2023年対日4条協議終了にあたっての声明

2023年1月26日

「訪問終了にあたっての声明」は、国際通貨基金(IMF)職員による公式訪問(大半の場合は対加盟国)の終了に伴い発表されるもので、職員による初期評価を示すものである。IMF訪問団の派遣は、国際通貨基金協定4に基づき定期的に(通常は年1回)行われる協議の一環として、また、IMF資金の利用(IMFからの借り入れ)の要請に関連して、あるいは、スタッフ・モニタリング・プログラムの協議のため、さらには、職員によるその他の経済情勢モニタリングの一環として行われる。

各国当局はこの声明の公表に同意している。同声明における見解はIMF職員の見解を示すもので、必ずしもIMF理事会の見解を示すものではない。この初期評価を基に、IMF職員は報告書を作成する。その報告書はマネジメントの承認を受け、IMF理事会に協議や決定のための資料として提出される。

日本経済の回復は、ペントアップ需要とサプライチェーンの改善、国境再開、政策支援によって支えられつつある。物価上昇率の伸びはここ数か月で加速した。短期の政策課題は、金融安定を維持しつつ、2%の物価目標を、大幅にオーバーシュートさせない形で持続的に達成することである。中期的な優先課題は、財政の脆弱性を低減させ、より動的かつ強靭で包摂的な経済に移行することである。

最近の経済動向と見通し及びリスク

日本は、パンデミックとウクライナでの戦争による影響からの回復の最中にある。政府は新型コロナウイルスに関連する制限を徐々に解除し、10月には制限を非常に限定的なものとした形で、国境を再開した。物価上昇率はここ数か月で加速し、主に輸入物価上昇の転嫁の影響により、より広範な物価上昇が見られる。また、日本のコア物価上昇率(生鮮食品を除いた物価指標)は、40年ぶりの高水準を付けた。

ペントアップ需要とサプライチェーンの改善、国境再開、政策支援に支えられ、経済回復は短期的に続く見通しだ。需給ギャップは2023年に解消する見込みである。サービス消費は、パンデミック中に蓄積した貯蓄によって下支えられるだろう。輸出は、受注残が解消され、供給側の制約が緩和されるにつれ、増加するだろう。当初の事業計画の後ずれや円安による企業利益の増加は、企業投資を支えるだろう。基礎的財政赤字は、202210月の財政政策パッケージの導入を受け、2023年においても引き続き高水準だろう。コア物価上昇率は、2023年第1四半期にピークとなり、輸入物価の上昇から来る物価高が和らぐにつれ、2024年末までに2%を下回る水準へと徐々に低下する見込みである。経常収支黒字は、2022年においては対GDP1.8%と推計され、対外ポジションは、中期的なファンダメンタルズと望ましい政策に概ね合致する水準にあると暫定的に評価されている。

国内のリスクは均衡が取れているものの、外的要素は下振れリスクが大きい。下振れリスクには次のようなものがある。1) 更なる地経学的分断と地政学的緊張の高まり、2) 世界経済の急減速、3) 致死率と感染率が高い新型コロナウイルスの変異株の流行、4) 長引く供給側の制約、5) 自然災害、6) 債務の持続可能性、7) サイバー攻撃の脅威。さらに、現在の金融政策枠組みの突然の変更に伴い生じ得るリスクもある。上振れリスクは、サービスを中心に消費がこれまで以上に力強く持ち直すこと、そして訪日観光客が予想以上に回復することなどである。

経済政策

主要な課題は、短期的には、金融安定を維持しつつ、2%の物価目標を大きくオーバーシュートさせない形での持続的な達成を確かにすること、中期的には、財政の脆弱性を低減させ、より動的で強靭で包摂的な経済に移行することについて、必要な政策の組み合わせを調整することにある。

