主要観光国のタイを訪れる観光客の数は劇的に減少している。同国では、ツアーオペレーターに対して長期低利融資を行っている他、国内観光や長期滞在の促進も図っている。 写真:Preto Perola by Getty Images

主要観光国のタイを訪れる観光客の数は劇的に減少している。同国では、ツアーオペレーターに対して長期低利融資を行っている他、国内観光や長期滞在の促進も図っている。 写真:Preto Perola by Getty Images

パンデミック後の世界における観光

2021年2月26日

観光業は今もコロナ禍の影響が最も大きい産業のひとつとなっており、この点はアジア太平洋地域や西半球の国々において特に顕著である。こうした地域や、あるいは他の地域でも、各国政府は世帯や企業を対象としたショック軽減策を講じている。しかし、より長期的には、観光業界はパンデミック後の「ニューノーマル(新常態)」への適応を迫られることになるだろう。

このところ飛行機での移動にためらいを感じているとしたら、それはあなたに限ったことではない。国連世界観光機関(UNWTO)によれば、2020年の観光客数は2019年に比べて74%減少したと推定されている。

アジア太平洋地域や西半球の多くの発展途上国、とりわけ小島嶼国にとって、その影響は深刻なものとなっている。新型コロナ流行の打撃を受けるまでは、観光は一大産業で、世界GDPの10%以上を占めていた。観光に依存する国々では、その割合はさらに大きかった。

復興に向けて

復興を進めるにあたっては、ワクチンが広く普及し接種が行われる必要があり、また、政策面での解決策が導入されるべきだ。

一部の政府は、直接的に、あるいはソフトローンや保証を通じて、観光業界に対する金融支援を行っている。タイは国内観光を促進するために7億米ドルを計上している。バヌアツは中小企業向けの補助金や法人向けの減税を実施した。各国において企業が事業モデルを変えたり従業員の雇用を維持したりするための支援が行われている。ジャマイカでは、観光業の労働者1万人を対象に能力向上支援を目的としてオンラインの資格研修を政府が無償で提供した。

しかし、観光依存国の多くは、財政余地が限定的であるために、動けないでいる。観光業の火を再び灯すための新たなイニシアティブが助けとなるだろう。例えばコスタリカでは、一時的に祝日を月曜日に移動し、週末を長くすることによって国内観光のてこ入れを図っている。バルバドスでは、「ウェルカム・スタンプ」ビザが導入された。これは、リモートワーカーが同国で暮らしながら勤務することを可能にする1年間の滞在許可である。同様にフィジーでは「ブルーレーン」と呼ばれる取り組みを始めている。これはヨットが厳格な自己隔離・検査の条件を満たした後、同国の港に係留できるようにするものだ。

パンデミック後には、保全や現地の雇用創出を重視し急速に成長しつつあるエコツーリズムへの移行が継続し、観光業にさらなる推進力をもたらすことになるかもしれない。この点は、すでにコスタリカの観光戦略において主要な要素のひとつとなっている。タイも冒険旅行や医療・健康ツアーなどニッチ市場に移行しようとしている。

また、テクノロジーも重要な役割を果たしうる。社会的距離の確保や保健・衛生対策が当面の間継続される可能性が高い中、非接触型のサービス提供やデジタル技術への投資が復興への架け橋となるかもしれない。

さらに、観光客の選好や経済への後遺症によって旅行の減少が長期化する場合、観光依存国の中には経済の多様化に向けた長く険しい道のりに踏み出すことを迫られる国も出てくる可能性がある。観光以外の部門への投資は息の長い目標であるが、観光と地元産農産物や製造業、娯楽産業の結びつきを強化することが助けとなりうる。例えばジャマイカでは、ホテル業界のバイヤーが地元の農家から直接農産物を購入できるようにするためのオンラインプラットフォームが立ち上げられた。また、地域レベルでの合意を活用して規模の経済が限定的であることに伴う制約に対処することによって、サービスを含む輸出を拡大できるかもしれない。

解決策は国によって異なり、また、復興のペースや規模は当然のことながら世界的な動向に左右されることになるだろう。しかし、活かすべき重要な機会がある。各国は、パンデミックの影響を緩和するという当面の優先課題にとどまらず、観光業にとっての「ニューノーマル(新常態)」を生み出すことも必要となる。多様化を進め、より持続可能な観光モデルへの移行を図り、新しいテクノロジーに投資することは、復興のあり方を具体化する上で役に立つだろう。