川崎市の三菱自動車工業の工場でトラックを製造する労働者。IMFは日本が労働市場の 二重性を解消する必要性を指摘している。 (写真: フランク・ロビチョン/EPA/Newscom)
アベノミクスを再充填するには
2016年8月3日
- 成長は抑制状態が継続、デフレリスクは増大
- 労働市場改革を伴う所得政策を前面に据えるべき
- すべての財政・金融政策手段の活用の準備を
IMFは年次の対日4条協議で、日本が20年にわたる緩やかなデフレと低い成長から抜け出すための野心的な政策パッケージを作成するには、大規模な政策のアップグレードの必要性を指摘した。
試練-アベノミクス効果の弱まり
安倍晋三首相がまとめた金融政策による刺激と財政の「柔軟性」、構造改革の「3本の矢」からなる経済政策、いわゆる「アベノミクス」は当初は成功したが、ここにきて経済の勢いが弱まり、デフレリスクが再び高まっている。円は2015年から相当高くなり、世界貿易の減速と相まって、日本の輸出を急減させた。それと同時にコモディティー(資源商品)価格の下落によるプラス効果は、経済に波及しなかった。政策の不確実性と株式市場のボラティリティは国内の企業・消費者心理と需要を落ち込ませる一方、減少かつ高齢化が進む人口は成長と投資機会への重しとなっている。
IMFの4条協議報告によると、日本の2016年の成長率は0.3%、2017年は0.1%で、総合インフレ率は2016年の0.2%から、2017年は0.4%へ上昇する。労働市場は経済の明るい部分で、2016年6月時点の失業率は3.1%と他国がうらやむ低さだ。しかしベース賃金の2016年の上昇率はわずか0.4%にとどまり、民間部門の消費と投資は低迷している。
今後を展望すると、消費者物価のインフレ率2%、実質成長率2%、2020年までの基礎的財政収支の均衡というアベノミクスの野心的な目標は、現在の政策では手の届かなくなっている。日本の金融政策と財政政策による刺激余地は限られている。公的債務は総額としても正味額としても大きく、2016年の財政赤字額はGDPの約5%に達し、日銀のバランスシートは先進国中で最も肥大化したグループに入り、政策金利がマイナスになっているためだ。これらの目標を達成するには日本はより大胆な改革が必要だ。
解決策― 3 主要分野に集中を
1. 所得政策を再充填し 企業に賃金上げを促すべし-インフレ率を上げる賃金と物価の好ましいダイナミクスを作動させるには、所得政策の後押しが必要となる。すでに決定されている最低賃金を3%上昇させることに加え、当局は、企業ガバナンス改革に使われている「順守するか(それが守れなかった場合は)説明せよ」のメカニズムと同様の(賃上げの)規則を企業に求めたり、(最終的には罰則の導入も視野に入れた)税制上のインセンティブを拡大したり、インフレ目標に整合した行政的に管理された賃金と物価の引き上げなどによって、民間企業に賃上げを促す必要がある。
2. 労働市場改革 -4条協議報告書は、所得政策が有効性を持つためには、大規模な労働市場改革と持続的な財政・金融政策による需要の下支えが並行的に必要と主張している。労働市場改革は、雇用保障と賃金上昇のバランスをよりよく取った雇用契約での新たな雇用を促進し、現在の正規社員と賃金の低い臨時雇用社員に分断された現市場を消滅させていくことを目指すべきだ。それと同時に「同じ仕事には同じ報酬を」与えるプログラムを加速する必要がある。それに加え、当局は税及び社会保障システムの改革、利用可能な育児施設の増設、外国人労働者の受け入れ促進を通じてフルタイムの正規労働への障害を取り除くことができる。また、継続的な需要の下支えは、賃金上昇の物価への転嫁を実現し、構造改革がデフレ圧力を生じさせないことを確実にするため必要となる。
財政政策への新たな注目―
日本の長期的な試練である財政の持続可能性の達成という課題は残っている。この問題について報告書は、当局が消費税の段階的ながら着実な引き上げをできる限り早期に着手し、社会保障支出の伸びを抑制する明確な支出規則を制定することを勧告している。この文脈においては、例えば、より現実的なマクロ経済の姿の予想に基づいた予算想定を確実にするようなより独立的なマクロ財政予想による財政制度の強化が不可欠だ。
日本の5つの優先課題デフレが終息したより高い経済成長というアベノミクスの約束を実現するには、日本は以下の実行が不可欠だ。
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