IMF、アジア太平洋地域経済見通しを発表 逆風に立ち向かうアジア
2022年10月28日
- ますます世界経済の見通しに陰りが出る中、アジア経済の状況は相対的に明るい材料である。それでも尚、世界的な金融のタイト化とウクライナでの戦争、中国で稀に見る大幅な経済減速という逆風に立ち向かう中で、アジアの経済成長は鈍化する見込みだ。
- アジアの政策当局者はますます困難なトレードオフに直面しているが、インフレ率の上昇を抑制するため金融政策を引き締め、債務を安定させるため財政再建を進め、新たな安定性リスクへ予防的に対処するため政策ツールキットを最大限に活用することに引き続き注力すべきである。
- アジアは、貿易とサプライチェーンのつながりが強いことから、世界が別々の貿易ブロックに分かれる究極の分断化シナリオが現実化した場合、損失が大きい。
シンガポール: アジア太平洋地域の成長は、世界的な金融のタイト化とウクライナでの戦争、中国で稀に見る大幅な経済減速という逆風を反映して、2022年と2023年に減速すると予測される。国際通貨基金(IMF)はアジア太平洋の地域経済見通しで、課題が重なり、政策当局者が困難なトレードオフに直面すると指摘する。
IMFアジア太平洋局長のクリシュナ・スリニバーサンは、「アジア経済は今年上半期に力強く回復したが、第2四半期は予想を下回るペースとなり、勢いが鈍化している。IMFによるアジア太平洋地域の成長率予測は、2022年が4.0%、2023年が4.3%と、4月の世界経済見通しからそれぞれ0.9%と0.8%下方改定された。どちらも過去20年間の平均成長率である5.5%を大きく下回っている。それでも尚、見通しにますます陰りが見える世界経済の中でアジアは依然として、相対的に明るい材料だ」と語る。
アジアは厄介な3重の逆風に直面しており、長丁場になる可能性も否めない。第1の逆風は、世界的な金融のタイト化である。米国のインフレ率が根強く高止まりする中、米連邦準備制度理事会(FRB)は、ますます積極的に金融政策を引き締めている。これにより、アジアの金融環境もタイト化している。
第2の逆風はウクライナでの戦争だ。アジアは主に、一次産品価格を通して影響を受けている。価格はウクライナ侵攻後に急騰し、今も高止まりしている。全てではないが大半のアジア諸国で、交易条件が悪化し、今年の通貨安の主な原因となっている。
第3の逆風は、中国で稀に見る大幅な経済減速である。IMFは、2022年の中国の成長率を、1977年以来2番目に低い水準となる3.2%に引き下げた。ゼロコロナ政策のロックダウンが人やモノの流れに与えた影響や、不動産部門の混乱を反映している。この減速は、貿易と金融のつながりを通じてアジアの他の地域に大きく波及するとみられる。
アジアのインフレ率は2021年には他の地域よりも緩やかに上昇したが、2月に起きたロシアのウクライナ侵攻後、世界の一次産品市場が乱高下し、2022年上半期はアジアの総合インフレ率に一段と圧力がかかった。インフレ率の上昇は、食料と燃料の値上がりが要因だが(特にアジアの新興市場国と発展途上国にて)、域内経済が回復するにつれてコアインフレ率が上がっていることも反映する。
こうした背景の下、スリニバーサン氏は、政策当局者にとってのいくつかの優先事項を強調した。
「インフレ率を目標水準に戻し、インフレ期待を引き続きしっかりとアンカーするためには、金融政策を一段と引き締めなければならない。公的債務を安定させ、金融政策の方針を支えるためには、財政再建が必要だ。アジアは現在、貯蓄が最大の地域であると同時に、世界最大の債務を抱えており、いくつかの国は債務危機のリスクが高い。公的および民間の債務状況はパンデミック後、成長の鈍化と債務水準の上昇を反映し、すでに悪化している。通貨安と金利上昇により、レバレッジが高くヘッジされていないバランスシートに起因する金融の脆弱性があらわになり、公的債務比率がさらに上がる可能性がある。金利が上昇すれば、債務の安定化に多くの財源が必要となる。さらなる下振れリスクに留意しつつ、各国に適切に調整された時宜にかなった方法でこれらの課題に取り組むための統合的なアプローチが肝心である。
さまざまな課題が重なる困難な状況により、パンデミックに起因する中期の経済的傷跡が広がっている。パンデミックにより生産高は、パンデミック前の予測と比べて長期的に減少するとみられ、アジア太平洋地域は他地域よりも打撃が大きくなる見込みだ。他の地域と比較して、アジアの成長不足要因は、パンデミック後の投資の低迷によるところが大きい。観光に依存する国や多額の債務を抱える国は特に、生産高の損失が大きいとみられる。
厳密な政策対応は各国の状況によるが、過剰な企業債務に対処し、人的資本の損失を軽減することが、この地域の幅広い国にとって重要となる。
地政学的分断が拡大する可能性が、この地域に重大なリスクとなっている。報告書では、貿易政策の不確実性が高まり、各国が以前にも増して貿易制限を課すなど、懸念すべき分断化の初期兆候を指摘する。実際制限がない場合でも、貿易政策の不確実性が高まると、短期的にマクロ経済に悪影響を及ぼす可能性がある。2018年に見られた米中関係の緊張の高まりなど、貿易政策の見通しに対する典型的な打撃により、2年後の投資が約3.5%減る。
報告書は、世界が別々の貿易ブロックに分割されるという究極の分断化シナリオを示し、それが大規模で永続的な生産高の損失につながることを指摘する。世界の製造業と貿易におけるアジアの重要性を踏まえると、アジアの損失は特に大きくなる可能性がある。生産性の低下による損失だけでも、地域の生産高が最大3.3%ポイント減る。企業が輸出市場へのアクセスを失うにつれて投資が落ち込むため、総損失はそれよりもはるかに大きくなるとみられる。
したがってIMFは、最も有害な分断化シナリオを回避し、貿易が成長のエンジンとして機能し続けるために、貿易制限を縮小し、政策の不確実性を軽減し、地域および世界レベルで開かれて安定した貿易を促進するための国際協力の必要性を強調する」
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