開発銀行とは異なり、IMFは特定のプロジェクトに対する融資はしません。その代わりに、危機に直面する国に対して融資をし、その国が経済の安定と成長の回復に向けて政策を実施する上で、財政の余裕を持てるように支援します。また、危機を防ぐための予防的融資も提供しています。IMFの融資は、変化する加盟国のニーズに応えるため、継続的に改良されています。
危機の原因は多様かつ複雑で、国内要因によるもの、国外要因によるもの、そして、双方が重なる場合があります。
国内要因の例としては、不適切な財政政策や金融政策があります。こうした政策によって大幅な経常赤字や財政赤字、多額の公的債務が生じる可能性があります。また、別の例ですが、為替レートが不適当な水準に設定されると、競争力が損なわれ、外貨準備高の損失を招く恐れがあります。さらには、金融システムが脆弱な場合には、景気が急激に加熱したり、急後退したりしかねません。政情不安や脆弱な社会制度も、危機を引き起こす原因となることがあります。
国外要因には自然災害から一次産品価格の大幅な変動に至るまで、さまざまなショックがあります。どちらも特に低所得国にとって、典型的な危機の原因です。また、グローバル化された環境下で、市場心理の急な変化によって資本フローが乱高下することもあります。ファンダメンタルズが健全な国であっても、他国の経済危機や政策から大きな打撃を受ける可能性があります。
新型コロナウイルスの大流行(パンデミック)は世界中の国々に悪影響をもたらした外的ショックの一例となりました。IMFは、各国が最も脆弱な人々を守り、経済回復の基盤を築けるように、異例の融資支援で対応しました。 危機はさまざまな形で発生します。その例をいくつか挙げましょう。
不可欠な輸入品に対する支払いや、対外債務の返済ができなくなった国には、国際収支上の問題が生じます。
流動性が不足したり、債務超過に陥ったりした金融機関は金融危機を招きます。
過剰な財政赤字や債務は、財政危機をもたらします。
IMFに支援を要請する国々には、ひとつのセクターの課題が経済全体に広がり、複数のタイプの危機に直面している状況が頻繁に見られます。危機の結果として、成長の減速や失業率の上昇、所得の低下、不確実性の拡大が生じ、それによって深刻な不況が引き起こされる恐れがあります。重大な危機の場合は、公的債務の不履行や再編が避けられなくなる可能性もあります。
IMFは国ごとに異なるニーズや特定の事情に合わせた多様な融資を提供します。低所得国への融資はゼロ金利で行われています。
IMF融資は、各国が経済の安定と持続可能な成長の地盤を固められるよう、秩序ある政策調整のために余裕を確保することを目的としています。政策の調整は国の状況によって異なり、例えば、主要輸出品価格が急落した場合には、経済を強化し輸出の多様化を図る間に、融資による支援を必要とする国も出てくるでしょう。また、深刻な資本流出に悩む国は、投資家の信用を回復するために、資本逃避の原因となった問題に取り組む必要があるかもしれません。この原因としては、金利が低すぎる、財政赤字と債務残高が急激に膨張している、銀行システムが非効率的であるか十分に規制されていないといった問題が考えられます。
IMFの時宜を得た融資がなければ、一国の調整プロセスがより急で困難になる恐れがあります。例えば、投資家が新たな資金提供を望まない場合、国は政府支出や輸入、経済活動が厳しく圧迫されるかもしれません。IMFの融資制度は、より段階的な調整を実施する助けとなります。通常、IMF融資には一連の是正政策処置が伴うことから、適切な政策が実施されているという合図になり、民間投資家の呼び戻しを促します。IMF融資は最も脆弱な人々を政策条件(政策コンディショナリティ)で保護することも目的としています。加えて、低所得国におけるIMF融資は一般的に、他のドナーや開発パートナーからの金融支援の呼び水としても意図されています。
IMF融資のプロセスは柔軟であり、健全な政策に取り組む約束を順守している国であれば、コンディショナリティ無しで、あるいは限られたコンディショナリティのもとで資金にアクセスできる可能性があります。緊急融資ツールの対象となる差し迫った即時のニーズにも、同様の形で融資が行われる場合があります。
1.
まず、金融支援を必要としている加盟国がIMFに要請します。
2.
次に、当該国の政府とIMF職員が経済や財政の状況と資本ニーズについて協議します。
3.
