IMF理事会、2022年の対日4条協議を終了
2022年4月6日
国際通貨基金(IMF)理事会は2022年4月1日に対日4条協議 [1] を終了した。
日本経済は、強力な政策支援と高いワクチン接種水準の中で、パンデミックから回復しつつある。日本は、感染拡大防止措置などを理由に、大半の先進国に比べて新型コロナウイルスの感染率と死亡率が大幅に低かった。実質 GDP成長率は、2020年に4.5%縮小した後、2021年は推計で1.6%伸びた。エネルギー価格の高騰を受けて、物価上昇率は2021年を通して徐々に高まったが、依然として2%の物価目標を大きく下回っている。2021年の経常収支黒字は対GDP比2.9%となり、対外ポジションは中期的なファンダメンタルズと望ましい政策に概ね整合的な水準にあると暫定的に評価されている。企業倒産と不良債権は、強力な財政および金融の支援と、規制緩和措置により促された流動性・与信供給のおかげで、歴史的低水準にある。銀行システムは引き続き資本が充実していて流動性が高く、短期的な脆弱性は抑制されている。
強力な政策支援の継続や高いワクチン接種率、世界的な供給制約の緩和の中で、2022年はGDP成長率が2.4%に達すると予測されている。ペントアップ需要が解放され、消費が回復を牽引することになる。パンデミックの不確実性と供給制約が解消されるのに応じて、投資は持ち直すとみられる。国内需要の回復ペースは、一次産品価格の上昇とウクライナ紛争に関連した不確実性の高まりによって鈍化するだろう。欧州において予想される減速を主な理由として、外需も地政学的緊張の影響を受けるだろう。物価上昇率は、輸入価格の上昇と内需の高まりを受けて上向くとみられており、2022年の消費者物価指数(CPI)総合指数の上昇率は1.0%と予測されている。高齢化と人口減少は中長期的に重しとなり続けるだろう。強力な政策支援によって失業率は低く抑えられており、大きな爪痕が残る可能性は低い。財政バッファーは、ショックに対応する能力を維持すべく、成長に配慮した形で中長期的に徐々に再構築されるべきである。そのスタンスをより持続可能なものにするためのさらなる措置を講じつつ、金融緩和政策をとることは正当化される。デジタルとグリーンへの変革は、パンデミック後の力強く持続可能で包摂的な成長を促進するために活用しうる。労働供給を拡大し、生産性を高め、投資を支援するための改革を再活性化することは、潜在成長率を押し上げ、リフレーションを促進するだろう。
理事会による評価 [2]
理事らは、パンデミックからの回復を支えている当局による強力な政策支援とワクチン普及の着実な進展を称賛した。理事らは、パンデミックをめぐる不確実性とウクライナにおける戦争が重大な下振れリスクをもたらしている点に言及した。また、生産性を向上させ、包摂的で持続可能な成長を達成するための取り組みの重要性を強調した。
理事らは、回復が確実になるまでは、より的を絞った施策へと徐々に移行しつつも、短期的には財政政策が引き続き柔軟であり景気を下支えするものでなければならないと強調した。また、公的債務を下降軌道に乗せ、ショックに対応する能力を高めるべく、成長を維持する十分に具体化された中期的な財政健全化戦略の必要性を強調した。
理事らは、緩和的な金融政策が引き続き適切である点で一致した。 多くの理事が金融政策枠組みのさらなる改良が金融安定性の確保に貢献しうるとの意見を述べたのに対し、一部の理事は現行の枠組みが効果的で柔軟であるという当局の見解に留意した。 理事らは、明確なコミュニケーションが金融政策の有効性を高めることに貢献するだろうと強調した。日本では実質下限が制約となっていることを踏まえ、大多数の理事は、物価上昇率を持続的に目標へ引き上げるために必要な支援を提供する上で、包括的で相互に補強し合う財政・金融・構造政策が不可欠であると考察した。
理事らは、金融安定性が維持されていることを歓迎し、脆弱性を抑えるため金融監督について引き続き警戒を怠るべきでないと強調した。また、パンデミックの収束に応じて、パンデミック関連の金融支援を縮小すべきとの点で一致した。また、低金利の長期化と高まる人口動態圧力に関連する課題に言及し、当局に対して、金融監督・規制を一層強化すること、システミックリスク評価の範囲を拡大すること、そしてマクロプルーデンス政策ツールキットを強化することを求めた。
理事らは、力強く持続可能で包摂的な成長を促進するために、計画されているデジタルとグリーンへの変革を当局が活かすことを奨励した。 また、カーボンプライシングが果たしうる重要な役割に言及しつつ日本のカーボンニュートラルへのコミットメントを歓迎するとともに、関連目標を達成するためのさらなる取り組みの必要性を強調した。 理事らは、民間部門におけるデジタル化を推進し、一元化されたデジタル庁を設置するという最近のイニシアティブがデジタル化の加速に資するはずであると言及した。また、包摂的なデジタルへの移行を実現するために、非熟練労働者の失職を回避することを推奨した。
