対日2022年4条協議訪問 終了にあたっての職員の声明

2022年1月27日

「訪問終了にあたっての声明」は、国際通貨基金(IMF)職員による公式訪問(大半の場合は対加盟国)の終了に伴い発表されるもので、職員による初期評価を示すものである。IMF訪問団の派遣は、国際通貨基金協定4に基づき定期的に(通常は年1回)行われる協議の一環として、また、IMF資金の利用(IMFからの借り入れ)の要請に関連して、あるいは、スタッフ・モニタリング・プログラムの協議のため、さらには、職員によるその他の経済情勢モニタリングの一環として行われる。

各国当局はこの声明の公表に同意している。同声明における見解はIMF職員の見解を示すもので、必ずしもIMF理事会の見解を示すものではない。この初期評価を基に、IMF職員は報告書を作成する。その報告書はマネジメントの承認を受け、IMF理事会に協議や決定のための資料として提出される。

ワシントン DC:

日本経済は、強力な政策支援と高いワクチン接種水準の中で、パンデミックから回復しつつある。回復は 2022 年に勢いを増すと見込まれているが、リスクバランスは下方に傾いている。短期的には、緩和的な政策が維持されるべきだが、次第に対象を絞り込んでいくべきである。将来的には、経済のリフレーションを実現し、持続的な成長軌道に移行するために、①人口高齢化が進む中で財政ポジションをより強固な基盤の上に据える、②金融の安定性を保護しつつ金融緩和政策の持続可能性を高める、③強力で包摂的な成長を推進するために成長促進的な改革とデジタルとグリーンへの変革を前進させるという包括的で相互に補強し合う政策がパンデミック終息後に必要となる。

最近の経済動向と政策

パンデミックに対する日本の政策対応は非常に強力なものであり、景気後退の緩和に貢献してきた。日本は、感染拡大防止措置などを理由に、大半の先進国に比べて新型コロナの感染率と死亡率が大幅に低かった。政府は 3度にわたって大型の補正予算を編成し、その結果、2019年には対GDP比2.4%であった基礎的財政収支の赤字は2020年には同8.3%、2021年には同7.2%へと拡大した。各種措置は家計を救済し、雇用を維持し、企業に与信枠を提供することを目的とするものであった。日本銀行は迅速に対応し、十分な流動性の供給と資産買い入れの拡大を通じて、企業向け融資を促すとともに金融市場の安定性を維持した。金融庁は流動性と与信の供給を支援するために、プルーデンス規制の一時的な緩和を認めた。

こうした強力かつタイムリーな政策支援によって、日本経済はパンデミックから回復しつつある。実質GDP成長率は、2020年に-4.5%とマイナスになった後、2021年は推計で1.6%に伸びた。エネルギー価格の高騰を受けて、物価上昇率は2021年中に徐々に高まったが、依然として2%の物価目標を大きく下回っている。2021年の経常収支黒字は対GDP比3.1%と推定されており、対外ポジションは中期的なファンダメンタルズと望ましい政策に概ね整合的な水準にあると暫定的に評価されている。企業倒産と不良債権は、強力な財政及び金融の支援と、規制緩和措置により促された流動性・与信供給のおかげで、歴史的低水準にある。銀行システムは引き続き資本が充実していて流動性が高く、短期的な脆弱性は抑制されている。

見通しとリスク

強力な政策支援の継続や高いワクチン接種率、世界的な供給制約の緩和の中で、2022年は成長が加速して3.3%に達すると見込まれている。ペントアップ需要が解放され、消費が回復を牽引することになる。パンデミックの不確実性と供給制約が解消されるのに応じて、投資は持ち直すだろう。世界経済がパンデミックから抜け出す中で、旺盛な外需が持続することが見込まれる。日本で現在起こっているオミクロン株の感染拡大によって第1四半期は成長の勢いが鈍化する可能性があるが、感染の波が収まるのに応じて、第2四半期には力強いリバウンドが見込まれる。物価上昇の勢いは、輸入価格と内需の高まりを受けてさらに強まると見込まれている。

