「IMFから見た日本そしてアジア経済の課題」


国際金融外国為替問題研究会にて 
1999年6月24日 

斉藤 国雄 



 危機発生から2年。その間、まず危機収束のため、次には景気回復のため様々な政策努力があり、またIMFを中心とする国際的支援があった。その結果、危機は一応収束し、通貨、金融市場の安定が達成され、アジア諸国の景気回復が進みつつあると言えると思う。 

 この景気回復の過程で、アジア諸国は、銀行、企業のリストラ、およびより広範な経済全体に関わる構造改革を進め、また世界的には、国際金融改革 - いわゆる新国際金融体制(New Financial Architecture)の構築 - の努力が続けられている。アジア危機の教訓を基にして始まったこれら構造改革の努力は、今回の景気回復を単なる循環的上昇局面のみならず、大幅な構造変動を伴ったものとしている。従って、中期的には、リストラの結果、より効率的、より競争力のある企業、産業、および、より強固な経済運営、国際金融体制の出現が期待される。 

 ここでは、以上で簡単に触れた日本を含むアジア経済の短期、中期的展望および、その直面する政策課題について話してみたい。もちろん、IMFの立場から見た展望、課題をお話する訳であるが、特に、中期的展望、中期的政策課題については、若干の私見が加わることを、あらかじめご了解願いたい。



I. はじめに-アジア危機の回顧

 アジア危機の総括というほど大袈裟ではないが、まず、アジア通貨危機発生後の主な出来事を簡単に振り返ってみたい。

 アジア通貨危機が顕在化したのは、一般的に1997年7月初めのタイバーツの切り下げ、フロート移行の時点とされる。その後、97年年末にかけて、危機は、インドネシア、韓国を始め、アジア各国に拡大伝染した。通貨市場の動きから見ると、危機のピークは98年1月であったと言えよう。例外はインドネシアでピークは98年5月であった。 

 通貨危機とほぼ同時に経済活動の落ち込みが始まった。この落ち込みは、IMFを含め大方のエコノミストは当初は過小評価したのであるが、98年アジア経済は非常に深刻な不況に陥り、通貨危機に加え、経済危機の様相が濃くなった。アジアの不況が底入れしたのは、99年初めである。

 その間、98年夏には通貨危機はロシア、ブラジルに飛び火した。その結果として、米国のヘッジファンド(LTCM)が苦境に陥ったこともあり、危機感が深まり、また世界の同時不況、デフレの恐れが一挙に広がった。世界的に見れば、98年9-10月頃が、今回の危機のピークであったと言えよう。しかし、その後、G-7諸国の金利引き下げ等の政策調整により、危機は回避され、世界的不況の恐れは遠のいた。また、アジアへのロシア、ブラジル危機の影響は比較的軽微であった。

 日本について見れば、97年11月には、山一證券等の破綻があり、98年年央には、円が市場圧力にさらされ、対ドルで145円位まで下がった。98年の不況と共にこれら一連の動きは、アジア危機の原因であり、結果であったと言える。あまり言われていないが、過去2年間の日本経済の動きはアジアのそれと密接に結びついていると思う。 

 次に、今回の危機の特徴、それへのIMFの対応、およびIMFの対応ぶりへの批判について述べてみたい。 

 広く言われているように、今回のアジア危機の特徴の一つは、それが、民間短期資本の大幅かつ急激な流出によって引き起こされたことであり、また、そのような大幅かつ急激な資本の流出が、次々と近隣諸国に拡大伝染したことである。この伝染は、市場参加者が不確実な情報に基づき、付和雷同することによって起こったとされている。このような国際金融制度上の問題に対応するため新国際金融体制(New Financial Architecture)構築の努力が続けられている。この点については、後からもう少し詳しく述べたい。

 アジア各国の立場からは、今回の危機は、アジア通貨の暴落という現象に代表される通貨危機であり、不良資産問題等の金融部門の弱さが顕在化するという形での金融危機であった。両者は、同時並行的に進行し、1997年後半には、アジア各国の通貨金融市場は次々とパニック状態に陥ったのである。また、このような通貨金融危機が、投資、消費の落ち込み、不況に繋がることで、アジア危機は、経済危機でもあった。ここで強調したいのは、不況は、通貨、金融面での不安、金融部門の弱さから起きたものであり、一部のIMF批判者が言うように、IMFプログラムがその原因ではない。

