策を策定すること、そして健康的な老化を促進することが挙げられる。    

必要不可欠な行動変化の主軸は、身体活動の増加である。WHOは、18歳から64歳の成人に対して、1週間を通して150分から300分の中強度の有酸素運動を行うよう呼びかけている。健康的な老化に関しては、65歳以上の高齢者にバランスと筋力トレーニングを週3日行い、身体活動を増強するよう推奨している。しかし、世界で4人に1人の成人はこれらの標準を満たせていない(WHO 2020)。また、1日60分という青小年の身体活動に関するWHOの推奨量は、人口の80%以上が満たしていない(WHO 2020)。提案されている取り組みとしては、徒歩や自転車での移動を支援する政策のほか、学校、地域社会、職場、医療システム、政府を巻き込んで、身体活動を活発化させるためのインセンティブと安全な空間を提供することなどがある。健康な食生活(糖分、ナトリウム、飽和脂肪、カロリーの少ないもの)を奨励したり、タバコの消費や危険なアルコール摂取を抑制させたりすることも、健康的な老化への取り組みへ持続的で大きな利益をもたらすだろう。

出生率が高い国々において、高齢化の指標は低い水準にある。それでもこうした国々は、高出生率と人口高齢化の舵取りという二重の課題を抱えている。出生率の課題を解決するには、リプロダクティブ・ヘルスを改善する建設的な行動変化が必要であり、満たされていない家族計画のニーズを解消し、高出生率社会にのしかかる、時には過重な社会・経済的負担を軽減させなければならない。世界の各都市の人口率は30%だった1950年から、現在では57%とほぼ倍増しているが、家族計画により人口増加が減速し、社会・経済的な圧力は緩和されると考えられる。

インフラ投資は当然、高齢者に配慮した健康的な空間の創出に焦点を定めることになる。居住・商業施設には、室内空気汚染による身体的・認知的な悪影響を緩和するために、クリーン燃料を利用する換気の優れた建物を重視できるだろう(健康建築物プログラムを参照)。公共交通機関の電動化や、移動能力の低い高齢者の利便性を開発の基盤に据えることは、優先度の高い妥当な都市計画目標である。

人的資本に投資する取り組みでは、労働年齢人口の割合が低下していても、1人当たり経済成長率の持続に焦点を定めるべきだ。研修や技能プログラムを強化する際には、労働参加者の生産性向上のみならず、母親や高齢者など、低参加率なグループの労働参加促進を図るのが理想である。また、可能な限り、社会全般で革新者の養成を重視すべく、必須技能を教える初等中等教育への投資も望ましい。

制度・政策の改革は、家族計画に関する質の高い用品・サービスへのアクセスを促進できる。退職年齢に選択肢を増やし、退職に備えた個人の貯蓄インセンティブを高め、高齢者に就労機会がある経済部門を推進することもできるだろう。さらには、長期介護システムを開発・強化し、疾患の予防や早期発見もできる。人々が職のある場所へ行けるように移民制限を緩和する措置は非常に現実的であり、求人数と労働人口のミスマッチを解消できるだろう。例えば、アフリカは失業中の若者で溢れかえっているが、高齢化が進んでいる欧州は大規模な人手不足に悩まされている。

世界人口の96%を占める人々が今も出生国に居住していることから、国際的な移住には人口動態的な圧力を軽減する余地が大いに残っている。また、移住が拡大すれば、出稼ぎ労働者による送金が増加して、出身国の経済発展の支援にもつながる。こうした支援は国際送金の費用が低下すれば、さらに充実するだろう。世界銀行による最近の報告書によれば、送金手数料が2%低下すると、低中所得国出身の国外出稼ぎ労働者にとって年間120億ドルの節約になると試算されている(Ratha et al., 2022)。ただし、国際的な移住政策を自由化すると、高技能労働者が高賃金を求めて国外に移住するため、頭脳流出に拍車をかける懸念もある。

高齢化が突きつける課題に対し、技術革新は素晴らしい可能性を秘めている。医療技術(安全で効果的なワクチンや装着型モニタリングセンサーの開発)、支援機器(ロボット)、そして情報技術(相互運用可能な電子カルテや量・質ともに優れた集団レベルのデータにより、高齢者の生活を理解した上で改善政策を策定)における進歩は、既に健康的な老化への取り組みに貢献し始めている。こうした開発や拡大へのインセンティブは、将来的に実を結ぶ可能性が極めて高い。

新型コロナウイルスのパンデミックと同様に、高齢化とその課題は、社会が方向転換し、再び活性化する絶好のチャンスである。当然ながら、最も重要なポイントは準備を万全に整えることだ。その他にパンデミックから学び取った教訓としては、社会で最も脆弱な人々のケアの不備を特定する必要性、在宅者をつなぐ技術の役割、長期的な健康効果をもたらしうる仕事と家庭のバランスの再評価、そして精神衛生がもつ重要性の再認識などがある。世界が人口増加という爆弾を処理し、高齢化の爆発に備えて準備を進める中で、以上の教訓は世界が取るべき健全な老化へのアプローチの方向性を示唆していると言えよう。

 

IMF

Author

デビッド・E・ブルームはハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のクラレンス・ジェームズ・ギャンブル経済学・人口動態学教授。

レオ・M.・ザッカーは同大学院の研究助手。

記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。

参考文献:

Ataguba, J. E., D. E. Bloom, and A. J. Scott. 2021. “A Global Institution for an Aging World.” Project Syndicate, October 3.

Bloom, D. E. 2020. “Population 2020.” Finance and Development 57 (1).

Ratha D., E. J. Kim, S. Plaza, E. J. Riordan, and V. Chandra. 2022. “A War in a Pandemic: Implications of the Russian Invasion of Ukraine and the COVID-19 crisis on Global Governance of Migration and Remittance Flows.” Migration and Development Brief 36, KNOMAD–World Bank, Washington, DC.

United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA), Population Division. 2022. “World Population Prospects 2022: Summary of Results.” New York.

World Health Organization. 2020. “WHO Fact Sheet: Physical Activity.” Geneva.