2017 JICA-IMFセミナー基調演説

2017年2月2日

古澤満宏 IMF副専務理事

演説原稿

皆様、お早うございます。

この第4回IMF(国際通貨基金)-JICA(国際協力機構)共催会議に大臣、総裁、そして素晴らしい参加者の皆様をお迎えできたことを光栄に思います。今年のテーマであります「財政リスク、財政余地及び持続可能な開発目標(SDG)」はアジア全地域にとり非常に時宜を得たものと思います。IMFを代表し、この会議の開催を可能にしていただいたJICAの皆さんと北岡理事長にお礼申し上げます。

本日はまず、世界およびアジア地域の経済見通しの全体像から話を始めたく思います。IMFが1月に改訂した世界経済見通しをバックグラウンドとして、新たなSDGの下でのアジア地域の開発の試練について詳述したく思います。そしてここでは成長を後押しする財政政策や慎重に財政リスクを管理し、財政余地を拡大させる重要性を強調します。結びとして、IMFの役割を含む政策上の考察を述べるつもりでおります。

世界及びアジアの経済見通しとリスク

まず世界の経済状況からお話しします。2016年の成長は精彩を欠き3.1%増でした。しかし2017年には世界的に経済活動は活発化するとみられ3.4%増を達成し、2018年には3.6%の成長が見込まれます。われわれの現時点での予想は、米国のポリシーミックスの変化、とりわけ短期的な財政刺激の発動を前提としています。このため米国の成長率をわずかながら引き上げ、2017年は2.3%、2018年は2.5%を予想しています。しかし、新政権の政策スタンスがまだ不透明なことを踏まえますと、これらの予測数字は依然不確実なものです。今回の見通しの改定では多くの先進国で成長予測が上方修正されましたが、世界成長をけん引し続けているのは新興市場国経済です。これら諸国の2017年の成長率は4.5%と予測されています。

アジア地域は力強い成長を続け、短期見通しは好調です。緩和的な政策が自国内の需要を下支えし、弱い輸出の伸びを補っています。2016年のアジア地域の成長率は5.2%、そして2017、18両年は5.3%と予想しています。 また、財政政策による支援が継続すると予想している中国については成長見通しを上方修正しました。日本の予想も、2016年の下半期の経済活動が予想より強かったため上方修正しました。インドは最近の金融改革により経済活動が短期的な影響を受けたものの、今後中期的に年率7%を優に上回る成長を予想しています。東南アジア諸国連合(ASEAN)に目を向けると、民間投資が予想を下回っているインドネシアについては成長率を下方修正しました。消費と観光が一時的に減速したタイも下方修正しました。世界及びアジア地域のよい指標となるシンガポールは、最近の経済活動が2017年について明るさを示しています。一方、マレーシア、フィリピン、ベトナム、そして他の域内新興市場及び発展途上国では成長が旺盛で上方修正しました。この好調さは概ね国内需要にけん引されています。

短期的には強い見通しですが、下振れリスクが支配的です。米国の選挙後にアジア地域の金融状況は引き締まる一方、ドルに対して地域の通貨が下落しました。それ以前の数カ月にみられた資本流入は逆転しました。先進諸国の保護主義の高まりがアジアの繁栄に影響する恐れがあります。今後数カ月、この不確実性が金融のボラティリティーを助長する可能性があります。柔軟な為替相場とマクロプルデンシャル政策のタイムリーな発動が、増加した外貨準備と相まって、最近の資本フローのボラティリティーが高まった時と同様に、有効となるでしょう。中国の刺激政策への依存がもう一つのリスクです。短期的には成長を下支え続けますが、同時にそれはGDPに対する与信比率の上昇継続という代償があります。上振れリスクとしては、中国の消費とサービス産業への比重を高めるリバランスがあります。また、エネルギー価格の上昇はアジア地域のコモディティー(天然資源)生産国にとっては好材料です。

アジアの開発事業の成績とSDG達成への試練

アジア地域はその力強い成長により、開発ギャップを解消する上で大変大きな前進をしました。極貧水準の生活を送るアジア人の数は1990年にほぼ20億人だったのが、2015年には約8億人へ減少しました。

