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Credit: Joaquin Sarmiento

深い分断が回復の足かせに

ギータ・ゴピナート

世界経済は回復を続けているが、不確実性が高まりつつあり、政策トレードオフが複雑化している。

世界経済は回復し続けているが、パンデミックが足かせとなって勢いが鈍化している。感染力の強いデルタ株によって拍車がかかり、世界で確認された新型コロナウイルスによる死者数は500万人近くに達し、保健リスクも多く、経済活動の完全な正常化を妨げている。世界のサプライチェーンの要所でパンデミックが発生したことで、供給の混乱が予想よりも長引き、多くの国でインフレを助長している。全体として、経済見通しをめぐるリスクが高まり、政策のトレードオフはより複雑なものになっている。

2021年の世界経済成長率の予測は7月時点の予測から若干下方改定され5.9%となり、2022年については4.9%のまま据え置かれた。しかし、全体の改定がこのように小幅な一方で、一部の国は大幅に下方改定された。低所得途上国では、感染動向の悪化を受けて見通しが大幅に低下している。下方改定は、供給の混乱などを理由に、先進国・地域の短期的な見通しがより厳しいものになっていることも反映している。こうした変化を部分的に相殺する形で、一部の一次産品輸出国については、一次産品価格の上昇を背景に見通しが上方改定された。対人接触の多い部門におけるパンデミック関連の混乱に伴い、大半の国で労働市場の回復の遅れがGDPの回復を著しく遅らせる原因となっている。

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各国間で経済見通しに危険な格差が見られることが引き続き大きな懸念事項となっている。先進国・地域は、2022年に総生産がパンデミック前のトレンドに戻り、2024年にはそれを0.9%上回ることになるとみられる。対照的に、(中国を除く)新興市場国と発展途上国では、2024年になっても総生産がパンデミック前の予測を5.5%下回ったままとなり、生活水準の向上により大きな遅れが生じると予想されている。

こうした格差は、ワクチンをめぐる「大いなる乖離」と、政策支援に関する大きな相違の結果である。先進国では人口の60%以上がワクチン接種を完了していて、中には現在ブースター接種(追加接種)を受けている人もいるが、低所得国では人口の約96%が依然としてワクチン接種を受けていない。しかも、多くの新興市場国と発展途上国では、金融環境がタイト化し、インフレ期待が不安定化するリスクが高まっており、先進国よりも生産高が損なわれているにもかかわらず政策支援をより早急に終了させつつある。

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供給の混乱も別の政策課題をもたらしている。一方では、パンデミックの発生と気候の乱れによって重要な投入財の不足が生じ、いくつかの国で製造業の活動が低下している。他方では、こうした供給不足が繰延需要の顕在化や一時産品価格の回復と合わさって、米国やドイツなどのほか、多くの新興市場国・発展途上国において消費者物価上昇率の急加速を招いている。食料価格は食料不安が最も深刻な低所得国で最も上昇しており、貧困世帯の負担が増すとともに、社会不安のリスクが高まっている。

2021年10月の「国際金融安定性報告書(GFSR)」では、金融市場におけるリスクテイクの増加とノンバンク金融部門における脆弱性の高まりに伴う金融政策にとってのもうひとつの課題に光を当てている。

政策の優先事項

これらの複雑な課題の背景にある主な共通要因のひとつとして、国際社会が引き続きパンデミックに支配されていることが挙げられる。したがって、2021年末までにすべての国で40%以上の人に、2022年半ばまでに70%の人にワクチンを接種することが政策上の最優先事項となる。そのためには、高所得国がワクチンの寄付に関する既存の約束を果たし、今後短期間でCOVAXへの供給を優先すべく製造業者と調整を行い、ワクチンと原材料の流通に関する貿易制限を撤廃することが必要となる。同時に、検査や治療薬、ゲノム・サーベイランスに関して依然不足している200億ドルの無償資金を埋め合わせれば、今すぐに人命が救われ、ワクチンは目的にかなったものとなる。将来的には、ワクチン製造業者と高所得国が資金提供と技術移転を通じて発展途上国における新型コロナワクチンの現地生産拡大を支援する必要がある。

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世界にとって緊急の優先事項としては他に、地球の気温上昇を遅らせ、気候変動による負の影響の増大を抑える必要がある。そのためには、来る国連気候変動会議(COP26)において、温室効果ガス排出削減に関するより野心的なコミットメントが求められる。各国の事情に合わせて調整された国際的な炭素価格の下限や、グリーンな公共投資と研究助成の強化、世帯に対する的を絞った補償的給付を含む政策戦略は、エネルギー転換を公平な形で進めることに役立ちうる。同様に重要なこととして、先進国は発展途上国のために年間1000億ドルの気候資金を動員するという従来の約束を果たす必要がある。

