Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : IMFのレビュー、経済成長のための貿易の活用手法を考察

2015年3月23日

  • 貿易は世界経済が「新たな凡庸」に陥ることを回避するうえで役立つ
  • 加盟国は成長見通し及び戦略における貿易の役割を再考すべき
  • IMFの活動に影響を与える、貿易の全体像の急速な変化

際通貨基金(IMF)は最新の報告書のなかで、世界経済で「新たな凡庸」が懸念されるなか、貿易を世界経済成長を中期的に加速化させるための計画の主軸と考えるべきだと強調した。

貿易の拡大が回復すれば、加盟各国及び世界経済全体に多大な影響を与えることができる(写真Knut Niehus/picturealliance/Newscom)

貿易の拡大が回復すれば、加盟各国及び世界経済全体に多大な影響を与えることができる(写真Knut Niehus/picturealliance/Newscom)

世界経済の成長加速のために

5年に1度の貿易の定期検証でIMFは、貿易の全体像の変化を評価するとともに、IMFの今後のワークアジェンダの主要課題についても詳細に論じている。

同報告書は、近年減速している貿易の伸びが回復すれば、加盟各国・世界経済全体の両レベルで成長に著しく影響する可能性があると指摘している。

IMFサーベイは、同報告書の作成者であるIMF戦略政策審査局のマーチン・カウフマン氏とヴァラパト・チェンサヴァスディジャイ氏に、貿易改革が内包する成長の可能性、及び貿易改革の他の構造改革への触媒効果について語ってもらった。

IMF サーベイ世界貿易が減速している理由は何でしょうか。

カウフマン:世界的な金融危機の後に貿易が鈍化したのは、世界的に景気後退が同期的に発生したためです。その後数年間で世界貿易は劇的に回復しましたが、最近になってそのペースは過去の伸び率と比較し非常に遅くなっています。しかし我々が疑問に思っていたことは、これがシクリカル(一時的)な現象なのか、あるいはより構造的(永久的)なのかということです。

チェンサヴァスディジャイ:貿易の鈍化の約半分は、シクリカルな要因が原因であることがわかりました。しかし、より構造的な他の原因も存在します。すなわち、過去数十年で貿易の急成長を引き起こしたプロセスの成熟と関係があります。例えば、グローバル・バリュー・チェーンの出現です。自動車などますます多くの最終財が、他の多くの国や地域から来る材料を使ってひとつの国で作られています。貿易障壁が減り、技術により輸送と通信のコストが低下したことが背景の一部にあります。こうしたグローバル・バリュー・チェーンは、最初に出現した際、貿易の現状を一新するという点で非常に重要でした。

こうしたプロセスに組み込まれた国々でこのビジネスモデルが成熟するなか、初期の頃と違いこれが貿易の伸びに貢献していません。同じことが、世界貿易機関(WTO)の加盟国の拡大でも言えます。さらに、多国間貿易政策を促進する取り組みも困難を極め、停滞しています。こうしたすべての要因が、貿易の成長に重くのしかかっています。

IMF サーベイ世界経済の成長が伸び悩んでいる今日の環境で、貿易の伸びを再び活性化させることがなぜ重要なのですか。

カウフマン:IMFは、中期的に世界経済の成長が「新たな凡庸」に陥らないようにするために必要な政策を重視しています。伝統的な構造改革を補完する貿易は、こうした重視すべき政策のひとつです。貿易は、他の構造改革の触媒効果となることもできます。このため、我々は貿易がIMFのグローバル政策アジェンダに欠かせない要素であり、かつ中期的に世界経済の成長を高めるのに必要な重要な改革のひとつと考えています。

IMF サーベイ貿易の活性化にはどのような改革が有効でしょうか。

カウフマン:低所得国(及び一部の新興市場国・地域)は、貿易統合を重視する必要があります。すなわち、インフラの開発、関税の改善、助けとなる環境の構築、そして経済制度や政策の枠組みを強化し、予測可能で信頼できるようにすることです。

