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パンデミックからの復興を推し進めるうえでは女性に配慮した予算作りを

3月8日の国際女性デーは、新型コロナウイルス対策としてのロックダウンが広く行われ始めてから1年となる。

この間、昨年7月のIMFブログ記事で注意が喚起されているように、経済的・社会的な面で、女性はパンデミックによる多大な影響を受けている。

現在、多くの国々の政府が来年度の予算を準備中であり、こうした男女格差に対応する絶好の機会が訪れている。私たちは、各国が資源を女性に集中させ、これまでよりも女性に配慮した予算作りができるように、ジェンダー予算に取り組むためのツールを提供している。

政府の行動が有効

ロックダウン政策によって女性や少女に偏った影響が生じている例は多い。日本では、パンデミックの打撃を受けて100万人の女性が労働市場から退出したが、男性の労働参加の変化は女性よりもはるかに小さかった。チリでは、コロナ発生以降、女性の76%にとって家事に費やす時間が増えたと報告されている。メキシコでは、女性への暴力に関する緊急通報が53%増加した。マララ基金は、発展途上国でパンデミックに伴う休校が終わった後にも2,000万人の少女が教室に二度と戻らない可能性があると推定している。

これはとても憂慮すべき状態だが、政府が行動を起こしていなければ事態はさらに悪化していただろう。国連の「COVID-19グローバル・ジェンダー・レスポンス・トラッカー」によれば、ジェンダー関連の課題に対処すべく合計1,000件近くの政策対応が各国で講じられている。それには、女性向けの有給休暇や、雇用保護措置、より柔軟な勤務形態、貧困世帯対象の所得支援・現物支援などが含まれる。

IMFの研究ではこうした政策が有効だと結論付けている。これらの政策は、女性の雇用を拡大し、ひいては国民全体の経済的厚生を高めている。このような政策は一段と発展させていくことが望ましい。それができなければ、パンデミックに伴う経済・社会面での後遺症が長期化して、女性に対する格差が固定化し、今後の復興にも悪影響を及ぼす恐れがある。

ジェンダー予算のための指針

ただし、そのような政策を導入するだけでは、未だ道半ばと言わざるをえない。そうした政策を一段と有効なものにするためには、一貫したジェンダー戦略の一環として行うことが重要である。ジェンダー戦略は、必要性に応じて実効的に設計され、既定の予算プロセスに沿って、政策実行を改善するためにモニタリング・評価されることが必要である。これこそが、ジェンダー予算の本質である。

ジェンダー予算は、各国の予算において男女格差に対処するための強力なツールとなる。それは、公共財政管理の政策や手順にジェンダーを組み込むものだ。

ジェンダー予算の強化は継続的かつ長期的な投資となるが、各国が、これまでの経験の有無にかかわらず、ジェンダー予算のプロセスを開始できるように、私たちは実行可能なツールキットを提示している。

ジェンダー予算を始めるためのツール

先ず第一に、女性や少女に対するパンデミックとロックダウンの影響を評価するためのエビデンスを集めることである。問題の規模や所在を把握しないまま対応することは、暗闇の中でダーツを投げるようなものである。例えば、「当該国において、女性が多数を占める産業や部門はどの程度影響を受けているのか」、「女性は縮小した各種の公共サービスへの依存度が高いのか」といった点は評価すべきであろう。

エビデンスを「ジェンダー・ニーズ・アセスメント」のような文書にまとめて提示することで、より焦点を絞った対応が可能になる。国連女性機関(UN Women)は、それが迅速に実施可能であることを示している。同機関は、パンデミックの発生当初、ウクライナにおいて電話調査とオンライン調査に基づきわずか1か月でジェンダー・ニーズ・アセスメントを完了させている。

設計を通じた向上

こうしたエビデンスは政策対応の的を絞るために活用しうる。もっとも、十分な政策意図があったとしても、政策設計が貧弱であればうまく機能しない。そこで、「ジェンダー・インパクト・アセスメント」によって、女性受給者の割合や制度利用上の障壁となりうる要因などを評価することにより、より良い政策設計が可能となる。オーストリアやカナダでは、今や新規の予算案全てにジェンダー・インパクト・アセスメントが含まれている。

