IMF サーベイ・マガジン :
2015年3月23日
- 再分配は概ね成長を促す
- アジアの最近の成長は、不平等の拡大を伴う
- 再分配の財政政策は、マクロ経済の目標、税、支出と整合的であるべき
アジア各国から集った政策担当者は、再分配はマイナスの側面もあるかもしれないが、より平等が進むことによる成長への影響によりおそらく相殺されようとの見解を聞いた。
不平等
3月12日~13日に東京で開催されたハイレベルセミナーで、この分析が強調された。このセミナーには、アジア全土から政府関係者、学者、国際機関の代表が参加し、不平等とその成長への影響、さらに考え得る政策対応について話し合った。
マクロ経済と金融部門政策に関する一連のセミナーの直近の回であるこのセミナーは、日本政府の資金援助を受け、一橋大学とIMFアジア太平洋地域事務所(OAP)が開催したものである。
同セミナーは、日本財務省の浅川雅嗣国際局長の開会の辞で幕を開け、一橋大学の有吉章教授が、アジアにおける政策形成能力の強化と経済協力の醸成という本会議の目的を示した。
不平等と成長のマイナスの関係
IMF調査局のジョナサン・オーストレィ副局長は、不平等に関する自身の直近の調査を発表した。同調査は、再分配の平等を支える影響が再分配の直接的なあらゆる負の影響を、これが極端でない限り相殺し、またそれ以上の効果をもたらすとの結果を示している。
同副局長は「多くの場合、不平等に対し行動を起こさないことは適切ではない可能性が高い。また、『再分配』という不平等の治療は、不平等という病以上に成長に悪影響かもしれないという結論に飛びつくべきではない」と述べた。
オーストレィ副局長による、不平等、成長、そして再分配の相関関係に関する分析は、同氏の、不平等が拡大した社会の成長はより脆弱だとした、不平等と成長の持続可能性の強い負の関係に関する先の研究に基づいたものである。
しかし、これは、再分配という治療法自体が成長を蝕む可能性もはらんでおり、これが不平等という病以上に悪影響を及ぼし得るかという疑問への答えは導きしていなかった。オーストレィ副局長の最新の研究は主に、不平等の拡大はより低い成長と関係している傾向にあり、不平等が拡大している国ほど再分配をより多く行う傾向にあること、そして概ね再分配は成長を支えるという結果を示している。
不平等-最近の傾向とその考察
アジア開発銀行の庄巨忠・副チーフエコノミストは、アジアにおける不平等の最近の傾向とその主要因を見直し、同地域の高成長は貧困を大きく削減したが、多くの国で不平等の拡大を伴ったと強調した。
同氏は「機会不平等を削減もしくは解消することが、包摂的成長戦略の主軸である」と述べた。
IMF財政局のサンジーブ・グプタ副局長は、IMFの最近のボードペーパー(理事会向け報告書)を基に、財政政策の再分配の役割に注目した発表を行った。グプタ副局長は、再分配にかかる財政政策は、主に支出を通して先進国・地域で不平等を3分の1削減すると強調した。
しかし、財政政策に絡む再分配の水準はなかでもアジアの新興市場国で低い。これは、少ない歳入と社会支出、社会保険の対象が狭いこと、医療と教育の対象範囲のギャップ、補助金の対象の絞込みが不十分で主に高所得層がこれを手にすることなどを反映している。
同副局長は、こうしたことを踏まえると再分配の面で対策が必要であることが明らかだが、一方で政策は慎重に検討する必要があると指摘した。
「再分配のための財政政策は、マクロ経済の目的と整合的であるべきであり、税及び支出措置は、分配と効率性の目標をバランスさせる必要がある。また、その内容は、行政能力を勘案すべきである」
各国の経験
セミナー参加者は、アジアの国のこれまでの不平等への対策についても協議を行った。たとえば、フィリピンでの条件付現金給付プログラムや金融包摂のためのイニシアティブ、韓国における上昇のための社会的流動性の促進と、調整されたソーシャルセーフティネットの構築などである。
ジョバンニ・ガネリOAPシニアエコノミストは、現在日本政府が進めている「アベノミクス」政策の影響を包摂性の観点から評価した、最近のリサーチペーパーの結果を報告した。
同氏は「主な政策への意味合いは、成長を促し平等を高めるためにアベノミクスの『第3の矢』を完全に放つことが必要であるという点であり、これには女性の労働参加を高め二重構造を改善するための労働市場改革を含むべきだ」と述べた。
マクロ経済の安定化のために不平等を改善する
オッド・パー・ブレックOAP所長は、閉会の辞で、同セミナーの成果を強調した。ひとつは、最近の研究により、伝統的に社会的・政治的目標とされた不平等の改善が、成長及びマクロ経済の安定性にとり重要であることが明白になったということである。これは、健康や人的資本の蓄積への影響といった直接的経路、及び構造改革に前向きな社会的合意の形成といった間接的な経路、双方による。
さらに、この協議により税制措置・支出措置が不平等の改善で多くの場合中心的な位置を占めるものの、その他の経済政策も重要であることが浮き彫りとなった。
ブレック所長は「政策の詳細は国により異なるべきであるのは明白だが、財政政策のみならず金融部門政策、労働市場政策、そして構造政策も手段に組み込まれるべきである」と述べた。
さらに同氏は、OAPはアジアの能力構築及び意見交換を支えるために、多岐にわたる各種イニシアティブを継続していくと強調した。