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回復を分かち合う―特別引出権(SDR)の振り向けとトラストの新設

ジェイラ・パザルバシオル   ウマ・ラマクリシュナン 

自主的な振り向けを通じて特別引出権(SDR)配分の効果を高める選択肢

国際通貨基金(IMF)が世界的なパンデミックに対して講じた措置のうち、最も重要なもののひとつは、先般行われた特別引出権(SDR)の歴史的な配分であった。今度は、その配分をニーズが最も大きいところに回す、つまり振り向けることが課題となっている。それを受けてわれわれは、最も貧しく脆弱な国が今までより強靭で持続可能な未来を切り開けるようにするための3つの選択肢を検討している。

新型コロナに対するIMFの対応

新型コロナウイルスのパンデミックが発生して以来、IMF87か国に対して約1170億ドルを融資してきた。加盟国への支援を強化するために融資政策を刷新するとともに、低所得国に対する融資を拡大するために「貧困削減・成長トラスト(PRGT)」の下での譲許的融資政策の枠組みをこのほど改革した。

さらに、他の国際機関と力を合わせて、世界的なワクチン普及の加速と、ワクチン以外の治療法や診断法へのアクセス改善に貢献しようとしている。

われわれの取り組みはそれだけにとどまらない。この8月に実施された6500億ドル相当の歴史的なSDR配分によって、世界全体で流動性が高まり準備資産が増えた。そのうち約2750億ドルが新興市場国・発展途上国に配分され、低所得国が受け取った額は210億ドルと、場合によっては、GDPの最大6%にも相当する規模に上った。

SDRを活用する

今なすべきことは、SDRを振り向け直して、その効果が最大となるようにすることである。国際通貨金融委員会(IMFC)ならびにG7G20の首脳らは、IMFに対して、対外ポジションが強固な国が自国のSDRの一部をより貧しく脆弱な国に自主的に振り向けられる方法について検討するよう求めた。

こうした状況を背景に、われわれは以下の3つの選択肢を検討している(これらは相互に排他的ではない)。

PRGTの規模を拡大する。これに関しては、すでに大きな前進が見られる。過去16か月間に融資財源として240億ドルを拠出する約束がなされており、そのうち150億ドルは既存のSDRによるものである。

しかし、目標達成にはまだほど遠い。IMFが今後数年間にわたって低所得加盟国の資金調達ニーズに適切に応えられるようにするには、約280~500億ドルの追加財源が依然必要である。PRGTを通じたゼロ金利融資を継続するために、IMFは補助金勘定に対する23億SDRの無償資金拠出も必要としており、資金調達のための取り組みが続けられている

IMFが管理する「強靭性・持続可能性トラスト(RST)」を新設する。

世界銀行や一部の地域中央銀行、多国間開発銀行など15の機関から成るSDRの「規定に基づいて定められた保有者」に対してSDRを振り向ける。

長期的な目的を持ったトラストの新設

現下のパンデミックとの闘いを続ける中でも、世界経済を再建する上で各国が直面する長期的な課題を見失ってはならない。一例に過ぎないが、気候変動や貧困の拡大、人口動態の変化、猛烈なスピードで進むデジタル化などに直面している。

こうした長期的な構造的課題によって、脆弱な国はますます後れをとるリスクにさらされる。多くの場合、資金調達や能力の制約ゆえに、こうした課題への対策は講じられないままとなる。しかし、こうした改革を行わなければ、対外的、社会的、そして経済的な安定性を危険にさらすことになる。

提案されているRSTは、特に低所得国や小国、そして脆弱な中所得国において、経済の強靭性と持続可能性の構築に資する政策改革を下支えすることになるだろう。RSTは、IMFの融資条件よりも低金利で返済期間の長い融資を行うことで、より低コストの資金へのアクセスを支援することを目指す。こうした資金は、IMFに課された役割と一致する形で国際収支の安定に注力する助けとなるだろう。

資金提供の目的は、加盟国のコンセンサスによって決定されることになるだろう。例えば、気候が目的のひとつになると考えられるが、その他にもパンデミックへの備えのように意義のある世界的な公共政策目標がいくつかあり、検討する必要があるかもしれない。 

大半の債権国は、SDRを振り向けた場合でも、自国の準備資産の状態を維持しなければならない。そのためには、RSTが流動性を供給できるようにし、国際収支上の必要性が生じた場合には債権国による迅速な現金化が可能で、さらにドナー国に対して信用リスクの保護を十分に提供することが必要となる。

われわれはまた、SDRを振り向けた際に準備資産の状態を維持するため、RSTに対する融資が十分な安全性と流動性を持つよう、政策セーフガードや資金バッファーに加えて債権国と借り手の裾野を広げることなどを含む多層的な信用リスク保護枠組みの整備を提案している。さらに、RSTによる融資は通常のIMF支援プログラムに「上乗せ」される可能性が高いと考えられるため、マクロ経済の安定を確保する上では、プログラムに付随する強力な政策セーフガードの恩恵を受けることになるだろう。

われわれは、トラストの規模や適格要件、コンディショナリティ、融資条件、財務構造といったいくつかの付加的な設計上の特徴についても検討している。十分な支持を得るべく、加盟国やその他の利害関係者との対話を継続しており、同時に、世界銀行をはじめとする他の国際金融機関とも緊密に協力して、RSTが国際的な国別支援に関するより広範な戦略の一端を担い、各機関に課された役割を活用できるようにしている。われわれは、こうしたアプローチが加盟国にとってプラスになると考えている。

ゴールを目指す

世界は、このほど配分された6500億ドルのSDRを、世界の公共政策アジェンダを進める形で貧しい国を支援するために活用する歴史的な機会を手にしている。

コンセンサスを形成することは決して簡単ではなく、時間を要する。隔たりを解消するには、創造的な解決策が求められる。国際社会の支援があれば、RSTはそうした革新的な解決策のひとつとなり、1年余りで運用可能になりうると確信している。来る年次総会においてさらなる前進があることを期待する。パンデミックは共同で取り組むことの重要性を示した。協力することで、すべての人にとってより良い未来を築くために現在直面している最大の課題に立ち向かうことが可能である。

 

 

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ジェイラ・パザルバシオルIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。

ウマ・ラマクリシュナンIMF戦略政策審査局副局長。非譲許的融資に関する同局の政策業務を主導。1998年にIMFでの勤務を開始して以来、アジア太平洋、西半球、中東の様々な国を担当し、ジャマイカとエジプトに対する訪問団長も務めた。また、IMFの融資政策に関して幅広く取り組んできたほか、IMFにおける危機業務に関しても幅広い経験を有する。