創造性の時代に21世紀の国際協力を想像しなおす
2018年12月4日
講演用原稿
はじめに
ハスケル・センター長、あたたかくお迎えくださいまして、ありがとうございます。また、ヘイデン館長、過分なご紹介をいただき恐縮しております。「フェイス・ザ・ネイション」キャスターのブレナンさん、今日はお話しさせていただくのを非常に楽しみにしております。
今晩、皆さまとご一緒させていただくことを光栄に存じます。今宵、キッシンジャー博士が私たちと時間を過ごすことはかないませんが、この重要な年次講演会を20年近く前に彼が始められたことに皆さんは深く感謝されていることかと存じます。
そして、今日、皆さんはジョージ・H・W・ブッシュ元大統領とご家族のことをお考えになっているのではないでしょうか。お亡くなりになられたことを悼みつつも、元大統領の歩みを称賛されていることかと思います。ブッシュ元大統領は第二次世界大戦をパイロットとして勇敢に戦われ、冷戦後の分断を癒すために尽力され、国際協力の力を信じた政治リーダーでした。今日、彼の精神を褒め称えたいと思います。
今日12月4日 ですが、実はまた別の理由で重要な日付です。その理由についてはまだお話ししません。私のお話の終わりまでお待ちいただければと思います。
今晩、議会図書館の大広間に足を踏み入れた瞬間にふたつの考えが私の頭をよぎりました。まずは私の息子たちですが、息子のひとりは建築家で、この素晴らしい空間を彼はきっと気に入るでしょう。ふたつ目ですが、私の母国フランスと、ちょうど2日前までG20首脳会合のために滞在したアルゼンチンです。この理由は何だと思われますか。
この建物が完成した1897年に主任技術者はパリのオペラ座であるガルニエ宮が議会図書館にとって「一番重要なアイディア」だったと語っています。パリのオペラ座が完成したのが20年ほど前の1875年ですから、理に適っています。フランス人もアイディアを借りてきたのかもしれないと私は今思っています。ひょっとすると、ブエノスアイレスのオペラ劇場である初代テアトロ・コロンに触発されたのかもしれません。コロン劇場は1857年に完成しました。
こうした建物が建築された経緯から何を学ぶことができるでしょうか。まず、価値ある知的財産権が当時も国際的に大きな関心を集めており、少なくとも建築家は喜んで互いに学び合い、アイディアを互いの作品から得て、触発し合っていたのです。2点目ですが、これは長く持続する建物をつくることがつまり過去の強固な土台と想像力のきらめきを結びつけることだと建築家たちが理解していたことを思い起こさせてくれます。
こうした歴史に根ざし、過去の成功と失敗から学んだ「想像力」と長期的な「ビジョン」が今晩お話ししたいテーマです。まず、これまでについて触れたいと思います。国際経済協調において想像力はどのように世界に豊かさと平和をもたらす力であってきたのでしょうか。そして2点目ですが、これからの道のりについてお伝えしたいと思います。国際制度を今日の課題にあわせて変えていく上で想像力、そして、過去に学んだビジョンある思考はどう役立つのでしょうか。
I. 国際経済協調における 75 年間の創造性とビジョン
それでは、まずアメリカとIMFが過去75年以上にわたって共有してきた歴史についてお話したいと思います。
20世紀前半に支配的な経済力と軍事力を持った列強は自国の利益を主張するために腕力を用い、多くの人命が失われ、大規模な物理的破壊がもたらされました。悲劇的な結末を迎えた結果、諸国はより良い方法を模索せざるをえませんでした。そして、1944年に国々はその方法を見出したのです。
アメリカが世界の主要な大国として台頭し、過去に前例のない行為を行いました。第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約が最終的にもたらした悲劇的な結果から学び、自国の力を協調のために使うことにしたのです。この実験は現代世界をかたちづくることになりました。2001年に行われた初回の記念講演でキッシンジャー博士は戦後の革新について「 あふれる創造力が世界に安全をもたらした」と語っています。
協調のために、アメリカはどのようにその力を行使したのでしょうか。アメリカは協力を惜しまず、自国の利益を鑑みながら、友人の力を少し借りたのです。過去75年の歴史に見られるいくつかの転換点について見ていきましょう。
はじめにブレトンウッズ体制の創設について考えましょう。
ブレトンウッズ体制の生みの親であるイギリスのジョン・メイナード・ケインズとアメリカのハリー・ホワイトはともに戦間期に大きな影響を受けていました。2人は欠陥のある国内政策が国際関係にとって有害になる歴史的な瞬間を目撃していたのです。国際関係が成り立つ土台自体にも問題がありました。