短期的には、物価見通しの不透明感が高く、上振れリスクと下振れリスクの両方がある。賃金上昇が大幅に加速しない限り、日本の物価上昇率は2024年末までに2%の目標を再び下回るだろう。従って総じて緩和的な金融政策が引き続き適切である。それでもなお、需給ギャップの縮小と低位の実質金利の下、物価に関しては上振れリスクの方が大きい。物価上昇に関する不確実性の高まりを踏まえたリスク管理強化のため、更に柔軟な長期金利の変動を検討すべきである。そのような柔軟性は、持続的な名目賃金の上昇と経済回復に下支えされ、物価上昇圧力がより粘着的なものと見受けられる場合には、自動的に長期金利の上昇をもたらすであろう。これは先を見据えると、物価目標が持続的に達成されたとのより強い証拠が得られた際に、中立的な金融スタンスへの移行をより円滑化することにつながる可能性がある。同時に、例えば世界経済の景気後退が生じる際など、更なる金融緩和が求められる場合にも機動的な金融政策の発動を可能とするであろう。金融政策の設定に関する変更については、十分なコミュニケーションが行われるべきである。マクロプルーデンス政策、その他の政策は、金融部門の脆弱性を抑えることを念頭に置く必要がある。パンデミック関連の財政支援策は、より迅速に縮小し、新たな政策は脆弱な世帯に対象を絞った限定的な措置であるべきだ。賃金を押し上げ、所得と成長の好循環を生み出す対策が必要である。

中期的には、公的債務を下降軌道に乗せ、財政バッファーを再構築するために、経済の状況を考慮に入れ、成長に配慮した形の信頼できる財政再建が必要である。金融支援策の対象は存続可能な企業に限定されるべきである。潜在成長率を押し上げ、男女格差を解消し、財政再建による重しを相殺するために、労働市場と財政の改革が必要である。グリーン計画やデジタル分野へ投資することは、気候変動関連の目標を達成しデジタル経済の恩恵を受けることの助けとなり得る。

財政政策

経済回復が続き、物価が上昇し、労働市場が引き締まり、需給ギャップが縮まる中、財政政策支援は今以上に迅速に縮小されるべきである。202210月の大規模な財政政策パッケージの導入により、すでに逼迫していた財政余地は一段と縮小した。さらに、同パッケージは物価を押し上げる可能性があり、そうなった場合、金融政策のさらに強力な引き締めが必要となる。財政負担を抑え、脆弱層を守り、省エネを促すために、エネルギー関連の補助金は、より的を絞った政策にすることが出来ただろう。政府支出の圧力が高まり続ける中、いかなる追加的支出策も的を絞り、また、歳入を増やす手段を伴うべきだ。

現行の政策の下では、公的債務の対GDP比は中長期的に上昇し続ける。基礎的財政赤字の対GDP比は、景気刺激策がなくなるにつれて短期的には低下するが、中長期的には高齢化関連の歳出圧力に対応する中で上昇すると見込まれる。こうした中、公的債務のGDP比が上昇軌道に乗っていることから、金利が急上昇し、ソブリン・ストレスがかかる可能性がある。

財政バッファーを再構築し債務の持続可能性を確保するために、財政再建が必要である。基礎的財政赤字を減らし公的債務の対GDP比を下降軌道に乗せるために、財政再建は、信頼性のある財政枠組みに裏打ちされるべきである。以下の対策が財政枠組みの信頼性を高め得る。

     より現実的な予測の採用。内閣府が公表するGDPの成長率と財政収支の予測は歴史的に楽観的過ぎた。より現実的な予測を組み込み、引き下げた潜在成長率に基づく感度分析を導入した最近の取組は、正しい方向への前進と言えよう。ただ、特に中期的な財政目標を議論する際には、一層現実的なシナリオを想定することがなお必要である。財政機関がマクロ経済予測の現実性を評価することもあり得る。

     財政枠組みの強化。補正予算を採用する慣行がある中において、歳出のシーリングは、歳出の制約に実際にはなっていない。この慣行により、各年の予算と中期財政目標の連関性が失われている。予算編成は、拘束力のある支出上限と、年間予算と中期財政目標との整合性を確保するために改革されるべきである。目標は具体的な政策で裏打ちされなければならず、補正予算は、例外的に大きなマクロ経済ショックが発生した場合にのみに限り、頻繁に編成されてはならない。

     債務の持続可能性と成長促進の均衡。当局は、財政再建と負のショックが現実化した場合に成長を維持するための財政支援の必要性を比較考量しながら、2025年度の基礎的財政収支目標に向けた進捗を引き続き評価すべきである。

財政再建は、歳入と歳出双方の対策を要する。日本は、同じような国々と比べて税収が比較的低く、高齢化関連の歳出が多い。こうした状況下、財政再建は以下のような政策を含むべきである。

     医療費と長期介護費を抑える政策。次のような改革を組み合わせる対策が考えられる。(i) 支出を効率化させる。(ii) 高所得高齢者の自己負担額を引き上げる等により、政策の的を絞る。こうした対策は、日本の医療制度によって既に達成されている健康面での優れた成果を保ちつつ、高齢化関連の歳出抑制の助けとなり得る。