高齢化と人口減少に照らして理事らは、とりわけ女性および高齢労働者の労働供給と生産性、賃金を高めるための改革の加速を呼びかけた。また、ビジネスダイナミズムを高め投資を促進するために、コーポレートガバナンス改革と規制改革を拡大・深化させるべきであると強調した。理事らは、開放的かつ安定的で透明な貿易政策を推進するために日本が継続的に行っている多国間および地域的な取り組みを歓迎した。
[1] 国際通貨基金協定第4条の規定に基づき、IMFは加盟国との二者間協議を通常は毎年行う。IMF職員の代表団が協議相手国を訪問し、経済や金融の情報を収集するとともに、その国の経済状況や経済政策について政府当局と協議する。本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会での議論の土台となる報告書を作成する。
[2] IMF理事会の議長である専務理事は、議論終了時に結論を理事会の見解として要約し、その要約が当該国の政府当局に提出される。専務理事による総括で使用される修飾語句の定義については次のリンクを参照: http://www.IMF.org/external/np/sec/misc/qualifiers.htm.
表1.日本:主な経済指標(2018 ー 2023 ) |
||||||||
名目GDP:4兆9,370億米ドル(2021年) |
1人あたりGDP:39,340米ドル (2021年) |
|||||||
人口:1億2,600万人(2021年) |
クォータ:308億SDR (2021年) |
|||||||
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
||
予測 |
||||||||
(%変化) |
||||||||
成長率・伸び率 |
||||||||
実質GDP |
1.7 |
0.6 |
-0.2 |
-4.5 |
1.6 |
2.4 |
2.3 |
|
国内需要 |
1.1 |
0.6 |
0.2 |
-3.7 |
0.6 |
2.0 |
2.1 |
|
民間消費 |
1.1 |
0.2 |
-0.5 |
-5.2 |
1.3 |
2.2 |
2.7 |
|
民間設備投資総額 |
2.0 |
0.3 |
0.8 |
-6.7 |
-0.9 |
1.5 |
4.2 |
|
企業投資 |
2.4 |
1.9 |
0.1 |
-6.5 |
-0.7 |
1.9 |
4.6 |
|
住宅投資 |
0.5 |
-6.4 |
4.1 |
-7.9 |
-1.9 |
-0.1 |
2.3 |
|
政府支出 |
0.1 |
1.0 |
1.9 |
2.3 |
2.1 |
3.0 |
0.4 |
|
公共投資 |
0.1 |
0.6 |
1.7 |
3.9 |
-3.7 |
-3.4 |
-4.7 |
|
在庫積増 |
0.1 |
0.2 |
-0.1 |
-0.1 |
-0.2 |
0.0 |
0.0 |
|
純輸出 |
0.6 |
0.0 |
-0.5 |
-0.9 |
1.1 |
0.5 |
0.2 |
|
財・サービスの輸出 |
6.6 |
3.8 |
-1.5 |
-11.8 |
11.6 |
5.7 |
5.6 |
|
財・サービスの輸入 |
3.3 |
3.8 |
1.0 |
-7.2 |
5.2 |
3.2 |
4.7 |
|
GDPギャップ |
-0.5 |
-0.7 |
-1.4 |
-2.7 |
-2.6 |
-1.7 |
-0.4 |
|
(年平均) |
||||||||
物価上昇率 |
||||||||
消費者物価指数(CPI)総合指数 |
0.5 |
1.0 |
0.5 |
0.0 |
-0.3 |
1.0 |
0.8 |
|
GDPデフレーター |
-0.1 |
0.0 |
0.6 |
0.9 |
-0.9 |
0.4 |
0.4 |
|
(対GDP比) |
||||||||
一般政府 |
||||||||
歳入 |
33.6 |
34.3 |
34.2 |
35.6 |
35.5 |
35.0 |
35.0 |
|
歳出 |
36.7 |
36.8 |
37.2 |
44.5 |
43.2 |
42.8 |
38.5 |
|
財政収支 |
-3.1 |
-2.5 |
-3.0 |
-9.0 |
-7.6 |
-7.8 |
-3.5 |
|
基礎的財政収支 |
-2.2 |
-1.7 |
-2.4 |
-8.3 |
-7.0 |
-7.4 |