高齢化と人口減少は中長期的に経済の重しとなり続けるだろう。パンデミックが大きな爪痕を残す可能性は低く、実質GDP成長率は0.5%の潜在成長率に収斂していくと予測されている。現行の政策下では、物価上昇率は予測期間を通じて日本銀行の物価目標である2%を下回って推移すると見込まれている。基礎的財政収支の赤字は、新たな政策イニシアティブがない場合には2024年に対GDP比約2%まで縮小した後、高齢化に伴う支出圧力を理由として長期的に徐々に拡大すると予測されている。経常収支黒字は、日本の対外純資産が大幅なプラスであり、純収益が高いことから生じる所得収支黒字に概ね対応する形で、対GDP比3%を若干上回る水準で推移すると予測されている。

パンデミックをめぐる異例の不確実性が下振れリスクをもたらしている。オミクロン株に対処する上で厳格な感染拡大防止措置が必要となる可能性があり、サービス消費の回復に遅れが生じかねない。国際金融環境の急激なタイト化と世界経済の減速は、日本経済の回復の重しとなり、マクロ金融リスクを顕在化させるおそれがある。債務持続可能性への懸念と、低利回り環境下での金融機関による過剰なリスクテイクによって、金融の安定性が損なわれる可能性がある。労働市場の硬直性と存続不可能な企業の退出の遅れによって、資源の再配分が妨げられかねない。

回復を支える

短期的には、脆弱な世帯を救済しパンデミックによる経済への恒久的なダメージを防ぐために、政策支援の継続が正当化される。

2021年11月に発表された財政刺激パッケージによって必要な支援が提供されることになる。現行の政策下では2022年の基礎的財政収支の赤字は対GDP比6.7%になるとIMF職員は予測している。しかしながら、例えば子育て世帯への現金給付の所得制限額を引き下げることにより、同パッケージの対象をより絞り込むことは可能であっただろう。加えて、高い成長ポテンシャルを有する分野への資源再配分を円滑化し、デジタルでグリーンな回復を促進するためのさらなる措置を含めることもできたであろう。今後は、パンデミックを取り巻く大きな不確実性を考慮すると、財政政策は機動的かつ柔軟で、疫学的および経済的動向に応じて支援の規模と内容を調整するべきである。

物価上昇率が中期的に2%目標を下回って推移するという予測を踏まえれば、緩和的な金融政策スタンスが適切である。大企業の資金調達難は大幅に改善しており、日本銀行が異例の支援を終了し、2022年3月以降社債買い入れの上限を危機前の水準に引き下げることを可能とした。日本銀行は、主に対面サービス部門における中小企業の財務状況が脆弱であることを受けて、中小企業の資金繰りを支援する特別プログラムを2022年9月まで半年延長した。非金融企業向けにより的を絞った金融支援に移行することは、新たなゾンビ企業の増加を防ぎつつ経済に対する下振れリスクを軽減することに資するはずであり、歓迎される。

金融監督は、脆弱性を抑えるために引き続き警戒を怠るべきでない。パンデミック下における強力な財政・金融政策支援によって経済に対してライフライン支援が提供されたが、それは損失の認識と引当金の計上を遅らせる可能性がある。資源が存続不可能な企業に滞留し、回復を支える銀行の能力が妨げられるのを回避するために、銀行に対して適切な貸倒引当金の計上を行い、不良債権を先んじて認識することをさらに奨励すべきである。パンデミックの収束に応じて、当局は、存続可能だが流動性制約がある企業に支援を移行したり、融資保証や低利融資プログラムを縮小したりするなどして、パンデミック関連措置の規模縮小を回復の妨げにならないペースで継続すべきである。