この結果が保護主義と通貨切り下げ競争でした。世界貿易が崩壊し、世界恐慌が悪化しました。そして、経済、金融、社会に大きな混乱が広がったのです。究極的には、こうしたプレッシャーのもとでナショナリズムとポピュリズムの運動が台頭し、悲劇的結末へと向かっていったのです。
第二次世界大戦終結後、アメリカなど約40数か国がニューハンプシャー州のブレトンウッズに集い、IMFと世界銀行の創設を決定しました。そしてIMFはこうした諸国から3つの役割を託されました。国際通貨協力を確立すること、貿易と経済成長の拡大を支えること、繁栄を阻害する政策の阻止を図ることです。
これは画期的で、先見の明のあることでした。そして、うまく機能したのです。
設立当初からIMFは国々が協力を通じて主要課題に対処する上での支援を行ってきました。マーシャル・プランを補うかたちで、IMFは戦争による破壊からヨーロッパが復興する支援を提供しました。IMFによる融資は苦しい環境にあった国に経済の安定化を図り、成長を促進する政策を実施するための猶予を提供しました。今日においてもアルゼンチン、エジプト、ウクライナといった多様な国で見られているように、この融資は私たちが現在も実行し続けている使命です。
この協力制度の優れた点は、適応し変化する制度として設計されていたことです。
1970 年代前半にこの変化が訪れました。 「平和の課題」と題された重要な声明でニクソン大統領が米ドルと金の交換を停止することを発表したのです。この決定は世界中にショックをもたらし、現代の変動為替相場制度を生み出すために声明発表後1年間にわたる交渉が必要になりました。
当時、この変化によってIMFが終わりを迎えることになると考えていた人もいました。しかし、アメリカを中心としたIMF加盟国は安定性と豊かさという目的が固定為替相場制をはるかに超えたところにあると理解していたのです。困ったときに支援に力を貸してくれるだろう国際金融の消防士が存在する利点を諸国は認識していました。
IMF 加盟国はそれまでしっかりと機能していたものを土台として用い、問題点を改善し、制度を適応させたのです。
1973 年の石油危機を受けてIMFはショックを緩和し、有害な波及効果を阻止するという自らの役割に沿ってエネルギー危機に直面した諸国を支援するための新しいツールをつくりました。1980年代にラテンアメリカで起こった債務危機では、IMFはアメリカの創造力あふれるアイディアと支援を受けながら、事態収拾に乗り出しました。ベルリンの壁の崩壊後、IMFは新たな課題を引き受けました。旧ソビエト連邦諸国が中央計画経済から市場経済へと移行する支援を行ったのです。1990年代、IMFはまずメキシコ通貨危機、その後はアジア通貨危機を各国が克服する支援を担いました。
こうした課題を通じて、IMFは世界中の国々の財政政策、通貨政策、為替相場政策という経済ファンダメンタルズを支援し、加盟国がより強力な経済制度を構築するための施策を取り続けてきました。こうした取り組みは、市場を開放し、貿易を促進し、雇用を創出し、経済の潜在力の解き放つより優れた政策を可能にしました。
そして 2008 年には世界金融危機が起こりました。 危機後の大不況によって、国際協力は行わなくても問題ないものではなく、欠かせないものだということを私たちは思い知らされました。フランスの財務大臣として私も国際的な対応の一翼を担いました。G20諸国と連邦準備制度は制度を守るために異例の措置をとりました。IMFは使えるツールを駆使し、世界経済の安定を助けるために5,000億ドルを超える融資を約束しました。危機後の10年間にIMFは90を超える国々で経済プログラムを支援し、低所得国を支援するための無利子融資を含めて、融資プログラムに変更を加えました。
しかし、世界経済は流動性以上のものを必要としていました。IMFは加盟国と協力して、より強力な金融セクター規制を策定しました。これは次の危機をともにふせぐためです。
私たちは過去から学び、創造力を駆使し、優れた変化をもたらしました。
こうした取り組みのいずれもアメリカなしには不可能だったことでしょう。 国際経済秩序に異議を申し立てる必要があったときに、疑問を投げかけました。妥協が必要だったときには、妥協を促しました。なぜでしょうか。
