アジア太平洋地域セミナー

最新のIMF世界経済見通し-広がる復興の差、回復を進める

国際通貨基金(IMF)は先ごろ、2021年の世界経済見通しを5.5%から6%へと上方修正しましたが、パンデミックに打ち克ち、各国内での不平等の継続的な拡大や各国間の経済格差の拡大を避けるために実行すべきことが数多く残されていると警告しています。 IMFアジア太平洋地域事務所では5月13日、最新の『世界経済見通し(WEO)』における分析を紹介するオンライン・セミナーを開催しました。 報告書の執筆を担当したIMF調査局のエコノミストらが、世界経済の見通しと政策や、コロナ禍がもたらしうる長期的な損失、新型コロナ危機の労働市場への悪影響、コロナ禍からの復興期間における金融政策の波及的リスクと課題といったテーマ別の分析について発表を行いました。

議題 2021年5月13日
11:00-11:05 am 冒頭挨拶 
11:05-11:35 am  発表1:世界経済の見通しと政策(WEO第1章)
講演者:マルハール・ナバール
講演資料(英語)
11:35-11:50 am  質疑応答
11:50-12:00 pm 発表2:コロナ禍がもたらしうる長期的な後遺症(WEO第2章)
講演者:ジャコモ・マジストレッティ
講演資料(英語)
12:00-12:10 pm  発表3:新型コロナ危機の労働市場への悪影響(WEO第3章)
講演者:柴田一平
講演資料(英語)
12:10-12:20 pm  発表4:復興期間における金融政策の波及と課題(WEO第4章)
講演者:フィリップ・エングラー
講演資料(英語)
12:20-12:35 pm 質疑応答 
12:35-12:40 pm  閉会及びアンケート

講演者:

  • Malhar Nabarマルハール・ナバール:『世界経済見通し(WEO)』を担当するIMF調査局世界経済研究課長。これまで、IMFアジア太平洋局において中国及び日本を担当したほか、香港へのミッション・チーフを務める。調査研究の関心分野は、金融発展、投資及び生産性の成長。IMF勤務以前はウェルズリー大学の助教授を務める。ブラウン大学より博士号を取得。
  • Giacomo Magistrettiジャコモ・マジストレッティ:IMF調査局世界経済研究課のエコノミスト。ノースウェスタン大学より博士号を取得後、IMFに勤務。調査研究の関心分野はマクロ経済学と財政政策。


  • Ippei Shibata柴田一平:IMF調査局の構造改革ユニットのエコノミスト。 これまでIMF西半球局及び戦略政策審査局に勤務。調査研究の関心分野は応用マクロ経済学及び労働市場の問題。シカゴ大学より博士号を取得。
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  • Philipp Englerフィリップ・エングラー: IMF調査局多国間審査課のエコノミスト。これまでドイツ経済研究所及びベルリン自由大学に勤務。調査研究の関心分野は開放経済のマクロ経済学及び財政政策。


『世界経済見通し』の各章概要:

1章 広がる復興の差: 回復を進める  
私たち世代の記憶に残っている限り、2020年ほど経済活動が縮小した年は存在しないが、異例の政策支援が講じられ、経済状況のさらなる悪化を阻止することができた。世界経済の成長率は、2020年10月「世界経済見通し」の数字よりも引き上げられ、2021年に6.0%を記録し、2022年には4.4%までペースを緩めると予測されている。 この上方修正は、一部の経済大国における追加の財政支援や、年後半にワクチン接種効果による景気回復が期待されること、移動量の低迷への適応が続くことを反映している。パンデミックの今後の展開や、ワクチンが牽引する経済活動の正常化が進むまでのつなぎとなる政策支援の有効性、金融環境の動向に関連して、予測を取り巻く不確実性は大きい。パンデミックに打ち克ち、国内格差の悪化継続や各国間における1人あたり所得の差の拡大を避けるために実行すべきことはまだ数多く存在する。 

2章 コロナ禍の後遺症: 中期的な経済損失の見通し 
本章では、新型コロナウイルスによる景気後退から生じうる、長期的に持続する損失(scarring、傷跡)の可能性について、また、それが生じうる経路について検討する。パンデミックによる中期的な経済損失は甚大であると予想され、2024年の世界GDPを見ると、新型コロナ危機前の予測よりも約3.0%下回ることになりそうだ。どの程度の損失が生じるかは経済構造や政策対応の規模に応じて国ごとに異なる。損失を抑えるため、政策当局者は、パンデミックの影響がある間は、最も影響を受けているセクターや労働者に対し支援を提供し続ける必要がある。人的資本蓄積の後退を防ぐ是正政策、投資を促進する措置、再配分を支援するためのイニシアチブは、長期的なGDP損失に対処するための鍵となるだろう。

3章 景気後退と労働市場の回復: パターン、政策、コロナショック対応 
新型コロナ危機のショックが労働市場に残した悪影響が持続しており、若年層や低技能労働者が特に大きな打撃を受けている。本章では新型コロナ危機が与えた労働市場への影響について、過去のショックと比べてどうか及び政策がどのように下支えしたかについて考察する。機械が自動化しやすい雇用からの移行を志向していた既存の雇用トレンドが加速している。雇用維持を目的とした政策支援は危機の後遺症を軽減したり、コロナ禍による深刻なショックを緩和したりする上で非常に有効だ。今般の危機が収束に向かい、復興が正常軌道に乗るのに応じて、労働者の再配分を支援する施策に方向転換することで、失業をより迅速に削減したり、新型コロナウイルスの労働市場へのショックが残す長期的な影響にあわせた調整を円滑化したりする上で、プラスの効果をもたらせる可能性がある。

4章 ギアを切り替える: コロナ禍からの復興期間における金融政策の波及効果 
コロナ禍当初における先進国・地域による金融緩和は、新興市場国の資金調達面で大きな助けとなった。今後、各国で危機からの復興スピードが異なることで、課題が生じることになるだろう。本章の分析によると、米国経済がより力強く回復する結果として金融引き締めが行われる場合、大半の新興市場国にとっての影響は悪質でない一方で、突然の引き締めは新興市場国からの資本流出を引き起こすことが示唆されている。したがって、先進国・地域にとっては、復興期間中において金融政策をどのように実施していくか明確に説明することが重要になる。また、本章の分析によると、新興市場国はさらに透明性が高くルールに基づく金融・財政の枠組みを採用することで、金融面での負の波及効果を軽減できる点が示されている。