パンデミック後のビルド・バック・ベター

包摂的で持続可能な成長を促進し、経済のリフレーションを実現するには、包括的で相互に補強し合う政策が必要となる。その主な要素は、①債務持続可能性のリスクを引き下げるための財政健全化、②金融緩和の持続可能性を強化するためのさらなる措置、③システミックリスクの蓄積を抑制するための強化された金融セクター政策、④低炭素のデジタルエコノミーへの移行を含む労働供給と生産性、投資を拡大するための改革である。

財政政策

回復が本格化した際には、財政バッファーを徐々に再構築し、中長期的な債務持続可能性を確保することが重要となる。パンデミック下における異例の財政支援とGDPの急激な落ち込みによって、債務残高の対GDP比は2019年の236%から2021年には259%へと上昇した。債務の借り換えと発行のリスクは、豊富な国内貯蓄とホームバイアス、外貨建て債務を含まない債務構成を背景として、短期的には抑えられている。しかし、中長期的には人口動態のトレンドが重くのしかかり、債務持続可能性のリスクは高まる。中期的な財政健全化は、公的債務を下降軌道に乗せ、将来のショックに対応する能力を高めることを目的とすべきである。

持続可能な財政ポジションへの移行は、短期的な安定化と中期的な財政の持続可能性との間でバランスの取れた財政枠組みに基づく必要がある。その枠組みは、以下のようなものであるべきである。

• 十分に具体化されていること。健全化戦略は、十分に具体化された財政措置によって裏付けされるべきである。枠組みは、大きな下振れリスクが顕在化した場合に発動されるコンティンジェントプランを含めうる。

• 保守的な予測に基づいていること。財政計画の信頼性を守るために、その基礎となるマクロ財政予測は慎重かつバランスのとれたものでなければならない。最初のステップとして、既存のベースラインシナリオと高成長シナリオに下振れシナリオを追加すれば、ベースラインを中心に据えて政策を議論することに役立つだろう。独立財政機関によって行われた予測は、枠組みの信頼性を高めうる。

• 成長の勢いを持続すること。財政健全化は経済状況を勘案し、民間需要の拡大につながる措置によって裏付けられるべきである。当局は、財政健全化と、下方ショックの際に財政支援を提供する必要性また成長の勢いを維持する必要性を比較しつつ、2025年度の財政目標に向けた進捗を引き続き評価すべきである。

• 予見可能であること。大型の補正予算が頻繁に編成され、当初予算からの歳出の上方修正につながっている。一般的に、補正予算による追加支出は、パンデミックのような予想外の大規模なショックへの対応に限定されるべきである。

財政健全化には、予算の歳出側と歳入側の双方における政策イニシアティブが必要となる。歳出側では、高齢化と新技術の利用に伴って、医療・介護支出が長期的に拡大すると予測されている。後発医薬品の使用促進や公的保険の対象となるサービスの範囲の縮小、入院期間の短縮によって効率性を向上させる余地がある。貧困層を除く高齢者の自己負担割合も引き上げる必要がある。高齢者の自己負担を引き上げるという政府の決定は正しい方向に向けた一歩だが、対象の絞り込みについて改善する余地がある。

歳入側では、対GDP比で見た日本の税収はG7諸国に比べて低く、さらなる歳入確保を図る余地があることを示している。検討の対象となりうる選択肢には、消費税の標準税率の引き上げや、住宅用地に係る優遇措置の廃止を通じた資産課税の強化、個人所得税制における所得控除の合理化、資本所得税率の引き上げが含まれる。分配面での負の影響を軽減するために、より適切に脆弱な世帯に的を絞ることを含めた補完的な措置が必要となりうる。この文脈において、マイナンバー制度や他のデジタル化措置を活用しつつタイムリーに世帯を特定し、手を差し伸べるために、政府間の情報の流れを支援することが不可欠である。