-3.3 |
|
構造的基礎的財政収支 |
-2.4 |
-1.7 |
-1.9 |
-7.5 |
-6.4 |
-6.9 |
-3.2 |
|
公的債務総額 |
231.4 |
232.5 |
236.1 |
259.0 |
263.1 |
262.5 |
258.3 |
|
(%変化、期末) |
||||||||
マクロ金融 |
||||||||
ベースマネー |
9.7 |
5.0 |
2.8 |
19.2 |
8.6 |
2.9 |
3.6 |
|
ブロードマネー |
3.5 |
2.3 |
2.1 |
7.3 |
3.0 |
3.4 |
3.4 |
|
民間部門への信用供与 |
4.0 |
0.8 |
2.9 |
6.3 |
1.3 |
0.9 |
2.3 |
|
非金融機関債務(対GDP比) |
134.2 |
136.2 |
138.5 |
151.9 |
153.2 |
152.3 |
150.9 |
|
(%) |
||||||||
金利 |
||||||||
無担保コールレート翌日物 (期末) |
-0.1 |
-0.1 |
-0.1 |
0.0 |
… |
… |
… |
|
CD3か月物金利(年平均) |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
… |
… |
… |
|
公定歩合(期末) |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
… |
… |
… |
|
10年物国債利回り(期末) |
0.1 |
0.1 |
-0.1 |
0.0 |
… |
… |
… |
|
(10億米ドル) |
||||||||
国際収支 |
||||||||
経常収支 |
203.5 |
177.8 |
176.0 |
148.8 |
141.7 |
117.2 |
142.2 |
|
(対GDP比、%) |
4.1 |
3.5 |
3.4 |
3.0 |
2.9 |
2.4 |
2.7 |
|
貿易収支 |
44.1 |
11.0 |
1.4 |
28.8 |
16.4 |
-29.8 |
-21.9 |
|
(対GDP比、%) |
0.9 |
0.2 |
0.0 |
0.6 |
0.3 |
-0.6 |
-0.4 |
|
財輸出(FOB) |
689.1 |
735.9 |
695.0 |
631.5 |
748.5 |
806.8 |
856.2 |
|
財輸入(FOB) |
645.0 |
724.9 |
693.6 |
602.8 |
732.1 |
836.6 |
878.1 |
|
エネルギー輸入 |
117.8 |
148.5 |
131.9 |
89.1 |
127.7 |
195.9 |
168.5 |
|
(対GDP比) |
||||||||
対内直接投資(純額) |
3.1 |
2.7 |
4.3 |
1.8 |
2.4 |
2.9 |
2.8 |
|
証券投資 |
-1.0 |
1.8 |
1.7 |
0.7 |
-4.0 |
0.5 |
0.9 |
|
(10億米ドル) |
||||||||
外貨準備高の変化 |
23.6 |
24.0 |
25.5 |
10.9 |
62.8 |
11.5 |
11.5 |
|
外貨準備高(金を除く)(10億米ドル) |
1232.4 |
1239.4 |
1286.3 |
1348.2 |
… |
… |
… |
|
(年平均) |
||||||||
為替相場 |
||||||||
円・ドル |
112.2 |
110.4 |
109.0 |
106.8 |
… |
… |
… |
|
円・ユーロ |
126.7 |
130.5 |
122.0 |
121.9 |
… |
… |
… |
|
実質実効為替相場(2010年を100とするULCベース) |
76.5 |
74.6 |
75.4 |
74.7 |
… |
… |
… |
|
実質実効為替相場(2010年を100とするCPIベース) |
75.0 |
74.4 |
76.5 |
77.2 |
… |
… |
… |
|
|
(%) |
|
||||||
人口動態指標 |
||||||||
人口増加率 |
-0.2 |
-0.2 |
-0.2 |
-0.3 |
-0.3 |
-0.3 |
-0.4 |
|
老年人口指数 |
46.0 |
46.9 |
47.6 |
48.3 |
48.7 |
48.9 |
49.3 |
|
出所:Haver Analytics、経済開発協力機構(OECD)、日本政府当局、IMF職員の試算と予測。 |
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