IMF サーベイ・マガジン : 金融部門改革━アジアの将来への投資
2015年9月3日
- アジア地域の課題の対処には域内の金融セクターの一層の発達が必要
- 地域の統合は経済成長、雇用にはプラスだが、ある程度のリスクを伴う
- アジアは将来の危機を乗り切るため、予防策や構造改革が必要
クリスティーヌ・ラガルド専務理事はインドネシアでの会合で、アジアの金融システムは大きく、抵抗力があり、急速に成長している。しかし、次世代の急成長を育む資金を確保するには、一段の革新が必要だと述べた。
アジア金融
1日かけて行われたアジアの金融の今後に関する会議の中で、ラガルド専務理事は、金融システムの深化はボラティリティの影響の防壁となり、また、消費者や企業に機会を提供すると述べた。
「われわれは各国の国内金融の深化について議論している。そして、これは、銀行業務が預金の取り込みと企業への融資を中心とした旧来の業務から変わっていくことを意味している」と専務理事は語った。
今回のラガルド専務理事のインドネシア訪問は、IMFのアジアの金融部門の見通しに関する書籍出版のタイミングに合わせて行われたが、同時に、同国政府高官との会談も行われた。
アジアの金融システムの現状
アジアの金融システムは、金融サービスへのアクセスを持つ人がほとんどない低所得国から世界最先端の金融中心地になっている国や地域まである。保守的な銀行業務に基づいたビジネスモデルは、この地域の成長と安定を支えてきた。しかし株式や債券市場の育成は緩やかだった。
アジアは1997年から1998年にかけて起きたアジア金融危機から大きな教訓を得た。これが、世界金融危機の同地域への衝撃を抑えるのに役立った。しかし急激な信用拡大と家計や企業のレバレッジは、将来の危機への抵抗力が弱まっている可能性があることを示している。
アジア地域の株式市場の規模は大きいが、多くの国で、一段と強力な規制により、企業の信頼できる資金調達の場としてその役割を拡大できる可能性がある。債券市場はここ数年急激に成長しており、機関投資家を促すことが巨額の預金を長期の投資に振り向けるのに資することになろう。
金融部門の成長は鈍化する可能性が高い
国が豊かになるにつれ金融部門も成長するが、次第にその成長速度は鈍化する。アジアの国々が先進国に追いつくにつれ、金融セクターの成長は減速する可能性が高い。一部の国々では高齢化も足かせになる。しかしインドやインドネシアなど若年人口の多い国々は人口の配当を受けるはずだ。
現在、アジアの金融システムは比較的に保守的で単純だ。また世界各国との関係も薄い。しかし時代とともに金融システムの複雑化と世界への統合は進み、規制・監督当局に新たな課題を突き付けることになろう。
このことはアジアの金融ハブである香港とシンガポールに特に当てはまる。この2都市が今後もアジアの金融の発展を安定的に支えていくためには、金融監督当局間の協力を強化していく必要があるだろう。
より良い統合とより深い金融市場
アジア国家のなかでも急激に高齢化が進む国が多くある一方、そうでない国もある。この組み合わせはこの地域にとって追い風となる可能性がある。金融市場のより良い統合と深化は、高齢化の進む国々の貯蓄を若年人口が多い国々の社会基盤の整備や教育への投資に役立てる上で有益である可能性がある。
この種の統合は東南アジアにとってとりわけ重要だ。この地域では交易面での統合に比べ金融面での結びつきで遅れている。これまでのところ、統合は慎重かつ段階的に進められ、国内の脆弱さやリスクを最小限に抑えながら成長を支えてきた。
しかし東南アジアは、資金の流れの障壁を取り払うことによって成長を一段と加速させることができよう。さらに地域の金融面での統合を進めることが輸出への依存度を下げ、国内投資や消費に軸足を移すことができるようになるかもしれない。
資本移動の増加によりボラティリティが増す可能性も
アジア諸国に流入する、あるいはアジア諸国間を流れる資本は巨大になり、さらに拡大するとみられる。強力な資本流入の背景には、アジアの良好な投資見通しや市場の規模の大きさがあった。しかし金融統合の深化、日本の金融緩和、そして中国の資本勘定の自由化が、さらなる成長につながるであろう。
これは成長を助け雇用を創造する一方、ボラティリティが増す可能性もある。アジアはリスクを封じ込めるマクロプルーデンス政策において世界のリーダーだ。この強い基盤を発展させることが新たな資本の流れを管理する上で鍵となろう。
アジアは銀行規制の見直しに向けた世界の取り組みに貢献してきた。銀行に対しては断固たる監督が行われている。しかし一部の銀行は大きすぎて破たんさせることができない。そして多くの公的金融機関は非効率だ。陰の銀行も急激に成長している。アジアの強力な資本や流動性の枠組みを維持しながら、金融の革新的な動きに後れを取らずに進むことが大きな試練となろう。
明るい見通し
アジアは、他の多くの地域以上に過去の経験から学んできた。アジア金融危機の後、銀行は自己資本を積み上げ、金融規制は強化された。アジアの保守的な銀行は、金融の安定性を保ちながら世界最高の速度で成長する経済を後押ししてきた。
将来、アジアは多くの主要なトレンドの恩恵を受けるだろう。一部の国々の高齢化は他の国への投資を増やす可能性がある。大規模な株式市場は企業の資金調達の多様化を推進する。また急激に拡大する債券市場は長期的なプロジェクトの資金供給源になるだろう。金融の統合が貿易の統合に追いつくに従い、地域の預金者も消費者も恩恵を受けるだろう。
こうしたトレンドを利用するには大胆な改革が必要だ。金融の革新にはそれに先回りする監督が必要だ。また長く持続してきた金融の安定性は維持されなければならない。しかし、こうした目標が達成されれば、アジアの経済発展は今後も世界をリードし続けるであろう。