多くの人がマイホーム購入を目指しているが、それはますます手の届かないものになっている
住宅ほど論争の的となる経済的課題はほとんどない。マイホーム購入の実現がますます遠のいている様子である中、アフォーダビリティに関する懸念は、多くの人、特に若者にとって最優先事項である。住宅市場は壊れているのだろうか。
19世紀の哲学者トーマス・カーライルは、あらゆる疑問の答えとしてエコノミストらが自動的に「需要と供給」をうたうと激しく非難したことで有名である。しかし、住宅価格が絶え間なく上昇しているように見える中、それを説明するための出発点であるに違いない。収入と人口の増加が住宅の需要を押し上げており、供給が追いついていない限り、住宅価格は上昇し続ける。
カナダの事例を考えてみよう。住宅価格(インフレ調整済み)は、2016年以降、所得の着実な増加、および移民などによる人口の増加にけん引されて、年率約5%で上昇している。しかし、住宅供給は追いついていない。カナダ抵当住宅公社は、人口約4,100万人に対して350万戸の住宅が不足していると推定している。同様の需要と供給のミスマッチは、他の地域でも住宅価格を押し上げている。
需要増幅
エコノミストはもちろん、住宅が、消費者が購入する他の製品とは異なることを認識している。住宅は、長期における主要な購入と投資で、ほとんどの人にとっては最大の購入・投資であり、通常は借入によって賄われる。これによってふたつの重要な影響がある。第一に、住宅の需要が、将来の住宅価格に関する期待や社会的な経験に左右されるようになる。多くの場合、機会を逃すことへの恐怖から、明日の価格がさらに高くなるという考えが定着すると、人々は高値でも住宅を購入する可能性がある。
ノーベル賞を受賞した経済学者のロバート・シラー氏は、将来の価格に対する非現実的な期待によって引き起こされる住宅市場のバブルを見つけることで有名である。2003年にシラー氏は、米国の住宅価格が人々の収入や家賃と大幅にずれており、価格が経済のファンダメンタルズによって支えられていないことを示唆していると指摘した。住宅価格バブルは、こうした流れや社会的信念が源となり、しばしば口コミによって増幅し、価格が上昇し続けることに対する強力な集団的期待を生み出すと主張した。
2番目の影響は、住宅需要が住宅ローンのアベイラビリティとコストに敏感に反応することである。貸出基準の緩和は、2008年から2009年にかけての世界金融危機に先立って起こったように、住宅価格を強く押し上げることができる。しかし、貸出基準が変更されなくても、信用のアベイラビリティに関連する増幅効果が生じ得る。住宅価格が上昇すると、担保として貸し手に差し入れられた不動産の価値も上がり、銀行がより多くの信用を供与し、住宅価格を一段と押し上げる可能性がある。シラー氏は、住宅価格が常に上昇するという誤解が、リスクの高い融資や投資につながったと指摘した。これらの慣行は、高リスクのローンを証券として販売する行為と相まって、市場の不安定性の現実が露呈したときに影響が増幅した。
供給制約
需要の増加は、住宅価格の高騰を説明する大きな要因だが、供給の制約も同様に重要な要素だ。家を建てるには、資金調達、許可、承認が必要であり、その後、建設期間が長く続く。どんなに良い状況であっても、住宅の供給が需要に追いつくまでには時間がかかる。
例えば、カナダは、IMFがその評価で指摘しているように、増大する需要に対応するためには、毎年50万戸の住宅を建設しなければならない。しかし、過去20年間の住宅建設は、年間15万戸から25万戸に留まっている。住宅供給を増やすために、当局は許可にかかる時間を短縮し、未使用の政府用地を住宅用に解放し、建設労働者の不足に対処している。しかし、これらの対策が成果を出すには時間がかかる。