金融政策と金融セクター政策

長期にわたる金融緩和を維持するという日本銀行のコミットメントは、引き続き適切である。現行の金融政策枠組み(「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」)は、2016年9月に導入されて以来、金融環境の緩和と金融緩和の持続可能性の強化に貢献してきたが、2%の物価目標は未だ達成されていない。IMF職員は、インフレ期待と物価上昇率を持続的に目標へ引き上げていくには、長期にわたる金融緩和政策と柔軟な財政政策、そして包摂的な成長を志向する改革が必要になると見ている。

2021年3月に日本銀行が行った点検を受けて実施された金融政策枠組みの調整は、金融支援の持続可能性を高めることに資するが、それを土台に、さらなる措置を検討することができるだろう。利回り目標を10年物からより短い満期にシフトさせてイールドカーブをスティープ化することがひとつの選択肢となりうる。それは、経済活動にとって最も重要な短中期債の利回りを依然として低く抑えつつ、長期化する金融緩和が金融機関の収益性に与える影響を軽減することに役立ちうる。市場が金融緩和の撤回と認識するのを避けるためには、慎重な実施とコミュニケーションが必要になるだろう。

基調的な物価上昇の勢いが弱いまま推移する場合には、政策金利の引き下げが第一の選択肢となるべきである。加えて、マイナス金利が適用されるのは、日銀の3層構造の下で、銀行の準備預金の比較的小さい部分であり、その部分を拡大すればマイナス政策金利の短期金融市場と預金金利、とりわけ企業の預金金利への波及を強化することに貢献しうる。注意深くカリブレートされれば、これは、短期金融市場の円滑な機能を維持し、民間投資を拡大する助けとなり、ひいては中期的な財政健全化を容易にしうる。

コミュニケーションを強化するために、更にできることがある。政策金利を物価安定目標にリンクさせて長期間にわたる緩和的な金融政策の維持にコミットすることは、イールドカーブ・コントロールを強化し、家計に対してより多くの支出を今日行うよう促す助けとなる。同様に、オーバーシュート型コミットメントをマネタリーベースから切り離すことにより、コミュニケーションを簡略化しうる。

パンデミックは、とりわけ銀行システムの40%を占める地方銀行にとって、高齢化と人口減少に伴う低収益性に起因する長期的な財務の脆弱性に拍車をかける可能性がある。この課題に対処するために、合併や経費削減に関する日本銀行の特別当座預金制度や、合併や経営統合のための補助金、独占禁止法の適用除外、事業多様化を支援するための銀行法改正など、幾つもの歓迎すべき措置が講じられている。

低金利の長期化を背景に、マクロ金融リスクが生じるおそれがある。金融庁は、早期警戒制度を利用して、地方銀行がビジネスモデルを更新し、ITやフィンテックをより良く活用し、また再編するよう引き続き促すべきである。金融庁は最近の銀行法改正で認められたものを含む新たな事業分野における銀行のリスク管理と能力に関して、引き続き監視を行い、必要に応じて監督を一層強化すべきである。日本銀行と金融庁による潜在的リスクのシステム全体への影響に関する緊密な連携と意見交換は歓迎すべきイニシアティブである。金融庁は、日本銀行と緊密に連携し、引き続きシステミックリスク評価の範囲を拡大し、リスクが顕在化した場合に対処するためのマクロプルーデンス政策ツールキットを強化すべきである。

包摂的で持続可能な成長に向けた改革

政府の経済政策アジェンダの中心には、成長と分配の循環の推進が適切に据えられている。経済成長を高めるための優先政策としては、デジタル変革とグリーン投資の推進、スタートアップ支援、デジタル化を通じた地方活性化、経済安全保障の強化などがある。所得分配戦略は、法人税の控除などを通じた賃上げの推進、医療・保育従事者の公的賃金の引き上げ、男女間および正規雇用・非正規雇用労働者間の賃金格差の縮小、人的資本投資の支援、労働移動の強化、中小企業の再構築の円滑化によって、労働所得の割合を高めることを目的としている。