通常、IMFが融資する前に、当該国の政府とIMFが経済政策プログラムについて合意します。政策コンディショナリティと呼ばれる、政府による一定の政策措置を遂行する約束は、ほとんどの場合IMF融資の不可欠な要素です。
4.
合意に達すると、取極の基盤となる政策プログラムが「レター・オブ・インテント(趣意書)」の形でIMFの理事会に提出され、「覚書」に詳細が記されます。IMF職員は、IMF理事会に対して対象国の政策意図を支持し、融資を提供するよう勧告します。IMFの緊急融資メカニズムにおいては、このプロセスが迅速化されることがあります。
5.
IMF理事会によって融資が承認されると、IMFは融資条件の政策措置が加盟国で実施されているか状況を監視します。対象国の経済と財政が健全な状態に回復すれば、IMF資金は確実に返済され、他の加盟国がその資金を利用できるようになります。
IMFは、加盟国それぞれに特有の状況や多様なニーズに対応できるように、さまざまな融資方法を設けています。 IMF加盟国はどの国も一般資金勘定を非譲許的な条件(市場ベースの金利)で利用する資格を持っています。その一方で、IMFは貧困削減・成長トラスト(PRGT)の下で譲許的な融資(現在、ゼロ金利)による支援も行っています。このトラストは低所得国の多様性とニーズに一層沿う形で工夫された制度です。最近新設された 強靭性・持続可能性トラスト(RST)は低所得国と脆弱な中所得国を対象とし、外的ショックに対する強靭性を育むための低金利の長期融資です。
各国の異なる状況と課題を反映して、一般資金勘定によるプログラムはプログラム期間中にプログラム利用国の国際収支上の問題を解決することが期待されています。一方で貧困削減・成長トラストのプログラムは国際収支上の問題の解決についてより長期的な期間を想定しています。強靭性・持続可能性トラストは、気候変動やパンデミックに対する準備など、長期的な課題の解決を図るための融資となります。
詳細
IMFの財政
IMFの各国との融資取極
加盟国への資金支援に関する週次の概要
顕在化した、見込まれる、または潜在的な国際収支上のニーズ
スタンドバイ取極(SBA)
一般資金勘定
3年以下しかし通常12~18か月
事後条件、必要に応じて事前条件
スタンドバイ・クレジット・ファシリティ(SCF)
貧困削減・成長トラスト
1~3年
長期化する国際収支上のニーズ/中期的な支援
拡大信用供与措置(EFF)
4年以下
事後条件、構造改革に重点を置く 必要に応じて事前条件
拡大クレジット・ファシリティ(ECF)
3~4年、5年まで延長可
緊急を要する国際収支上のニーズ/緊急金融支援
ラピッド・ファイナンシング・インストルメント(RFI)
一括買入れ
審査と事後条件はないが、場合によっては事前条件がある
ラピッド・クレジット・ファシリティ(RCF)
一括支払い
顕在化した、見込まれる、または潜在的な国際収支上のニーズ(極めて堅固なファンダメンタルズと政策
フレキシブル・クレジットライン(FCL)
1~2年
事前条件(資格基準)と、2年間の取極の場合は年次審査
資本収支圧力から生じる大規模でない潜在的な国際収支上の短期ニーズ(極めて強固なファンダメンタルズと政策)
短期流動性枠(SLL)
承認期間は12か月、後継のSLLも可能
事前条件(資格基準)
顕在化した、見込まれる、または潜在的な国際収支上のニーズ(健全なファンダメンタルズと政策)
予防的流動性枠(PLL)
6か月(流動性枠)、1年、または2年
事前条件(資格基準)と事後条件
見込まれる国際収支上の長期ニーズ、または政策によって生じる国際収支上のニーズ
強靭性・持続可能性ファシリティ(RSF)
強靭性・持続可能性トラスト(RST)
最低18か月、並行するUCT級プログラムを超えてはならない
事後条件、並行するIMFUCT級プログラムが必要
非金融/シグナルインストルメント
スタッフ・モニタード・プログラム1(SMP)(IMF理事会関与プログラム[PMB]も含む)
該当なし
6~18か月、より長期も可
政策支援インストルメント(PSI)
1~4年、5年まで延長可
政策調整インストルメント(PCI)
6か月~4年
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