こうした評価により、意図せざるジェンダー・バイアスが浮かび上がることがある。例えば、賃金補助の仕組みによっては女性が多数を占めるインフォーマルセクターの労働者が対象外になる可能性があるほか、租税政策の中には女性の就労を抑制しかねないものがある。

資源の配分

第三に、目標を行動に変えるべくジェンダー政策に十分な資源を配分することが非常に重要となる。IMFは、女性に対する配分の増加を支援している。例えば、エジプト向けのIMFプログラムには、対象を絞った現金給付(受給者の多くが女性)に対する予算配分の増額を支援し、公共保育サービスを改善させるための措置が含まれている。

各国政府が来年度予算の準備を行う中、「予算通達」や「ジェンダー予算書」を通じてジェンダー政策目標をしっかりと設定することにより、そうした目標に向けて十分な資源を充当することが可能となる。さらに、一般市民に対して信頼と透明性をもたらすという付加的なメリットもある。フィリピンの2021年予算通達には、保健や栄養、社会的保護など、女性を支援する優先政策分野が盛り込まれている。

追跡・評価

最後に、支出を追跡調査し、影響を評価することが重要である。とりわけ、男女格差の解消を目的とした支出の追跡調査や簡単な政策評価、さらにはジェンダーパフォーマンス監査を通じて、タイムリーなフィードバックを得ることが可能である。そして、こうしたフィードバックにより、必要に応じて政策の軌道修正を行ったり、政策の有効性を確認することができる。例えば、シエラレオネではリアルタイムに監査を行うことにより、エボラ出血熱の流行に効果的に対処し、医薬品の供給と二重支払いに関する問題を明らかにした。

IMFは引き続き男女平等に向けて真摯に取り組んでいく。これまで、男女平等を促進するための予算慣行や予算配分、更には租税政策の実施について113か国の加盟国と協力している。パンデミックの発生以来、55か国以上の国がIMFとともにジェンダー予算に関する研修に投資を行っている。

ほぼ全ての国が男女平等の目標を掲げているが、IMFの調査では、それを実行するための法的枠組みを備えている国は半数に過ぎないことがわかっている。そして、ジェンダー予算書やジェンダー・インパクト・アセスメントのような確立された手法を用いている国は4分の1にとどまっている。

ジェンダー予算の実施経験がある国もあれば初の試みとなる国もあるが、どの国にとっても改善の余地がある。パンデミックからの復興は、こうした取り組みを加速させ、その配当を享受する機会となる。

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アントワネット・モンショー・セイエ IMF副専務理事

本田治朗はIMF財政局の課長補佐。2001年にIMFでの勤務を開始し、財務局とアフリカ局に務め、レソト、ナミビア、エスワティニのミッションチーフの役を担った。IMFでの勤務開始前には日本銀行で香港事務所駐在員などの職務に就いていた。研究分野は財政政策(歳出・歳入政策、財政支出の乗数効果)、経済開発、金融部門、ガバナンスなどである。

カロリーナ・レンテリーアは財政局公共財政管理第1課の課長。欧州、英語圏アフリカ、中東・中央アジアの各地域で実施する公共財政管理分野での能力開発の責任者。また、予算と財務処理の手続き、ガバナンス、インフラガバナンス、財政リスク管理、財政の透明性、マクロ財政枠組み、公的部門のバランスシートに関する能力開発の包括的な分析アジェンダの策定も担当している。2016年にIMFでの勤務を開始する前には、世界銀行で理事やアフリカ地域担当のリードエコノミストとして務めた。コロンビアでは、国家計画庁長官(内閣の一員)、国家予算局長、財政委員会の上級アドバイザーを務めた。

ヴィンセント・タンはIMF財政局のエコノミストで公的財政管理、ジェンダー予算、マクロ財政政策の業務に取り組んでいる。以前には、イギリス財務省で財政経済、経済成長それぞれを担当するリーダーを務めた。同国の国際開発省と教育省にも勤務した。ケンブリッジ大学の経済学・物理学の学士号、経済学修士号を取得。