より力強く安定した世界がアメリカにも利益をもたらしたからです。 より力強く安定した世界において、アメリカは現代世界で最も長い部類に入る期間にわたって何度か持続的な経済成長を享受してきました。75年前に開かれたブレトンウッズでの会議からアメリカの実質GDPは8倍に伸びました。平均的なアメリカ人の実質所得は4倍になったのです。 この成功は他の国々を犠牲にして成し遂げられたものではありません。 全くの逆で、アメリカの協調的なリーダーシップによってこの国で何十年にもわたり多くのチャンスが生まれる道が開かれただけでなく、世界中に成長が広がることにつながっていったのです。
今日、また状況が変わってきています。この変化は部分的に地政学的な要因によるもので、経済の力がある程度西洋から東洋へと移行していることに伴っています。また、別の理由は多国籍企業など非国家主体の台頭です。くわえて、テクノロジーが牽引していること、私たちの暮らしのあらゆる点が加速していることも要因です。議会図書館の司書の皆さまはもちろん認識されていることかと思いますが、世界のデータの90%は過去 2年間に生み出されたもの なのです。私の両親は古典の教授でしたが、彼らはきっとこの事実を信じがたく思うことでしょう。しかし、真実は情報からお金、病気にいたるまであらゆるものが現代世界ではより速い速度で移動するのです。こうした変化は大きなチャンスをもたらしますが、一方で前例のないリスクも生じます。なぜでしょうか。
これは、ある国で起こったことがすべての国にかつてないほどの影響を与えるからです。考えてみてください。大量破壊兵器からサイバー攻撃、相互につながりを深めた金融システムまで、現在の課題の多くに国境は関係ありません。ですから、国際協力への支持が弱まるときには、過去75年以上にわたりアメリカとその同盟国が教えてくれてきた教訓を私たちは思い起こさなければなりません。連帯こそ自国の利益なのです。
この原則は変化する世界でも変わりありません。私たちの試練はもう一度適応し、改革することなのです。
II. 新しい時代―どのように国際協力を想像しなおすか
来年の2019年が私たちの歴史において新たな転機となりうると私は考えています。世界が共通の課題を解決するためにほとばしる創造力を活かす瞬間になりえます。
私たちがいるこの場所からひらめきを得ることができるでしょう。私たちの頭上の壁には詩人エドワード・ヤングの言葉「星に届かぬ建物を建てるなど、建物として低すぎるのだ」が刻まれています。
もし世界の構築と適応に失敗してしまったら、どうなってしまうだろうか想像してみてください。「怒りの時代」に私たちは生きることになってしまうかもしれません。2040年までに格差が金めっき時代よりも深刻化する可能性があります。強力なテクノロジー企業による独占と非効率な国内政策を行う脆弱な政府はスタートアップ企業と起業家が成功することを不可能にします。医療の画期的な進歩によって最富裕層の寿命は120年を超えるかもしれませんが、何百万人もの人々が病気や貧困によって苦しむことになるでしょう。SNSを通じてこうした「取り残された人々」に届けられる情報の洪水は彼らが生きる現実と可能かもしれないより豊かな暮らしとの差異を強調するでしょう。望むものとの差があることで、恨みと怒りが増すことになります。国家間の信頼は崩壊します。デジタルによるつながりは深まるにもかかわらず、世界はその他のつながりを失っていくのです。 互恵のための国際協力は議会図書館のような図書館で研究される概念となり、世界で実践されることは稀になるでしょう。国益の追求が至上目的となり、国内政策にのみ焦点があてられるからです。キッシンジャー博士の著書「国際秩序」の言葉を借りるならば私たちは「あらゆる秩序の制約を超える力が未来を決定する時代に直面している」のかもしれません。
これは非常にディストピア的なシナリオですよね。こうした未来が私たちの運命だと私は思っていません。この点では実はキッシンジャー博士も同じです。私たちは過去に実存的危機を乗り越えてきており、今後もまたこうした危機を克服していくでしょう。2019年が別の種類のAIの始まり、創意工夫の時代(Age of Ingenuity )の始まりだと考えてみてはいかがでしょうか。創造性と協力が動力源となる時代です。 2040年までに各国経済が再生可能エネルギーを主に活用し栄えることになるでしょう。女性の活躍が完全に推進され、これが経済と社会を大きく変える力となります。新たな年金制度と転職しても携行できる医療保険はデジタル経済における雇用の質の変化を反映することになるでしょう。企業はビジネスモデルの一部として社会的責任に積極的に取り組むでしょう。魔法のようなテクノロジーが何百万人もの人々の命を救い、世界経済に全く新しい産業を生み出すことになります。大規模な移民が終わり、世界中で貿易が拡大し、諸国が平和に共存しています。
