IMF サーベイ・マガジン : ラガルド専務理事、不確実な世界見通しと戦うため「政策のアップグレード」を要請
2015年8月30日
- 世界経済の成長は依然として期待に届かずばらついている
- 現下の試練に対応するためには、政策のアップグレードが必要
- 経済の移行に上手く対処するためには、国際協力が不可欠
国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事はアメリカ評議会での演説で、現下の試練に対応し世界経済を回復へと導くためには、政策を強化する必要があると述べた。
IMF-世界銀行年次総会
ラガルド氏は「政策担当者の皆さんに、現下の試練に対応するために、政策のアップグレードをお願いしたい」と述べた。
ペルー・リマで10月9日~11日に開かれるIMF世界銀行の年次総会に先立ち演説したラガルド氏は、世界は「難しく複雑な局面にある」と述べた。
同氏は、アメリカの金利上昇の見通しと中国の鈍化、世界貿易の成長の急減速、及び一次産品価格の急落が、世界的な不確実性の一因となっていると述べた。
紛争とやむを得ない理由での移住に加え、経済の混乱と経済活動の低迷による「人的被害」が発生していると同氏は指摘した。世界で2億人以上の人々が失業状態にあり、所得格差は拡大し、女性は引き続き収入と労働市場の機会で不利な立場にある。
「本日私が伝えたいメッセージは、適切な政策と強力なリーダーシップ、国際協力があれば、我々はこれを乗り切ることができるということだ」
重要な経済の移行
来週発表されるIMFの世界見通しに言及した後、ラガルド氏は「今年の世界経済の成長は昨年より弱く、2016年には僅かな加速が見込まれるのみと予想される」と警鐘を鳴らした。
先進国・地域の緩やかな回復という「良いニュース」の一方で、新興市場国・地域の成長が減速する可能性が高いというのは「あまり喜ばしくない知らせ」である。「これら全て踏まえると、世界経済は現在期待未満でありばらつきがある」
ラガルド氏は、この見通しは「重要な経済の移行」の影響を大きく受けていると説明した。中国の新たな成長モデルへの移行と米国の金融政策の正常化が、「波及効果と跳ね返り」という形で世界に影響を及ぼしている。
しかし、ラガルド氏はこれらシフトは「必要かつ健全」であると強調した。「これらは、中国、そしてアメリカにとってプラスであり、世界にとってもプラスである。課題はこれらを可能な限り効果的かつ円滑に行うということだ」
求められる「政策のアップグレード」
ラガルド氏は、こうした移行は、需要の下支え、金融の安定性の確保、及び構造改革の実施で管理することができると述べた。しかし、同時に「今こそ行動すべき時」と強く訴えた。
「要するに……全ての国や地域による積極的な政策運営が今、かつてないほど重要になっている」
ラガルド氏は、政策担当者に、現下の試練に対応するために政策をアップグレードすることで政策努力を強化するよう求めた。
• 先進国・地域では、金融政策の決定プロセスに波及効果リスクを取り込む。
• ユーロ圏は企業や家計への与信を促進するため不良債権に対処する。
• 新興市場国・地域では、マクロプルーデンス政策手段を用い企業のレバレッジや対外債務に対処する。
かつてないほど国際協力が重要に
ラガルド氏は、政策の実行には、特に成長が低迷する不透明な今日において「巧みで洞察に満ちた政策策定」が必要だと強調した。
「気候変動や貿易、国際金融のセーフティネットなど課題の多くが我々全体に共通したものであることを踏まえれば、国際協力がこれまでになく早急に必要だ」
ラガルド氏は、役割の一環としてIMFは、加盟国が移行の問題に直面するなか、政策に関する提言を適応させ、中核的業務を強化していると述べた。
IMFの「AIM」は、三つ面で改善することを意味する。 「より機敏(Agile)に」、「より一体化した(Integrated)」、「加盟国(Member)を中心とする」だと同氏は説明した。
「IMFは、我々の加盟国からの支援があってはじめて実効性を発揮できる」と述べたラガルド氏は、「加盟国間で起こっているダイナミックな変化を反映しIMFが今日、そして明日の加盟国のニーズに十分に応えられるだけの資源を確保するために」、加盟国に2010年のクォータ及びガバナンス改革を批准するよう強く求めた。