IMFノついて アジア太平洋地域事務所 |
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国際金融制度の改革 (Reform of International Financial Architecture)の 現状と展望(要旨) 国際経済研究センター 2000年10月18日 国際通貨基金 アジア太平洋地域事務所 所長 斉藤 国雄 I. はじめに _ 本年9月末、プラハのIMF・世銀総会において、 _ 最も注目をあびたのは、NGO等によるデモ(貧困対策および債務免除の推進、グローバライゼーション反対)。
_ IMF・世銀トップも、これらの問題に対応していくとの決意表明。 _ この他にも、当面の経済問題(石油価格の上昇、ユーロ安等の主要通貨との関係)、および国際金融制度改革の進捗状況(問題点)等が議論された。 _ プラハ総会に見られるように、国際経済・金融の議論の中心は、貧困・債務減免問題にシフト。1997年7月のアジア危機発生以降2-3年は、議論の中心は危機再発を防ぐための国際金融制度の強化・改革であった。改革のための議論は既に峠を越し、各国間で合意できるものは合意され、実施に移されつつあるというのが一般的認識。 _ 以下に、改革のためにどのような提案がなされ、そのうち何が合意され、実施に移されつつあるかを検討。また、改革の結果、危機回避・対応能力は向上したのかということも考えてみる。 II. アジア危機の原因分析と、それに基づく危機対応・回避のための提案 _ アジア危機の原因分析と密接に結びつく形で、危機対応・回避のための提案が各国の識者、学者等々でなされた。大きく次の5つに分けられる。 (i) 固定為替(ペッグ)制度再導入論。アジア危機とは、少なくとも現象面から見れば、アジア通貨の暴落であった。これは、為替レートの変動(フロート)を許したから起こったのであるから、このような変動を禁じて、ペッグか、それに近い制度を再導入すべし。 (ii) 資本規制導入論。通貨下落の原因は、大量の資本流出。従って、流出を防ぐための資本規制を認めるべし。また、ヘッジファンド等の市場参加者の行動も取り締まるべし。 (iii) 公的金融支援拡大論。このような大量の資本流出を伴う危機は、「21世紀型」とも言える新しいタイプの危機。それに対応するためには、危機に陥った国への公的金融支援の増額が必要。また、そのためのIMF等の仕組みも見直すべし。 (iv) 危機対応への民間部門の参加。民間部門にも危機対応への責任を取らせ,応分の貢献を求めるべし。そのための明文化されたルールが必要。 (v) 金融システム強化、情報開示促進論。前述(ii)の議論の別方向への延長として、大量の資本流出は、その国の金融システムの弱体化と情報開示の遅れにより、弱体化の実態が一挙に顕在化したためとする説がある。この立場からすれば、危機回避のためには、金融システムの強化、情報開示の促進が肝要。 III. 改革案の政策当局者による検討とその結果――国際金融改革の現状 _ 前述の国際金融制度改革の諸提案は、各国の政策当局者によって、G7、G20、G22、APEC、IMFC、IMF理事会等の公式の場で検討されてきた。当然のことながら、改革案は、このような公式の場で検討され、合意された上で実施されることになる。3年間にわたる公式検討の結果、 _ 改革案として妥当でないもの(あるいは妥当であるとの合意がないもの) _ 合意に向けて議論が続けられているもの _ 既に合意が成立し、細部を詰めて実行に移されつつあるもの がはっきりしてきた。ここで留意すべきは、新聞等で大きく取り上げられても、政策当局者に取り上げられなかったもの、あるいは合意できなかったものが少なからずあったことであろう。 _ 政策当局者が正面から取り上げなかったのは、前述 (i)、(ii)のペッグ再導入論と資本規制強化論であり、これらについては、個々のケースについて是々非々に対応することを骨子とする報告書(公表済み)を出して検討終了。両論とも、タメにする議論――個別の国ベースでは、ペッグ採用も資本規制も止められている訳ではない――の面があり、政策当局者からすれば、現実を無視したナイーブな議論であったとも言える。