こうした私の考えは楽観的すぎるでしょうか。私は楽観主義者であるべきだと思っています。私は自分の孫が受け継ぐことになる世界を考えています。しかし、確かに私たちは重要な選択肢に直面しています。立ち止まってしまい、不協和音と不満が紛争の火種となるのを傍観するのでしょうか。それとも前進し、国家が協力し、繁栄と平和を築く方法を想像しなおすのでしょうか。
現実的には、これは何を意味するのでしょうか。私たちの取り組みの中心に人々を置くために国々が協力することを意味します。 生活を改善する真の結果に力点を置くのです。そして、政府と制度の透明性と説明責任 も改善すべきです。この点では、より多様な意見に耳を澄ませる必要があります。また、グローバル化の経済的利益が少数の人々だけではなく、多くの人々に必ず共有されるようにすることでもあります。
私はこれを「新たな多国間主義」と呼んできました。皆さんは常識とお呼びになるかもしれませんね。
ここではっきりと明確にしておきたい点があります。良き国際協力は良き国内政策の代わりにはなりえません。もちろん、各国それぞれが国民の健康と幸福に責任を持ちます。事実、強力な国際政策が効果的な国際協力の土台となりえるのです。そして、現代世界では、国際協力を通じてしか対処できない問題がいくつか存在します。
この点に関して今晩は4つの側面からお話ししたいと思います。それぞれの側面で成功するためには、原加盟国であるアメリカも含めIMF加盟189か国の創造性とビジョンが必要です。
a. 創造性の時代にとっての鍵
貿易からお話ししましょう。 私は「制度を直すべき」としばらく発言してきました。より直近では、国々に対し貿易摩擦を和らげるように訴えてきました。先週末にG20でこの分野での進展が見られたことには励まされる思いがします。今、貿易摩擦の緩和を私たちは継続しなければなりません。同時に未来に向けて貿易制度を改善すべきです。このためにはどのような形態や色彩のものであれ、歪みをもたらす補助金を撤廃する必要があります。また、 イノベーションの芽を摘むことなく、レントシーキングを退け、知的財産権の保護することも必要 となります。新しい貿易協定はeコマースやサービス貿易の潜在力を解き放てるかもしれません。ここで1点、強調したいのですが、より良いマクロ経済政策は対外不均衡の解消に貢献します。こうした不均衡には、貿易面で緊張が高まっている背景にある貿易黒字や貿易赤字も含まれます。私がお話ししたこうした施策はすべて生産性向上とイノベーション加速にとって不可欠です。
さらなる協力が必要なふたつ目の側面は国際課税です。企業が世界中に進出していますが、政府はまだ税に関する世界的な解決策を見出せていません。現在、税の最適化と悪い類の創造性によってあまりにも多くの税が課されていない状態です。国々はしっかりと協力し、課税すべき税を徴収し、税における底辺への競争を避けるべきです。税源浸食と利益移転と呼ばれる事態につながった抜け穴を埋めることができるでしょう。多くの企業が固定の事業拠点を一か所に置かないデジタル経済において各国がベストプラクティスを共有し、規制を策定できるようにIMFはパートナーと協力しています。この歳入が必要な理由は何でしょうか。これはどの国も未来に向けて投資を行っているべきだからです。官民の資金があわさることで、インフラ強化や教育の改善が可能になり、到来している技術革新に適応するための準備を誰もが行えるようになります。
3 つめの側面は気候変動です。 カリブ海を最近おそった強力なハリケーンからカリフォルニアの山火事まで、気候変動の危険な影響は日に日に明らかなものになっています。米国政府の新しい報告書は、今後数十年間に気候変動の影響がアメリカのGDPを大きく減らす可能性を示しています。2015年に協力のもとで合意されたパリ協定は、地球の課題を解決し、再生可能エネルギーを通じてゼロ・カーボンの経済に向けて進むために、出発点として最善のツールです。 パリ協定は 今日私がこれまでお伝えしてきた創造性、ビジョンある考え方、共通の福祉のために世界が尽力することといったアイディアを反映しています。 これはまた、私が今日のお話しで重点的に取り上げた創造性、ビジョンある思考、自国の利益に適う共通善を世界が推進する固い意思というテーマを反映しています。私たちの子どもたち、孫たちにとって、これは生存の問題なのです。