低炭素経済への移行

炭素排出量削減に向けた日本の新たな勢いは、気候変動の緩和への重要かつ前向きな一歩となるものである。日本は2020年10月に温室効果ガスの排出量を2050年までにネットでゼロに削減することにコミットした。日本は2021年4月、従来の26%から中期目標を引き上げ、2030年度に2013年度比46%の排出量を削減するとし、さらに50%の排出量を削減する努力を継続する。日本の気候変動戦略は、地域と世界全体の脱炭素化に歓迎すべき貢献を行いつつ、技術革新とグリーン金融に重点を置いている。

カーボンニュートラル目標は、最も脆弱な層を保護しながら成長に配慮した形で達成することができる。日本は2011年の地震と津波以降、エネルギー需要を満たすために化石燃料に大きく依存してきており、排出量削減は特に難題となる。IMF職員の分析では、炭素価格の段階的引き上げと組み合わせたグリーンエネルギー投資を含む包括的な政策パッケージが、成長と雇用、投資に正味でプラスの影響を与えるとされている。民間のグリーン投資へのインセンティブを強化し、高炭素エネルギー源から低炭素エネルギー源への移行を加速し、排出量削減目標を支えるために、カーボンプライシングへの依存度を高めることを検討しうる。脆弱な世帯に対しては、炭素収入を一部財源とする補償的な給付を支給することができるだろう。

日本は、グリーン金融市場の発展と、気候変動関連の金融リスクの管理に関して、前進を遂げつつある。グリーン金融商品に関する国内基準やグリーン債の発行コストを負担する補助金スキームに支えられて、日本の事業体によるサステナブルボンドやグリーンボンドの発行は急速に拡大している。企業の気候変動開示は限定的だが改善されつつある。改訂コーポレートガバナンス・コードによってプライム市場上場会社の気候変動開示が強化されると見込まれている。日本銀行と金融庁は、金融の安定性にとっての気候変動の役割について研究しており、気候シナリオ分析の試験的実施が進められている。日本銀行は2021年7月に、民間セクターの気候変動関連分野での様々な取組みを支援する資金供給手段を含む気候変動戦略を公表した。

さらなる政策努力を行えば、気候変動関連金融リスクを管理する日本の能力が強化され、グリーン金融市場の発展に貢献することになるだろう。より良い気候データと情報開示が非常に重要となる。また、金融機関や企業、投資ファンド向けの強制的な最低基準を検討すべきである。グリーン・タクソノミーの使用は、グリーンウォッシュのリスクを軽減し、市場参加者に対して確実性を提供する手段の一つとなるだろう。金融機関の間で気候ファイナンスに関する知見を蓄積し、シナリオ分析を含むリスク計測・管理手法を発展させ、金融機関に対する気候関連金融リスクに関する監督指針を公表する取り組みは重要であり、歓迎される。

デジタル化の恩恵を活かす

政府のデジタルトランスフォーメーション戦略は、日本の不均一なデジタル化の状況を改善し、生産性を高めることに貢献する。日本は、産業用ロボットの利用を含む幾つものの技術フロンティアでリーダーとなっているが、(電子商取引を含む)企業や政府サービス、金融サービスにおけるデジタルの導入に関しては他国に追いつく余地がある。政府は、公的部門のデジタル化を加速するためにデジタル庁を発足させ、民間部門におけるデジタル化を促すための税制インセンティブを導入した。IMF職員によるクロスカントリー分析では、こうした措置はICT投資の拡大を通じて中期的に労働生産性を高めることに貢献しうることが示唆されている。非熟練労働者を保護するため、とりわけITスキルについての訓練の強化など、綿密に設計された政策支援が必要となるだろう。

パンデミックはキャッシュレス決済やオンラインコマースの利用を加速させたが、その導入はさらに拡大しうる。より現金を使わない経済への段階的な移行を支援するイニシアティブ(高額紙幣の発行縮小や現金決済の相対的コストの引き上げなど)は、中期的に金利の実質下限を更に引き下げ、マイナス金利の刺激効果を高めうる。さらに、デジタルの導入を加速する上では、金融とデジタルのリテラシーを高めて人々の信頼を高め、異なるキャッシュレス決済プラットフォーム間の相互運用性を向上させ、データプライバシーと消費者保護、サイバーセキュリティを強化することが重要である。