     歳入を増やす政策。歳入を増やす選択肢としては、消費税の標準税率の引き上げや、法人税の引き上げ、住宅用地に係る優遇措置の廃止を通じた資産課税の強化、個人所得税制における所得控除の合理化、資本所得税率の引き上げ、社会保険料の引き上げなどが考えられる。

     セーフティネットを強化する政策。ワーキング・プアのセーフティネットにおいて明確な隔たりが見られる。この文脈において、低所得労働者に税額控除を提供する勤労所得税額控除(EITC)のような仕組みは検討され得る。EITCは、的を絞れていない既存の給付措置を合理化することへの一助にもなるだろう。

金融政策

緩和的な金融政策スタンスが引き続き適切であるが、2%の物価目標を持続的に達成するために、生産性と実質賃金を改善する政策を含むその他の政策によってそれを支える必要がある。

しかしながら、ベースラインの物価見通しは非常に大きな不確実性を伴っており、リスクは上方に傾いている。物価の上振れリスクとしては、為替レート下落の影響が遅れて表れることや国境再開、輸入インフレの二次的影響、財政支援策、予想を上回る賃金の伸びなどがある。さらに、日本のインフレ期待は主として後ろ向きであるため、ひとたび高インフレが発生するとそれが長期化しかねない。下振れリスクは、主にインフレ期待の硬直性や労働市場の構造的要因による弱い賃金上昇の長期化と相まった世界経済の減速に起因する。

加えて、日本銀行はこの数か月間に大量の国債を買い入れ、現在では5年物・10年物国債の発行残高の70%近くを保有するに至っている。こうした買入れによって、日本国債市場の流動性が低下するとともに、イールドカーブに歪みが生じており、市場調査は債券市場機能が急激に低下していることを示している。こうした状況の下、日本銀行は12月の金融政策決定会合において、イールドカーブ・コントロール(YCC の枠組みの修正を行った。

したがって、既に述べたように、物価に関する双方向のリスクを踏まえると、長期金利の一層の柔軟化は、将来の急激な金融政策の変更を回避するのに役立つだろう。これは、物価に関するリスクへの対応を改善するとともに、長期化する融緩和の副作用に対処することにも資するであろう同時に、将来政策金利を徐々に変更する際の前提条件について明確なガイダンスを提供することは、市場の期待を安定化させ、物価目標達成に向けた日本銀行のコミットメントの信頼性を高めることに資するであろう。 金融政策の設定の変更について十分なコミュニケーションを行うことで、円滑な移行の促進と金融安定の維持がもたらされるであろう。

こうした状況において、日本銀行は長期金利の更なる柔軟性と上昇を許容するために、10年物金利の変動幅の拡大かつ/または10年物金利の目標水準の引き上げ、金利目標の年限の短期化、あるいは国債金利目標から国債買入れの量的目標への移行といった選択肢を検討し得るだろう。日本銀行は、各戦略のメリットとデメリットを慎重に見極める必要がある。 例えば、10年物金利の目標水準の上下の変動幅の拡大は、現行のYCCの枠組みの微調整を伴うが、市場原理が主導的な役割を果たすことができるような十分大きな変動幅とすることが求められる。他方で、量ベースのアプローチに移行すれば、特定の金利水準を維持する必要性やそれに伴う副作用を伴うことはないが、日本銀行による国債買入れの量は状態に依存して決定され、金利の上昇が急速過ぎる場合には調整が必要になるだろう。最後に、金利目標の年限短期化は、2%の物価目標が持続的に達成されるまでの間、(実体経済活動にとってより重要な)短期金利を引き続き低い水準に維持することに資すると考えられるが、日本銀行は特定の金利水準を目標とする場合と同様の高コストな副作用に直面する可能性がある。

さらに、重大なインフレ上振れリスクが現実化するシナリオにおいては、より一層強力に金融緩和の撤回を進めなければならず、物価上昇率を2%の目標水準まで押し下げて安定させるためには、より早期に中立的な金利水準を超える水準へと短期金利を引き上げることが必要となり得る。

