新型コロナウイルスは世界中の人々、企業、国々に大きな影響を及ぼした。国々は個人・企業を対象にライフラインとなる公的支援を拡大してきたが、経済活動の水準が低く、債務が異例の規模に達する中、パンデミック(感染症の世界的流行)から回復する上で非常に大きな試練に直面することになる。
この回復において公共インフラ投資が重要な役割を果たすことになる。しかし、資源に余裕がない中、政府は納税者からのお金を適切なプロジェクトに対し賢明に使う必要がある。したがって、質の高い公共インフラを計画・配分・実行するための強力な制度と枠組みである優れたインフラガバナンスが各国に求められる。
国際通貨基金(IMF)の新しい書籍では、各国が優れたインフラガバナンスを設計できる方法について取り上げている。あまりにも多くの公共投資が、人々や経済にとって限定的な利益しか生み出さない高額で質の悪いインフラに終わってしまっている。こうした事例は大規模かつ複雑な長期的プロジェクトに関係する傾向が見られる。これらの特徴は汚職など腐敗、遅延、費用超過の温床につながる。このような無駄を削減する上で強力なインフラガバナンスが鍵となる。
私たちの分析は、各国平均でインフラ支出の約3分の1が非効率性のために無駄にされている点を示している。低所得国の場合、こうした損失の割合が驚くことに50%を超えることがある。国々がパンデミックからの復興を遂げる中、こうした潜在力を解き放つことが重要な役割を果たすべきだ。ここで良い知らせがある。効率性が失われたり、無駄な支出が行われたりするのは必ずしもインフラに付き物というわけではない。私たちの試算では、こうした損失の半分以上をインフラガバナンス改善によって補えるかもしれない点が示されている。
未来への橋
新型コロナからの経済復興は、適切に設計・導入された公共インフラによって国々が未来への橋を築く上で、またとない機会となっている。
適切に実施されれば、低迷する総需要を刺激するための公共投資は、さらに包摂的な成長を促進し、格差是正を進め、あらゆる人々のために経済機会を創出する上で力となれる。医療システム、デジタル、環境に配慮したインフラへの投資は、人々の生活を改善し、市場をつなぎ、気候変動や未来のパンデミックに対する各国の強靭性を改善しうる。また、国々は持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて公共投資を増加させる必要が出てくる。一方、先進国は道路や橋、医療システムなど老朽化するインフラに対処すべきだ。
出費はその1ドル1ドルが有意義である必要があり、インフラ支出を増やす上で国々は最大限の成果を得られるように、支出をより上手に、より賢明に行っていく必要がある。
60か国以上で実施された公共投資マネジメント評価(PIMA)を含めて、IMFによる分析と能力開発の取り組みを踏まえ、私たちの書籍では各国が質の高いインフラを成果として実現し、公共投資から経済的・社会的な恩恵を余すことなく享受できるように「抱負から行動」へと動くためのロードマップを提示している。
本書は、強力なインフラガバナンスの基礎に光をあて、重要分野での革新的な実践を紹介している。インフラプロジェクトでいかに腐敗を管理するか、財政リスクをどう軽減・管理するか、計画と予算編成の統合方法、公共投資サイクル初期とプロジェクト評価・選定の時期における健全な慣行の導入方法について例を挙げて説明している。最後の点は多くの国で不十分な傾向がある。
例えば、チリは包括的なインフラガバナンス制度を策定し、コスト削減を実現している。韓国では、国レベルで公共調達の一元管理を行っており、公共調達制度の透明性と健全性に改善が見られた。
今回の新刊では、公共インフラ資産の維持管理や気候変動への耐性構築の重要性など、インフラガバナンスの新分野についても取り上げている。例として南アフリカを挙げると、同国は公共インフラ維持のための指針と基準を策定しており、これは道路や橋といった公的資産の価値低下を避けるためだ。
本書ではインフラガバナンス制度がどのように書面上では実際よりも良好な印象を与えがちであるかを強調している。しっかり設計された枠組みを持つことだけでなく、こうした枠組みが実践上どれほど適切に稼働するかに焦点を当てることも重要だと示されている。
全体的なメッセージはシンプルだ。インフラガバナンスを改善するための具体的な行動によって、国々は公共投資の無駄を終わらせ、質の高いインフラを創出できる。新型コロナ流行後に経済を再構築する上で、こうした点はかつてなく重要になるだろう。
2020年10月の「財政モニター」では、持続可能な経済と回復を実現するために各国がインフラ投資をどのように行うのが最善かに関してIMFのさらなる分析と政策助言を掲載する予定だ。
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ガード・シュヴァルツ はIMF財政局の副局長。インフラガバナンスを含め、財政管理に関する局の業務を統括している。IMFでの勤務前には欧州投資銀行と米州開発銀行に務めた。ニューヨーク州立大学オールバニ校で経済学博士号を取得。財政と金融セクターの政策・管理などを研究してきた。
マナル・フアド は財政局公共財政管理(PFM)第2課の課長。公共財政の専門家で、財政政策について助言を提供し、マクロ財政枠組み、財政の透明性、インフラガバナンスに関して政府対象の能力開発を行ってきた。フランス語圏・ポルトガル語圏のアフリカ諸国、アジア太平洋、西半球地域における公共財政管理の能力開発プログラムを統括している。財政局と能力開発局の中で様々な業務を担当してきた。ジュネーブの国際・開発研究大学院で博士号を取得。
トルベン・ハンセン はIMF財政局公共財政管理(PFM)第1課の課長補佐。2013年にIMFでの勤務を開始してから、中東、欧州、英語圏アフリカ諸国を中心とした能力開発業務を主導してきた。また、インフラガバナンスなど公共財政管理に関する分析業務にも参加している。IMFでの業務開始前には、デンマークの財務省と首相府で要職を歴任した。コペンハーゲン大学で経済学修士号を取得。
ジュヌヴィエーブ・ヴェルディエ はIMF中東中央アジア局の課長。IMFでの勤務前には、テキサスA&M大学で経済学の助教授を務めた。その前には、カナダ銀行調査局でエコノミストとして勤務した。ブリティッシュコロンビア大学で博士号を取得。歳出の効率性、公共投資やソブリン債務再編、経済成長や金融の発展など幅広いマクロ経済的な問題に関して、これまで業務やIMFにおける調査・政策出版を行ってきたほか、書籍も執筆し、ピアレビューがされるジャーナルにも論文が掲載された。