公的債務の削減と政策課題
2024年6月7日
おはようございます。「財政政策と国家債務」に関する会議にようこそおいでくださいました。
まず初めに、会議の共催者である東京大学金融教育研究センターと早稲田大学に感謝申し上げます。
今回の会議は、IMFの国家債務ネットワークプロジェクトの一環として行われるものであり、優れた研究者と政策当局の幹部を一堂に集め、財政政策と国家債務に関するそれぞれの最近の取り組みを議論・共有することを目的としています。
私たちの議論は時宜にかなったものです。コロナ禍以前から、多くの国で公的債務水準の上昇に対する懸念が高まっていました。しかし、パンデミックの発生に伴って、各国政府が世帯や企業を対象に大規模な財政支援を提供する中で、公的債務が著しく急増しました。
今日では、世界全体の債務が対GDP比で93%となり、パンデミック前の高い水準を9%ポイント上回っています。2029年までに対GDP比約100%に達すると予測されています。
国別で見ると、数字はさらに大きくなっています。米国と中国、日本では、債務の対GDP比が2028年までにそれぞれ133%、106%、251%に達するとみられています。歴史的には、戦時中にしか見られなかった水準です。
高金利下における債務の増大は、債務返済コストを押し上げ、財政余地が制約されることを意味します。
中期的な成長見通しの弱さが状況を悪化させています。
こうした要因が相まって、各国は気候変動や高齢化といった課題に対処するための歳出圧力の高まりに応える能力が低下しています。また、将来の危機に対応したり金融安定性を確保したりするための柔軟性も低下しています。さらに、低所得国を中心とする一部の国は、すでに過剰債務に陥っています。
こうした課題は、財政政策と国家債務に関する重要な問いを提起しています。4つの問いについて簡単に説明したいと思います。
第1に、どうすれば債務削減計画が持続可能なものになるでしょうか。また、各国政府はどうすれば野心的であると同時に信頼性のある調整計画にコミットできるでしょうか。
成長が追い風となりえますが、広範囲にわたり生産性が大幅に低下している中、今後数年間はその可能性が低いと言えます。
多くの国にとって、債務の削減は財政赤字を抑制すべく難しい選択を行うことを意味するため、そうした取り組みに対する国民の支持を得ることが非常に重要となります。私たちの研究では、信頼性のある中期財政枠組みと、独立財政機関による強力な監視がこの点において有用であることがわかっています。財政政策の今後のあり方に関する期待を安定させる上では、財政ルールも役に立ちます。
第2に、世界経済に対して大きな負の波及効果を及ぼす可能性を踏まえると、米国などの大国で公的債務水準が上昇していることはどのような意味を持つでしょうか。
米国の債務水準は、今後5年間およびそれ以降に上昇するとみられています。そのため、金利がより高い水準でより長期にわたって推移する恐れがあり、それは金融の経路を通じて国際的に波及する可能性があります。
金融センターからリスクセンチメントが波及する可能性もあり、そうなれば世界の成長と投資を損なうでしょう。
全体として、これにより、世界のいくつかの地域において、本来であれば持続可能であった財政軌道が持続不可能なものになりかねません。政策当局者は、自国の財政政策と枠組みを強化することにより、こうした課題に対処する準備を整えなければなりません。今年4月のIMFの「財政モニター」で示したとおり、米国による財政政策の引き締めは、金融の経路を通じた他国への波及効果を抑える助けにもなります。
第3に、米ドルのような準備通貨が持ついわゆる「コンビニエンスイールド」の利用に関連して、どのようなトレードオフがあるでしょうか。また、それは無責任な財政によって侵食されるものでしょうか。
米国債は引き続き国際的な安全資産として特別な役割を果たしており、米国政府に資金調達上の利点をもたらしています。しかし、この「法外な」特権は失われる可能性があります(ただし、恐らくはゆっくりとしたプロセスになるでしょう)。コンビニエンスイールドは発行体にとって有益ですが、それは当該国の債務が国際金融システムで果たす役割に由来しています。 しかし、過大な債務のせいで発行体の信用力が問題視されるようになると、資金調達上の利点は小さくなります。そのため、コンビニエンスイールドを理由に大きな赤字と債務を生むことは、悪循環となる場合があります。
新興市場国と発展途上国の場合には、ソブリン債の流動性リスクとデフォルトリスクが相互に連関しています。誰が債務を保有しているか、また、債務の構成、そして債務負担能力の問題が重要になります。
第4に、日本などの国をはじめとして、高齢化と人口減少は財政にどのような影響を与えるでしょうか。そう遠くない将来、多くの先進国が赤字状態が続く可能性に立ち向かわなければならなくなります。
高齢化が財政にどのような影響を及ぼしうるかを理解することは、IMFが加盟国に対してこの試練を乗り越える支援を提供する上で非常に重要です。理解を深めるのに日本に勝る場所はありません。日本は、この問題に関する政策思考の最先端に立っているからです。
今回のような会議は、こうした問題をはじめとする喫緊の課題について検討する機会となります。この場で紹介される洞察や研究は、今後待ち受ける困難な時代における財政政策の軌道を描く助けとなるでしょう。これらの重要な議論を楽しみにしています。
ご清聴ありがとうございました。
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