優先的改革による好循環を構築する

成長促進的な改革を加速することによって、生産性と賃金を押し上げ、所得分配を改善しうる。改革アジェンダでは労働供給と生産性を高めるための包括的な措置を優先し、それと合わせて投資を促進するための規制改革と企業改革を行うべきである。

• 労働供給を増加させる。安価で質の高い保育へのアクセスをさらに拡大し、柔軟な就業形態を充実させることは、女性と高齢者の労働参加の増加を持続させることに資するだろう。さらに、労働力が不足している部門での外国人の高度専門職人材や外国人労働者の受け入れを推進する政策も強化しうる。

• 労働生産性と賃金を上昇させる。最近拡充された賃上げのための法人税控除は、主に正規雇用労働者と大企業に恩恵をもたらすものであり、さらなる改革によって補完することができる。特に、「働き方改革」戦略の実施をフォローアップすることは、正規雇用・非正規雇用労働者間の生産性と賃金の格差を縮小させる上で有用だろう。技能向上のための既存の訓練プログラムは、勤続年数ではなく能力に基づく柔軟な雇用・賃金システムへの移行によって補完することが可能である。労働市場の二重構造を解消することは、非正規雇用労働者の就業機会を拡大する上で有用であり、生産性と実質賃金の上昇につながるだろう。

• コーポレートガバナンスを改善する。最近の進捗を土台として、社外の、また多様な取締役の数を増やし、株式の持ち合いを縮小させ、実質的所有者の透明性を高めるためのより野心的な要件を設定することによってコーポレートガバナンス改革をさらに強化することができる。こうした措置は、企業が多額の現金準備を使い、投資と生産性を高めるインセンティブを与えることに資するだろう。

• 投資を促進する。社会の急速な高齢化という文脈において、企業の秩序ある退出を支援し、親族以外への承継にインセンティブを付与する政策は正しい方向への動きである。さらに、ビジネス環境を改善するためには、規制緩和(専門サービス、土地利用、参入障壁、既存企業の保護等に関するもの)や研究開発投資の取り組みを強化しうる。手続きの簡略化や外国人の雇用を許可するプロセスの迅速化など対内直接投資の潜在的な障害に対処する努力を進めることも、直接投資フローの促進に貢献するだろう。法人所得課税をキャッシュフローベースの課税に変更し、同時に法定税率を引き上げることは、税収中立的に投資を拡大することに貢献しうる。

貿易政策

日本は、開放的かつ安定的で透明な貿易政策を推進するための世界的および地域的な取り組みにおいて歓迎すべき主導権を行使している。日本の貿易と直接投資の制度は概して開放的であるが、農業支援政策は引き続き比較的制限的となっている。当局は、実効的な紛争解決を確保し、貿易ルールを現代化し、WTOの監視・執行機能を強化することになるWTO改革の前進に意欲的である。日本はまた、電子商取引と投資円滑化に関する共同声明イニシアティブに関する交渉に積極的に関与しており、最近妥結したサービス国内規制に関する共同声明イニシアティブについて交渉当初からのメンバーであった。

サプライチェーンの強靭性を高めるための補助金プログラムは、グローバル・バリューチェーンの効率性を向上させるはずである。こうしたプログラムは、COVID-19のパンデミックによってサプライチェーンに混乱が生じていた最中の2020年に、国内の生産拠点を強化しアジアにおけるサプライチェーンを多様化するために導入された。グローバル・バリューチェーンが経済状況に応じて変化し続ける中、そのような補助金が既存の貿易・投資関係を意図せず分断する可能性を防ぐことが重要である。

IMF 代表団は当局および東京側の協議参加者による率直かつオープンな議論に感謝する。

IMFコミュニケーション局
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