他の多くの規制やゾーン分けの要件が、供給の遅れを大幅に悪化させる。経済学者のエドワード・グレイザー氏とジョセフ・ギュルコ氏は、土地利用制限が密集を抑え、住宅供給を抑制し、価格を押し上げることを示している。そのため、ニューヨークのような規制の厳しい都市では、住宅価格が建設費を超えて高騰する。対照的に、テキサス州ヒューストンなどの都市には、規制の緩さと土地の十分なアベイラビリティのおかげで、手頃な価格の家がたくさんある。
グローバルな勢力
住宅市場ではますます、国境を越えた力が働くようになっている。多くの国で、国外の買い手からの資本流入が住宅需要を押し上げている。これらの流入は、いくつかの要因が推進している。まず、新興市場国を中心とする富の増加。そして2008年から2021年にかけての歴史的な低金利により、投資家が利回りを求めて貯蓄を不動産に充てたこと。最後に、安全な避難先として住宅市場へ資本が流れたこと。例えば、研究者らによると、ロンドンの高価格住宅市場は、地政学的なリスクに伴い値上がりする傾向がある。
これらの世界的なトレンドは、一部の裕福な不動産所有者に利益をもたらす一方で、地元住民にとっては、プロパティーラダー(初めに手頃な価格の物件を購入し、徐々により良い物件に買い替えるという資産形成)の第一歩を踏み出すことが難しくなる。これを受け、政策当局者は国外の不動産購入者を制限したり、観光客への短期賃貸を規制したりするようになった。ニュージーランドは2018年、外国人が一部の住宅用不動産を購入することを禁止する法律を可決した。カナダもその5年後、同様の禁止措置と、規則違反者に対する厳しい罰金体制を導入した。
市場管理
まとめると、エコノミストは、住宅市場の原動力を説明する上で需要と供給の枠組みから離れることはないものの、住宅価格の予想や信用のアベイラビリティ、資本フローによる需要の増幅と、厳しい供給制約が組み合わさって、需要と供給の間に大きな不均衡が生じ得ることを認識している。同様に、住宅市場がより良く機能するための政策対応も多面的でなければならない。
規制当局は、信用のアベイラビリティを管理するために、リスクの高い住宅ローンに対して銀行が一定額の資本を保持することを要求する住宅ローン資産のリスクウェイトなど、マイクロプルーデンス政策を使用している。こうした政策は、金融システム全体の安全性を確保するために、マクロプルーデンス政策によって補完されるケースが増えている。よく使用される政策には、収入に対して大き過ぎる住宅ローンを組むことを防ぐ債務返済対所得比率の制限や、資産価値に対する住宅ローンの規模を制約する(したがって実質的に最低限の初期払いを必要とする)借入比率の制限などがある。
また、中央銀行は政策金利を引き上げることで、住宅ローン金利が上昇したり住宅ローンが高額になったりすることを利用し、住宅市場を管理する。しかし、政策金利の引き上げは住宅だけでなく、経済の他のすべての部門に影響するため、金融政策は住宅市場を管理する上で鈍いツールと考えられている。
当局は、外国の購入者からの住宅需要の増加を管理するために追加の政策を検討する必要があるかもしれない。こうした購入者の多くは、住宅ローンを組まずに現金で購入するため、地元の銀行規制当局に課せられた規制を回避できる。このような場合、非居住者の購入者に対して追加料金を課すことで、現地の融資ルールの対象外である現金豊富な外国人の需要を減らすことができる。例えばシンガポールでは、当局が2013年に、住宅市場の圧力を和らげるために、外国人が支払う印紙税の税率を2倍の60%に引き上げた。
しかし、結局のところ、需要と供給の基本原則は変わらない。住宅価格の高さは、売り出されている家が少な過ぎるという単純な事実によって主に説明できる。そうなると、債務対所得比率や借入比率、金利の変更など、需要に注目した政策を用いて人々の住宅購入を手伝おうとするだけではうまくいかない。解決策は、供給に焦点を当てた政策である。何よりも、より多くの家を建てなければならない。
記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。