同時に、この議論は、危機の度に繰り返される神学論争でもある。 _ 第三の公的金融支援拡大の提案は、1997年の危機発生直後、大いに議論され、また関係各国間の合意を得て、ある程度の成果を上げたと言えると思う。(しかし、タイ等では、より大量の資金が、より早期に出されていれば、危機はあれ程悪化しなかったのではとの批判もある)。その後の議論は、公的支援によるモラルハザードに集中(政策努力を遅らせ、また民間機関を救済することによって、その無責任な貸し込みを促す)。この流れは、一方ではIMFの貸付け政策の改定(金利市場メカニズムを導入して、大量・長期の借入れ国には金利を上げる)となり、最近実施された。 _ もう一方では、民間部門の責任論、金融支援における公的部門とのバードンシェアリングの議論に発展。現時点で合意されていることは、民間部門は今まで通りにケース・バイ・ケース・ベースで自発的にロールオーバーあるいは、リスケ等で協力して行くこと。今後の課題は、この合意をよりきちんとしたルールとして明文化することで、そのための議論が継続中。 _ 既に合意が達成され、実施に移されつつあるものとしては、前述最後の提案――金融機関の強化および情報開示の促進――が挙げられる。 _ アジア危機後、各国は弱体化した金融セクターの再建を図ると同時に、将来、同様の危機が起こることを防ぐためのシステム作りを始めた。これは、資産分類(不良資産・リスク債権等)、引当て金、資本金等を国際基準に引き上げ、また、この基準を満たさない金融機関に対しては、当局が早期是正、さらには退出を求め得る仕組みを作ることを骨子とする。 _ 国際的には、このような国際基準・規範の作成合意、またこれら基準規範に基づく早期是正措置の実施状況の国際的監視のためのフレームワーク作りが進められている。 _ これらの作業はかなり進んでいて、今後の課題は、できるだけ多くの国に実施させること。 _ もし、以上の諸策が完全実施されると、弱体機関は早期是正の対象となるか退出させられる。また、残っていたとしても、情報開示の促進により市場の周知することとなる。従って、金融機関の弱さが一挙に顕在化することによって引き起こされた97年のアジア危機のような危機が再発する可能性を低下させると言われている。 IV. おわりに _ 3年間にわたる国際金融体制改革の努力は成果を上げたのか。危機回避・対応能力は向上したのであろうか。 _ 危機回避のためには、為替レートの安定(ペッグ採用)と国際資本移動の規制が必要との立場からは、成果なしと言うことになる。この立場からすれば、改革(Reform of Architecture)は屋台骨(Architecture)を修理することなく、国際基準・規範(Standards and Codes)等の枝葉末節をいじくっていたに過ぎない。 _ しかし、国際基準・規範の設定、その実施状況の監視システム作りは、今回の改革努力の目玉であり、前述したように危機予防に貢献するものと思われる。また、この一連の施策は、アジア各国の政策当局の金融機関に対するアプローチを根本的に変えつつある。すなわち、弱い金融機関を保護育成することから、国際水準・規範に基づく早期是正・退出にアプローチを変換。また、情報開示による市場からの圧力により、このプロセスが加速することもあり得る。このような政策アプローチの大変換を伴うだけに、各国がこれらの基準・規範を完全に実施できるかどうかが今後の課題。 _ 危機対応のための公的支援については、最近の議論はその増額に否定的――少ないほうが危機予防に役立つとされている。しかし、実際に危機が起こった場合、ケース・バイ・ケースで大量の資金動員もあり得ると考えられる。同様に、民間部門も今までのケース・バイ・ケースで危機対応に貢献することと思われる。この民間部門参与の仕組みを明文化する努力が続けられているが、結果を得るには時間がかかる。 _ 結論として、改革努力の結果、国際金融制度は、その危機対応能力の向上に向けての一歩を踏み出したといえるのではなかろうか。 |