さらに、制約を抱える国向けに十分な国際的流動性を確保するために多国間で協調して取り組み、持続不可能な債務を再編すべくG20の共通枠組みの導入を加速すれば、各国間の格差拡大を抑える助けになるだろう。IMFは、歴史的な6500億ドルの特別引出権(SDR)配分を踏まえて、対外ポジションが強固な国に対してSDRを貧困削減・成長トラスト(PRGT)に自主的に振り向けるよう呼びかけている。さらに、持続可能な成長への各国の投資を支援するための長期資金を提供することになる「強靭性・持続可能性トラスト」の設置も検討している。

各国レベルでは、ポリシーミックス全体を自国のパンデミックと経済の状況に合わせて調整し、政策枠組みの信頼性を保持しつつ持続可能な雇用の最大化を目指す必要がある。多くの国で財政余地がより限定的となる中、引き続き医療支出を優先すべきだが、同時に、ライフラインや各種給付は対象を徐々に絞り、訓練や再配置への支援によって補強する必要がある。保健上の成果の向上に応じて、政策の重点を長期的な構造目標へと移さなければならない。

公的債務が過去最高水準に達する中、あらゆるイニシアティブは信頼性のある中期的枠組みに基づき、実行可能な歳入・歳出措置によって裏付けられたものである必要がある。2021年10月の「財政モニター」では、そうした信頼性が各国の資金調達コストを引き下げ、短期的に財政余地を拡大しうることが示されている。 

金融政策は、インフレおよび金融リスクへの対処と景気回復の下支えとの間で微妙なバランスをとることが必要となる。われわれは、不確実性が大きい中で、先進国と新興市場国・発展途上国では総合インフレ率が2022年半ばまでにパンデミック前の水準に戻るだろうと予測している。しかしながら、各国間で著しいばらつきがあり、米国やイギリス、一部の新興市場国・発展途上国のように上振れリスクが見られる国もある。金融政策は一過性のインフレ上昇を総じて無視できる一方で、中央銀行は目下の先の見えない回復においてインフレ期待の上昇リスクがより具体化する場合には迅速に行動する準備を整えておく必要がある。中央銀行は、不測の事態への対応を計画し、明確なトリガー(発動条件)を伝え、そうしたコミュニケーションに沿って行動すべきである。

より一般的には、明確さと一貫性のある行動は、米国におけるタイムリーな債務上限引き上げの失敗や中国における不動産部門の無秩序な債務再編、貿易摩擦と技術摩擦のエスカレートといった、金融市場を混乱させ世界経済の回復を遅らせるような政策事故の回避に大きく貢献しうる。

最近の動向によって、われわれは皆運命を共にしており、パンデミックはあらゆる場所で終息するまでいずれの場所でも終息したことにならないことが十二分に明らかになっている。新型コロナの影響が中期的に持続することになれば、世界GDPは現在の予測と比べて今後5年間に累積で5.3兆ドル減少する可能性がある。しかし、それは必然ではない。国際社会は、すべての国に対してワクチンへの公平なアクセスを保証し、十分な供給があるところではワクチン忌避を克服し、すべての人の経済的展望を改善するために、取り組みを強化しなければならない。

 

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ギータ・ゴピナートIMF経済顧問兼調査局長。ハーバード大学経済学部ジョン・ズワンストラ記念国際学・経済学教授であり、現在は公職就任のため一時休職中。

国際金融とマクロ経済学を中心に研究を行い、経済学の代表的学術誌の多くに論文を発表している。為替相場、貿易と投資、国際金融危機、金融政策、債務、新興市場危機に関する研究論文を多数執筆。

最新の『Handbook of International Economics』の共同編集者であり、「American Economic Review」の共同編集者や「Review of Economic Studies」の編集長を務めた経験もある。以前には、全米経済研究所(NBER)にて国際金融・マクロ経済学プログラムの共同ディレクター、ボストン連邦準備銀行の客員研究員、ニューヨーク連邦準備銀行の経済諮問委員会メンバーなどを歴任した。2016年から2018年の間には、インド南西端ケララ州の州首相経済顧問を務めた。また、G20関連の問題に関するインド財務省賢人諮問グループのメンバーでもあった。

アメリカ芸術科学アカデミーと経済学会のフェローにも選出。ワシントン大学より各分野で顕著な業績を上げた卒業生に贈られるDistinguished Alumnus Awardを受賞。2019年には、フォーリン・ポリシー誌が選ぶ「世界の頭脳100」に選出された。また、2014年にはIMFにより45歳未満の優れたエコノミスト25名の1人に、2011年には世界経済フォーラムによりヤング・グローバル・リーダー(YGL)に選ばれている。インド政府が在外インド人に授与する最高の栄誉であるプラヴァシ・バラティヤ・サンマン賞を受賞。シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスで経済学の助教授を経て、2005年よりハーバード大学にて勤務。

1971年にインドで生まれ、現在はアメリカ市民と海外インド市民である。デリー大学で学士号を、デリー・スクール・オブ・エコノミクスとワシントン大学の両校で修士号を取得後、2001年にプリンストン大学で経済学博士号を取得。