2022年の間に、円の大幅な変動を引き金に、当局は外国為替市場に介入した。20223月以降の円の減価は主に金利差を反映したものだが、実証分析によると、6月以降においては、為替レートは、根底にある変動要因に示唆される以上に減価していたことが示されている。一般的に、為替介入は、過度な変動を抑え、円の変動のペースをファンダメンタルズや十分に機能する市場とより一致させるのに役立ち得るが、その効果はおそらく一時的なものである。原則として、為替レートの変動は、ショックの吸収に役立つ。従って、為替介入の実施は、無秩序な市場環境、急激な円の変動による金融安定に対するリスク、通貨の変動がインフレ期待を不安定化させ得る懸念があるといった、特殊な状況下に限定されるべきである。

金融安定性の維持

金融部門は2022年に見られたいくつかの世界的逆風に対して強固であったが、他の主要国・地域で金融政策が引き締められ、世界の経済活動が減速する中で、リスクが高まってきた。全体として、銀行部門は強靭性を維持しており、自己資本比率と流動性比率は規制要件を上回っている。海外有価証券の評価損と外貨資金調達・ヘッジコストの上昇が銀行とノンバンク金融機関を圧迫している。国際的に活動する主要銀行が2010年代半ば以降より安定的な外貨調達源への依存を高めてきている中、高水準にある未使用のコミットメントラインに起因するリスクの評価を含め、米ドルの流動性逼迫に対する強靭性をさらに高めるための着実な取り組みが必要である。日本国債のイールドカーブのスティープ化は、中期的には銀行に利益をもたらすと考えられるが、短期的なコストには注意が必要である。

当局は、信用リスクの動向を注意深く監視すべきである。海外与信ポートフォリオの質は概して高く、投資適格ローンが大部分を占め、不良債権の割合は低い。しかしながら、世界的な逆風を踏まえると、与信エクスポージャー、とりわけ負債比率の高い海外の借り手に対するエクスポージャーには注意が必要である。さらに、世界経済が減速すれば、国内の大口の借り手を圧迫しかねない。一部の地域銀行は、非輸出企業に対する与信エクスポージャーを通じて、円安リスクによりさらされているが、銀行システム全体に対する影響は限定的である。原材料コストの上昇を販売価格に転嫁する能力が限られている企業の流動性状況を引き続き監視すべきである。

パンデミック発生当初にGDPが急激に落ち込んだことなどを理由に、信用の不均衡が歴史的な基準に照らして高まっている。日本では諸外国と比較して住宅価格の上昇が緩やかだが、当局は、所得に対する住宅ローンの比率の上昇や債務返済比率が高い借り手の割合の上昇、大部分を占める変動金利住宅ローンに起因しうる潜在的な脆弱性に引き続き警戒を怠るべきではない。住宅ローンの伸びに由来する脆弱性の抑制を目的とするマクロプルーデンス政策は検討され得る。さらに、パンデミック関連の支援措置の縮小に伴って発生し得る信用リスクを引き続き警戒し、新規融資に対する公的信用保証を縮小することが必要である。 

新しい資本主義の支援

所得と成長の好循環を実現

所得の伸びを押し上げるための政府の「新しい資本主義」政策は、労働供給と賃金の伸び、そして生産性という3つの側面に焦点を当てるべきである。

     第一に、各種政策によって引き続き女性と高年齢者の労働供給を促進すべきである。より多くの女性の労働力参加を促すためには、テレワークを含む働き方改革を進めることが不可欠である。柔軟な就労形態は、女性が出産時にフルタイム就業を継続する助けとなり、女性のキャリアの見通しを改善し得る。労働者が自発的に働く時間を延ばすために被扶養配偶者に関する社会保障と税制の歪みを取り除くべきである。高齢者雇用の障害をさらに取り除くことによって、労働供給が増加するだろう。

     第二に、政府は構造改革を通じてより高い賃金の伸びを促すことができる。労働市場の二重構造を解消し、移動性を高めることは、労働者の交渉力を強化し、賃金の伸びを加速し得る。ジョブ型雇用と能力給への移行は、賃金の伸びを支えるだろう。

     第三に、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の人材を強化することにより、イノベーションを促進し、デジタル化を容易にし、労働生産性を高めることができるだろう。労働生産性を高めるためには、各種政策によって、STEM分野の既存労働者向けに訓練や技能再教育を強化し、女性を中心により多くの学生がSTEMキャリアを追求するよう奨励すべきである。能力に基づく昇進や柔軟な就労形態などを通じてSTEM教育のリターンを高めることは、そうした目標の達成に資する。

