IMF サーベイ・マガジン : IMFワークプログラム、成長の回復を目指す
2016年6月16日
- IMFは成長を促すため、金融、財政、構造から成る三本柱のアプローチを提唱
- 以前から取り組んでいる改革分野に加え新たな問題及び最新の問題が焦点
- 世界経済で進む移行には、強力な国際協力が必要
国際通貨基金(IMF)は、世界経済のより力強くより安全な成長軌道への回帰を重視した今後12カ月間のワークプログラムを発表した。
IMFワークアジェンダ
本ワークプログラムは、4月に発表されたグローバル政策アジェンダ及び国際通貨金融委員会のコミュニケの方向性に沿っている。
ワークプログラムでは、経済成長を押し上げる金融、財政、構造措置から成る三本柱のアプローチを支援するIMFの活動を強調している。また、加盟国による最新の課題(気候変動、格差など)への対処、及び国際通貨制度の強化を支援するための作業も提示している。
クリスティーヌ・ラガルド専務理事はIMF理事会に向けた声明で、「世界経済は、余りにも長い期間にわたる余りにも低い成長によりダメージを受けている」と述べた。
政策課題に対処
一段と弱い世界経済成長を受け、本プログラムは、よりバランスのとれた強力な政策ミックスの実現に取り組む加盟国への支援を意図している。
金融政策。IMFは引き続き、非伝統的な金融政策が及ぼす影響、及び他の加盟国、特に新興市場国・地域への波及効果について調査を行っていく。関連する重点分野は、資本フロー管理である。今後1年間、IMFは、近年資本フローに対処している加盟国の経験を見直していく。その際に関連するマクロ経済及び金融安定性リスクを一段と明確にすることを目的としている。
金融セクターのサーベイランス。加盟国の監督と規制の枠組みを強化する作業と同様、マクロ金融分析を掘り下げるIMFの取り組みも強化する。IMFは、世界的な金融の安定性へのリスクの高まりを踏まえて、国際的及び地域的な金融規制改革の進捗状況を確認していく。本アジェンダには、金融セクターの脆弱性の管理及びリスク削減に関連するいくつかの項目も含まれる。特に、IMFはコルレス銀行関係のトレンドの要因とその結果について既存の証拠を分析し、IMFが果たせ得る役割について協議する。
財政政策。金融政策は現在の課題に対処する負担を全て負えないことから、一部の加盟国では財政政策を一段と活用する必要があると本ワークプログラムは指摘している。財政余地が存在する加盟国では、財政政策は需要の下支えでより大きな役割を担うことができる。IMFは、加盟国全体で一貫した評価を行うことを目標に、財政余地の評価方法に関する検討事項に取り組んでいく。さらに、財政ルールや財政枠組みなど加盟国ごとの検討事項が、財政余地を使用すべきかどうか、使用するならどのように使用するのかを検証する際に加味されるだろう。
また、加盟国の公共投資の効率性向上の支援に重点を置いたインフラ政策支援イニシアティブの先頭に立つとともに、適切と判断された場合は、持続的に拡大可能なインフラ支出のオプションを特定していく。本イニシアティブは―複数の加盟国で試験的に運用される―、インフラ投資の力強く息の長い成長を達成するにはどの政策を優先させるべきかを明確にすると期待されている。
低所得国に関しては、IMFは引き続き途上国での国内歳入の確保を押し上げるための取り組みを支援していくとともに、脆弱国における財政運営能力を構築するための枠組みの概要をまとめることを計画している。
構造改革。IMFは、生産性と成長率を向上させる構造改革の役割を一段と重視していく。加盟国の発展段階、経済の景気循環状況、改革で利用できる政策余地などの要素を考慮に入れながら、カントリーチームが加盟国経済の年次評価で使用するための構造改革ツールキットを開発する。また、成長と開発を促すうえでの貿易の重要な役割を認識しており、来年には―2010年以降初めて―貿易及び貿易政策問題に関する新しい参照文献を作成する。
経済成長促進のための他の作業においては、IMF職員は、多くの加盟国で広がる汚職が包摂的成長の実現の障害になっていることから、来年初めにガバナンス問題におけるIMFの役割を見直す作業に着手する。
最新の課題
IMFは、最新の問題に関する政策助言を強化し、改善している。新たな課題は―社会的、政治的、人口動態的、環境的、生物的、技術的に関係なく―IMF加盟国のマクロ経済の安定に劇的な影響を与える可能性がある。このため、IMFは今後も引き続き他の専門機関と協力していくなかで、これら分野の専門知識を積み上げていく。
気候変動及びエネルギー問題をIMFサーベイランスに組み込んでいく取り組みも継続していく。IMFは国別の作業で使用するため、気候変動の緩和に関連する各種財政対策及びその他の措置を評価するためのツールの開発を進めている。また、小国やその他の脆弱な国で気候変動と自然災害が及ぼす特定の影響も重視している。
IMF職員は、移住が移民受入国へ及ぼす影響に関するこれまでの分析を基に、人口動態の変化及び移動に関する作業を継続していく。また、経済移民が民間セクターの活動及び競争力、並びに公共財政、さらには究極的には移民排出国の成長及び収斂に及ぼす影響も調査していく。
財政とテクノロジーの相互作用に関する画期的な分析作業の開始に加え、サーベイランスにジェンダーに関する分析を組み込むとともに、途上国における格差に関する理解を深めるための取り組みを続けていく。
国際通貨制度
さらに広くには、世界経済の移行が続いていることから、国際通貨制度の効果を高めるために、調整と流動性供給を行う国際的なメカニズムを最善に強化するための手法を研究している。職員は、危機の予防と調整、世界の安定性に影響する政策での国際協調の推進、及び国際金融のセーフティネット(GFSN)など、改革の主分野に取り組んでいく。また、特別引出権 (SDR)の役割に関する作業をさらに進めていく。
GFSNに関連して、IMFは地域金融取極との調整を強化する方法を検討していく。また、一次産品価格の歴史的な下落に見舞われている加盟国を支援する最良の方法を追求することを視野に、融資ツールキットを再検証する。
さらに、途上国におけるIMF支援プログラムが、一部マクロ経済政策の悪影響の緩和に十分に確実に重点をおくよう、融資及びプログラムの設計を検証していく。