ただし、世界の貿易システムにうまく統合するには、貿易の自由化、すなわち障壁の削減も伴うことになるでしょう。先進国・地域では、投資やサービスを一層重視し、一貫性のある規制を策定することになるでしょう。新たな貿易政策のフロンティアです。

規制はひとつの業界に限った問題ではないため、一貫性の向上は複雑です。例えば食品は、車の安全性や金融サービスとは全く異なります。プロセスは複雑ですが、個々の加盟国及び世界経済全体は、サービスまで貿易フロンティアを拡大し、貿易コストを削減することで、かなり大きなプラスを得ることができる可能性があります。

IMF サーベイグローバル・バリュー・チェーンの拡大は、近年の貿易成長の刺激となりました。今後こうしたサプライ・チェーンはどのように変化すると考えますか。

カウフマン:これまでに出現したグローバル・バリュー・チェーンは有機的に成長しました。まず、相互貿易に自然と前向きな国で発展しました。北米、あるいは欧州やアジアのグローバル・サプライ・チェーンについて考えてみてください。

その他の国々がグローバル・バリュー・チェーンの一部となるためには、自国の成長・開発戦略における貿易の役割で発想の転換が必要となるでしょう。つまり、製品を輸出すると考えるのではなく、地域レベル・世界レベルで著しい効率性の向上を促すことができる最終製品の関連業務や部品を輸出すると考えることです。

IMF サーベイ新たな保護貿易主義の形として非関税措置が出現しました。こうした措置はどのようなものですか。そして貿易改革で重要な焦点となっている理由は何でしょうか。

チェンサヴァスディジャイ:非関税障壁が果たす役割はますます多くなっています。例えば、車の安全性試験や医薬品試験の要件は国ごとに異なります。例えば、衛生、食品品質、安全性などで、各国の要件が異なることが多くあります。これらがいわゆる貿易の「非関税」障壁ですが、この問題のひとつにデータが欠如しているということがあります。というのは、こうした障壁は国ごとに異なり、系統的に記録されていないからです。我々は、一部の保護貿易主義の傾向がこうした措置に向かうことをリスクとみていますが、これを防ぐための仕組みや制度が欠如しています。我々はこうした新しい形の保護主義について無頓着であるべきではありません。

IMF サーベイ近年世界貿易をめぐる協議が膠着しており、他の手段、例えば、特恵貿易協定、地域貿易協定、多国間協定などがその空白部分を埋めています。世界貿易協定は引き続き重要ですか。

カウフマン:はい。2013年12月にバリ合意が採択されたことは朗報でした。まず、多国間の取り組みとWTOに対して国際社会が新たにコミットメントを示したこと、そして二番目に、この合意により再び貿易が促進され、これが途上国が世界貿易体制に組み込まれるよう支えているからです。

最近の措置の大半が特恵貿易の取り組みを通じて行われていることは事実です。これらのイニシアティブは停滞している貿易政策を推進する機会となり、異なるペースで進みたい国にそのチャンスを与えています。システムの分断を制限し、オープンで透明な方法で機能し、最終的に多国間的に進化するのであれば、問題はありません。ただし、包摂性の最大の保証は、多国間レベルでも進展することです。

IMF サーベイ:IMFサーベイランスと貿易分析の今後のプロセスについて教えてください。

カウフマン:このレビューの外部専門家は、IMFの貿易問題に関する分析の品質と政策の関連性はともに高いと判断しました。しかし同時にこのレビューは、この分析をIMFの国別サーベイランスに一段と吸収させる余地があることを示しています。我々は、貿易の全体像の変化を理解するために引き続き優れた分析を行う必要があります。そしてこれが、加盟国にどのような影響をもたらすのか-これに関する理解を深める必要があります。そしてこれにともない、マクロに関連する貿易や貿易政策問題についての職員向けの指針を更新していかねばならないでしょう。

貿易政策においては、現在国際レベルで新たな機運が生じており、注意が必要です。IMFと加盟国は、貿易の全体像に変化がないというなかで構造改革を考えるのではなく、こうした新たな流れの中でこれを再考する必要があります。要は、経済成長に関心を示す一方で貿易を無視しているならば、チャンスを逸しているということです。