新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらす公衆衛生への影響に対処する上では、検疫や社会距離戦略(自主的な隔離)が正しい処方箋です。しかし、世界経済を守る上では、それと真反対のことが必要となります。
ウイルスによる経済的な痛みを比較的短いものとするには、連絡を断つことなく、緊密に調整することが最良の薬です。
多くの政府がすでに相当の対応策を講じており、重要な措置が連日発表されています。昨日も金融政策に関して大胆かつ協調的な動きがありました。
しかし、明らかに、より多くのことを行う必要があります。ウイルス感染が拡大する中、景況感を改善し世界経済の安定性を確保するためには、協調行動の強化が重要となるでしょう。
本日、IMFは一連の政策提言を公表しました。これは、これからの困難な時期において、各国の指針として役立つものです。さらに何を行うべきなのでしょうか。
世界経済のための3つの行動分野
まずは、財政です。長期にわたる経済的損害を予防するために、追加の財政刺激策が必要となるでしょう。
すでに発表された財政措置が、広範囲の政策について発動されつつあります。これは、医療支出や困窮している人々を直ちに優先するものです。包括的な封じ込め措置と早期の監視の組み合わせにより、感染率を抑え、ウイルスの拡散を抑制できることがわかっています。
各国政府は、有給病気休暇の拡大や的を絞った税負担軽減措置などの政策により、こうした取り組みを継続・拡大して、最も影響を受けている人々や企業にその効果が及ぶようにする必要があります。
このような国ごとに行う望ましい行動に加えて、ウイルス感染の拡大に応じて、世界中で協調的かつ一斉に財政刺激策を講じる論拠が時間を追うごとに強まっています。
例えば、世界金融危機の最中にG20諸国が行った財政出動は、2009年だけを見ても、GDPの約2%、今の金額で9,000億ドル以上に上りました。したがって、さらになすべきことは多いのです。
第二に、金融政策です。先進国では、中央銀行は金融環境を緩和し、実体経済への信用フローを確保することにより、引き続き需要を支え景況感を改善する必要があります。例えば米連邦準備制度は、さらなる金利引き下げや資産買い入れ、フォワードガイダンス、預金準備率の引き下げを発表したところです。
世界金融危機の最中においてなど、過去に有効性が示された政策措置が選択肢としてあります。昨日、主要中央銀行は、世界の金融市場ストレスを軽減するために、金融緩和とスワップラインの設定に関する重要な協調行動を実施しました。
ゆくゆくは、新興市場国に対するスワップラインも必要となるかもしれません。
国際金融協会(IIF)が先週述べたとおり、投資家は危機発生以来、約420億ドルを新興市場国から引き上げています。これは、新興市場国からの資金流出としては過去最大となるものです。
そのため、新興市場国と発展途上国では、中央銀行の政策行動が資本の逆流と一次産品価格ショックという特に困難な課題に見合ったものとなる必要があるでしょう。現在のような危機下では、為替介入や資本フロー管理政策が、金利政策など金融政策措置を補完する上で有益となりえます。
第三に、規制面での対応です。金融システム監督当局は、金融安定性の維持、銀行システムの健全性の保全、そして経済活動の持続の間でバランスをとることを目的とすべきです。
今回の危機は、金融危機を受けて実施された変更が役に立つかを見極めるストレステストとなるものです。
銀行に対しては、資本・流動性バッファーの利用など現行規制が持つ柔軟性を活用し、ストレス下にある借り手を対象に融資条件の再交渉に着手することを奨励すべきです。リスク開示や、監督当局の期待に関する明確なコミュニケーションも、この先市場が正しく機能する上で不可欠です。
金融政策から財政措置、そして規制面での対応に至るこうした作業はすべて、協力して行われる時に効力が最大となります。
実際、IMF職員による研究では、例えば歳出の変更は各国がともに行動する場合に乗数効果を持つことがわかっています。
IMFには何ができるでしょうか。IMFは、加盟国を支援するために、1兆ドルの融資能力を行使する用意があります。第一の防衛線として、IMFは国際収支上の緊急ニーズを有する国を支援すべく、柔軟かつ速やかな支払いが可能な緊急対応ツールキットを活用できます。
こうした手段により、新興市場国と発展途上国に対して約500億ドルを供給できるでしょう。低所得加盟国に対しては、ゼロ金利の譲許的融資制度を通じて、最大100億ドルを提供することが可能です。
IMFでは、支払いが実行されているものや予防的なものを含めて、現在40の取極を締結しており、融資承認額は総額で2,000億ドルに上ります。こうした取極は、多くの場合、緊急融資の速やかな支払いのために活用できる別の手段となりえます。私たちの元にはさらに約20の国から関心が寄せられており、今後こうした国々とさらなる連絡調整を行っていきます。
他にも、IMFでは大災害抑制・救済基金(CCRT)を通じて最貧国の支援が可能です。これは、即時の債務救済により、医療支出や封じ込め、緩和に必須の財源を確保するものです。この点に関し、最近英国が約束した1億9,500万ドルの拠出を称賛したいと思います。これにより、CCRTは今や潜在的な債務救済のために約4億ドルを提供することが可能になりました。私たちの狙いは、他のドナー国の支援を得て、CCRTを10億ドルに拡大することです。
このように、IMFは加盟国189か国のために活動し、国際協力の大切さを体現できます。なぜなら結局のところ、この危機に対する私たちの答えは、ある単独の方法・地域・国が孤立した状態で生みだすものではないからです。共有や協調、協力を通じてこそ、私たちは世界経済を安定させ、元気な状態に戻すことができるのです。