スタートアップとオープンイノベーションを加速

日本でスタートアップを促進するには、労働市場の制約に対処するとともに、資金調達の選択肢と起業家教育を改善する総合的なアプローチが必要である。新しい資本主義のグランドデザインは、ベンチャーキャピタルを支援する措置を含み、創業時の個人保証に係る制約を認識し、起業家教育の重要性を強調し、スタートアップハブとしての大学の役割を強化するものである。ベンチャーキャピタルによるエクイティファイナンスの利用可能性を高めることは、スタートアップとイノベーションを支援する上で非常に重要である。さらに、労働市場の柔軟性を高め、終身雇用システムから徐々に移行することにより、最も優秀な大卒者が思い切って創業することを促し、スタートアップが失敗した時には合理的なバックアップの選択肢を与えられるようになるだろう。

政府は、税制優遇措置を通じて、企業投資とイノベーションを奨励することができる。IMF職員の分析では、金融摩擦が存在する中、日本企業が無形資産の割合の増加を理由に、現金の保有を増加させていることが示唆されている。企業に投資を促すには、ICT(情報通信技術)や研究開発を中心に、投資のリターンを高めるための税制優遇策を活用し得る。 

低炭素経済へ移行

現在、日本のグリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略は、GX債を財源とする脱炭素化およびグリーン技術に対する公共投資を軸としている。政府は、グリーンプロジェクトに対する民間資金にインセンティブを与えることも予定している。政府は、2028年度以降、カーボンプライシングを現在の低い水準から拡充することにコミットしているが、詳細はまだ決まっていない。排出削減目標達成に向けた部門別計画が関係省庁によって策定中である。政府は原子力発電所の再稼働を計画しており、また、新規原発の開発が検討されている。気候ファイナンスに関しては、金融庁は「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」を公表した。加えて、日本銀行と金融庁は、大手銀行・保険会社と連携して、気候変動リスクにかかるパイロットシナリオ分析の取組を完了し、日本銀行は、気候変動対応を支援するための資金供給オペレーションにおいて、銀行に対してGDPの約0.6%に相当する貸付を行った。

気候目標を達成する上で、日本には追加の政策が必要となる。最大の排出源である電力と運輸を脱炭素化するためのグリーン投資を伴う包括的な政策パッケージや、カーボンプライシングの漸次引き上げは、日本が成長に配慮した形で目標を達成する助けとなり得る。CO2削減に向けた強力なインセンティブを提供するような水準のカーボンプライシングがなければ、目標達成は困難で、より大きなコストを伴うだろう。的が絞れていないガス・電力・燃料の補助金の廃止や規制措置も、移行を支援することになるだろう。気候政策は、脆弱な人々を保護し、高排出部門の低炭素への秩序ある移行を可能にする措置によって支えられなければならない。グリーンファイナンスは、グリーンな事業や移行に資する事業への資金供給や、気候変動関連金融リスクの適切な管理を通じて、引き続き補助的な役割を果たすべきである。

デジタル化推進およびその他の改革を継続

デジタル庁は、引き続き公共部門をデジタル化するための政策を調整・実施すべきである。デジタルIDカードであるマイナンバーカードの普及拡大を含め、大幅な進展が見られる。しかし、政府機関間のデータ共有は依然として限定的であり、脆弱な世帯向けに的を絞った給付を実施する政府の能力を阻害している。この点に関して、我々は、地方自治体のITシステムを標準化し、中央政府・地方政府間の情報共有を円滑化するための政府の政策を歓迎する。マイナンバーカードのさらなる普及拡大や、同カードの公共及び民間サービス提供との紐づけなど、デジタル庁が示しているその他の優先課題も、包摂的なデジタルトランスフォーメーションを実現する上で不可欠である。各種政策によって、民間部門の安全かつ包摂的なデジタルトランスフォーメーションの支援も行うべきである。それには、ITスキル訓練の強化やデータプライバシーの確保、デジタルリテラシー、消費者保護、サイバーセキュリティが含まれる。

コーポレートガバナンスや貿易政策など、その他の分野における改革努力も継続すべきである。最近の進捗を基礎としつつ、コーポレートガバナンスの取組みと開示の実効性をたしかなものとすることで、コーポレートガバナンス改革はさらに強化され得る。日本は、WTOにおける効果的な紛争解決の確保を含め、ルールに基づく多国間貿易体制を強化するために国際パートナーとともに引き続き積極的に取り組むべきである。