貿易、税、気候といった問題のいずれもがそれ単独でキッシンジャー記念講演のテーマとして相応しいものですが、他分野のほぼすべてで進歩の土台となる問題があるように私は思っています。今日お話ししたい最後かつ4つ目の問題は汚職など腐敗が足枷とならない良きガバナンスです。単純な事実ですが、社会制度への信頼なくして、私たちが追求しようとする変化は可能なものになりません。ですから、この問題についても手短にお話しさせていただければと思います。
b. 信頼の土台 — 腐敗と戦い、良い統治を促進する
なぜ腐敗は非常に有害なのでしょうか。 経済が自分のためにはもはや機能していないと人々が信じ始めるとき、彼らは社会とのつながりを失ってしまうからです。 腐敗は経済の活力を奪い、国の経済に喉から手が出るほど必要な資源を流用してしまっています。教育や医療から流用された資金が格差を永続させ、より良い生活をおくる可能性を制限しています。賄賂の 1年間のコストだけでも1.5兆ドルを超えますが、これは世界GDPの2%に相当します。
ミレニアル世代はこの問題を痛感しています。世界の若者を対象にした最近の調査では、若者が雇用や教育の不足ではなく、腐敗を国内で最も緊急の課題として認識していることがわかっています。
この捉え方には英知が感じられます。というのも、若者たちが毎日感じる経済の不公平性の多くにとって腐敗こそが根本原因であるからです。
こうした理由で、全加盟国の支援を受け、IMFは加盟国のマクロ経済の状況を評価する際には、腐敗の影響を改めて詳細に調査しています。これまでに110 を超える国々と資金洗浄対策とテロ資金供与対策を強化するための協力を行ってきました。
そして、これは良い統治を促進するために必要な一連の取り組みのごく一部にすぎません。社会制度に投資することは不可欠ですし、社会制度が役割を実際に果たすことをしっかりと見届けることも大切です。
重要な点をお伝えしたいと思います。腐敗という病に国境は関係ないのです。 フィンテックが経済の枠組みをどう変えているかについて考えてみてください。暗号通貨など新しいイノベーションを用いてサイバー犯罪者は不正な資金の流れを動かし、不法な活動の資金として活用できます。これは一国の問題ではありませんし、各国が単独で解決できる問題でもありません。国際協力によってのみ解決できるのです。
しかし、これは解決できる問題です。国際的な課題を生み出す技術と同じ技術を反撃に出るためにも活用できるのです 。 生体認証やブロックチェーンなどなど、システムの品質と安全性を長期的に高めるために創造的な方法を見つけられるでしょう。各国政府は市民の銀行口座と幸福を守れるように、より強力なサイバーセキュリティのシステムを構築するための協力を世界でも最も優れた技術者と行えるでしょうし、こうした協力がなされるべきです。これは私たちが支援すると選ぶべき共通善なのです。
・・・
もし腐敗の問題に取り組めるならば、これは本日これまでに申し上げた各側面での協力のモデルとなるでしょう。ケインズの言葉を借りるならば「人類の兄弟愛」が歴史の求めに応じる証となるでしょう。ただ今回は女性も主役を務めます。
こうして、私たちは信頼回復を始められるのです。信頼こそ、私たちの社会で最も価値があり、必要とされているものです。
こうして、私たちは再び適応し、国際協調を想像しなおすことができます。
こうして、私たちは手を取り合い、創造性の時代をつくることができます。
終わりに
私のお話を締めくくる前に、まだお伝えしていないことがありました。12月4日が重要な日であると冒頭で言及しましたが、なぜ重要なのか考えた方はいらっしゃいますか。
今日から100年前の1918年12月4日、ウッドロー・ウィルソン大統領は長期的な平和を願って交渉を助けるためにフランスへと出発しました。彼は現役の米国大統領として初めてヨーロッパへと旅に出たのです。 いくつかの点で、アメリカの今日までの外交政策に創造性とビジョンある考え方の源泉を私たちはたどることができます。
私たちの計画が常に上手くいくわけではないと思い出させてくれる点では、これは私たちを謙虚にする歴史でもありますが、 克服するためには何度も挑戦し、挑戦し続ける必要があるというメッセージでもあります。
これまでの制度の優れた要素を土台として、問題点を改善していくべきです。そして、継続的に進化を続け、改良を図り、あらゆる人々にとってより良い未来を創造しなければなりません。この国のリーダーたちを触発したのはこのビジョンでした。今後私たち全員を導くのはこの使命でなければなりません。
ご清聴、ありがとうございました。
IMFコミュニケーション局
メディア・リレーションズ
電話:+1 202 623-7100Eメール: MEDIA@IMF.org