中国の減少が最も著しく、東南アジアや南アジアでも大きく減りました。就学率も上昇しました。男女間平等の指標も改善し、女性の社会的な力が向上、母性の健康も改善しました。乳児の死亡率も減少する一方、HIV・エイズやマラリア、他の疾患の克服へ前進しました。

2015年に新たに導入されたSDGは包括的なものです。環境及び天然資源の持続可能性を強調し、3つの主要分野をカバーしています。それは経済開発、社会的包摂、そしてガバナンスです。 低所得国に焦点をあてたMDG(ミレニアム開発目標)と異なり、SDGは開発の全ての段階の諸国と関わりのあるものです。この達成には世界的な集中した努力が必要となります。現在の傾向では、アジア太平洋地域は開発部門のSDG達成に向け非常にうまくやると期待されています。それらには貧困削減、水道・衛生整備、エネルギーと成長などが含まれます。しかし現在の傾向が逆転しなければ後手に回りそうな分野もあります。これらのものには環境面での目標、ゴミの削減、気候変動の克服、そして海洋環境の保護です。

成長支援の財政政策、財政リスク、財政的余裕

これらの開発の優先度や試練を踏まえますと、成長を支援する財政政策が不可欠です。そうした政策はしばしば開発支出の増額を含みます。しかし、これは増額しても融資のための市場アクセスを脅かしたり債務の持続可能性を危険にさらしたりすることのない財政余地があるときのみ可能です。このためSDGを達成するには資金へのアクセスへの向上と社会インフラの整備に民間部門の役割の増大が必要となります。

2008、09年の世界経済危機以来、持続可能な公的ファイナンスとマクロ経済の安定の確保に資する財政リスクの包括的分析と管理の必要性に対する意識が高まりました。とはいえ、多くの途上国でこの分野の対処能力は概して弱いままです。それは天災や気候変動による財政リスクへの対処を含みます。財政リスクの監視と管理を向上させる努力は、政策担当者が資金の必要性を分析し、財政余地を維持する手助けとして重要です。

政策への意味とIMFの役割

それではSDG目標のためにわれわれはどのような貢献ができるでしょうか。

過去の経験からすると、たとえばマレーシアやインドネシアなどでは節度ある財政政策と財政改革がこの目標を支援します。その改革には歳入ベースの拡大や変動の大きいエネルギー関連以外の歳入の多様化、そして非効率な燃料補助金の削減が含まれます。国内の歳入の拡大も極めて重要です。そして支出項目と公共サービスの優先付けを改善しなければなりません。社会的セイフティーネットは弱者を守るために必要ですが、そのコストは合理的にすることを目指さなければなりません。公共投資の管理を強化することは社会インフラのギャップの解消を手助けし、長期的成長を維持します。

IMFはこれらの分野での能力を構築する努力を、分析ツールを開発することを通じて支援する準備ができています。既に多くの国へ税務行政を向上させる価値ある診断ツールを提供してきました。また、「財政透明性評価と公共投資管理分析」を活用して各国の財政制度の強化を支援しています。さらに各国の個別事情に合わせた政策助言を通じて、こうした努力を支援するのに一役買うこともできます。最後に、これも重要なことですが、IMFは各地域技術支援及び訓練センターを通じて技術支援やトレーニングを提供することもできます。

アジア地域での例を紹介させてください。ラオスとカンボジアですが、IMFの政策分析と助言は持続的成長を確実にするためのマクロ金融リスクの特定と軽減に集中させています。経済の多様化と包括性も推進しています。広範な技術支援は、資源活用と、金融市場の育成及び統計整備に焦点を当てています。また、他の開発支援機関とも緊密に連携しています。以上が、必要とあればIMFがすぐに提供できるよう準備していることです。

最後に、今日の会議が皆様の国の直面するリスクに対する洞察を深めることを望んでおります。意見交換することによりこれらのリスクを監視し低減するのはどんな財政戦略かを突き止め、財政余地を創出することができるはずです。それらの措置はSDG達成のために大いに役立つはずです。さあ、待ちに待った今日の議論を始めましょう。

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