IMF代表団は日本当局および日本の協議参加者による率直かつオープンな協議に感謝する。

日本:主な経済指標(2019ー2024)

名目GDP: 5,006 十億米ドル (2021) 一人当たりGDP:39,883米ドル(2021)
人口:1億2,600万人(2021) クォータ:308億SDR(2021)
2019 2020 2021 2022 2023 2024
予測
(%変化)
成長率・伸び率
実質GDP -0.4 -4.3 2.1 1.4 1.8 0.9
国内需要 0.0 -3.4 1.1 1.8 1.6 0.9
民間消費 -0.6 -4.7 0.4 2.2 1.8 0.8
民間設備投資総額 0.2 -5.4 0.4 0.8 2.8 1.9
企業投資 -0.7 -4.9 0.8 2.0 3.6 2.3
住宅投資 4.1 -7.9 -1.1 -4.7 -0.7 0.0
政府支出 1.9 2.4 3.5 1.4 0.1 0.6
公共投資 1.9 3.4 -1.9 -6.8 2.0 1.7
在庫積増 -0.1 -0.5 0.2 0.6 -0.1 -0.2
純輸出 -0.4 -0.8 1.0 -0.4 0.2 0.0
財・サービスの輸出 -1.5 -11.6 11.7 4.7 3.6 2.0
財・サービスの輸入 1.0 -6.8 5.1 7.0 2.4 1.9
需給ギャップ 0.7 -2.9 -1.6 -0.9 0.1 0.2
(%変化、年平均)
物価上昇率
消費者物価指数(CPI)総合指数 0.5 0.0 -0.2 2.5 2.8 2.0
GDPデフレーター 0.6 0.9 -0.2 0.2 1.6 1.0
(対GDP比)
一般政府
歳入 34.2 35.5 36.6 36.8 35.6 35.5
歳出 37.3 44.6 42.8 44.8 42.2 39.7
財政収支 -3.0 -9.1 -6.2 -8.0 -6.6 -4.2
基礎的財政収支 -2.4 -8.4 -5.6 -7.7 -6.5 -4.1
構造的基礎的財政収支 -2.6 -7.5 -5.6 -7.6 -6.5 -4.2
公的債務(グロス) 236.4 258.7 255.4 258.3 255.7 256.4
(%変化、期末)
マクロ金融
マネタリーベース 2.8 19.2 8.5 -5.0 2.3 3.8
ブロードマネー 2.1 7.4 2.9 3.8 2.8 2.1
民間部門への信用供与 3.2 6.1 1.8 4.0 1.8 1.8
非金融機関債務(対GDP比) 139.3 152.1 155.7 154.6 153.6 152.6
(%)
金利
無担保コールレート翌日物 (期末) -0.1 0.0 0.0
10年物国債利回り(期末) -0.1 0.0 0.1
(10億米ドル)
国際収支
経常収支 176.3 147.9 197.3 76.7 129.9 159.5
対GDP比% 3.4 2.9 3.9 1.8 3.1 3.7
貿易収支 1.4 26.6 15.6 -116.5 -71.1 -41.3
対GDP比% 0.0 0.5 0.3 -2.8 -1.7 -1.0
財輸出(FOB) 695.0 630.6 748.6 758.1 779.4 802.9
財輸入(FOB) 693.6 604.0 732.9 874.6 850.5 844.3
エネルギー輸入 131.9 89.1 127.8 177.3 147.4 135.8
(対GDP比)
対内直接投資(純額) 4.3 1.7 3.6 3.1 3.1 3.1
証券投資 1.7 0.8 -4.0 -1.6 -1.1 -1.1
(10億米ドル)
外貨準備高の変化 25.5 10.9 62.8 20.0 11.5 11.5
外貨準備高(金を除く)(10億米ドル) 1286.3 1348.2 1356.2
(年平均)
交換比率
円・ドル 109.0 106.8 109.8
円・ユーロ 122.0 121.9 129.9
実質実効為替相場(2010年を100とするULCベース) 75.1 74.1 70.7
実質実効為替相場(2010年を100とするCPIベース) 76.6 77.3 70.7
(%)
人口動態指標
人口増加率 -0.2 -0.3 -0.3 -0.3 -0.4 -0.5
老年人口指数 47.6 48.3 48.7 48.9 49.3 49.8
出所: 出所:Haver Analytics、経済開発協力機構(OECD)、日本政府当局、IMF職員の試算と予測。
 
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