 危機発生後、各国政策当局およびIMFが、まず最初に行ったことは、通貨危機を収束すること - すなわち通貨の暴落を止めること - であり、金融システム再建のためのフレーム作りを始めることであった。前述した通り、両者は密接に結びついており、金融システム再建を後回しにすることは、できなかったのである。この第一目標である通貨危機収束が、ある程度達成されると、政策当局およびIMFの目標は、経済危機への対応、すなわち景気回復に移る。この移行時点は、インドネシアは98年年央、その他の国は、もう少し早く98年2-3月と言えよう。

 このような政策目標を達成するために、具体的にどのような政策が取られ、どのような政策転換が行われたか、述べてみたい。

 まず、金融政策であるが、当初は、危機収束のため高金利政策、市場が安定した段階で、景気回復のための低金利政策が取られた。当初の高金利政策がよく批判されたが、一つの政策手段、すなわち金利政策を危機収束、景気回復という相反する二つの政策目的に同時に使うことはできない。IMFを批判する人は、この点を故意に見落としている。また、為替レートのより大幅な切り下げを認めれば、金利上昇はある程度、避けることができる。これは、98年初めの景気論争の話題となるが、97年末のレートが底無しに下落している状況においては、考察の対象とならない。

 為替レート政策については、危機発生直後から、ほとんどの国がフロート制に移行しており、そのフロート制のもとで、如何にレートを安定させるかということが、政策同局の課題であった。前述したように、この段階では、為替レートの暴落を止めること、その安定を回ることが、最も重要な目的であった。その後、98年に入って、市場の安定が達成された段階でも、フロート制は、ほとんどの国で継続された。これは、アジア危機の一つの原因が、一国通貨へのペッグ(ドルペッグ)であるという反省に基づいている。また、主要国通貨が相互に変動する限り、アジア諸国も柔軟なシステム、政策を採るべきであるとする考え方に従うものである。

 次に、財政政策であるが、IMFは危機当初は、中立的、引き締め的な政策、その後は、景気刺激的政策を支持した。IMF批判の一つは、財政は当初から景気刺激的立場を取るべきであったとする。これは、まさにその通りであるが、問題は、財政政策の基になる経済見通しを誤ったことにある。この点については、IMF批判者、多くのエコノミストも同じ誤りを犯したと思う。

 最後に、銀行、企業のリストラを含む構造改革である。IMF批判の一つは、このような改革は危機の時ではなく、平時にすべきものであるとする。しかし、今回の危機の原因は、市場参加者のアジア各国の構造改革の遅れに対する苛立ち、また、その結果としての政策への不信であり、危機収束のためには、構造改革を避けて通ることはできなかったのである。また、構造改革は危機の時こそ実施できるものであり、平時にはできないものだと思う。



 II. アジア経済の展望と政策課題

 ここで、本題であるアジア経済の展望、政策課題に話題を移したい。
短期経済予測(1990-2000年)

 結論から言うと、アジアの不況は去年の暮れから今年の初めにかけて底入れし、今年から来年にかけて緩やかなU字型の景気回復が続くというのが、IMFの見方である。配布した資料にある通り、今年3月時点で、アジア危機の影響を最も強く受けた国 - タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンのASEAN4カ国と韓国、シンガポール、香港 - の99年の成長率は、1-2%、2000年には3-4%になろうと予測している。但し、その後、発表された今年第1四半期のGDP成長率等を考慮すると、若干の上方修正が必要と思われる。例えば、インドネシアの99年の成長は、マイナス4%とされているが、現時点では、若干のプラスになると予測されている。また、韓国の成長率も2%から上方修正されることになると思う。日本についても、最近発表された第1四半期の数字を考慮に入れると、上方修正することになろう。

 アジア各国の経済予測をする上で、非常に難しいことの一つは、各国の国民の政府およびその政策への信頼をどう見るかという点である。信頼が増せば、民需の増大を通じて景気回復は一挙に加速し、成長率予測の上方修正を行うことになる。韓国が一例。このことは、アジア各国経済の持つ若さ、バイタリティのない日本についてもある程度言えると思う。

 アジア経済の見通しについて、もう三点、一般的なことを付け加えたい。第一に、今年から来年への景気回復は、内需中心になるということである。従って、対外経常収支は、去年見られたような大幅な黒字から若干減少すると考えられる。第二は、景気回復はこの段階では、労働生産性の上昇によるもので大幅な雇用の増大を伴わないと考えられる。失業率の上昇あるいはその高止まりは、当分避けられない。第三は、今回の景気回復は、経済の自立的反転ではなく、当局の政策対応によるものであるということであろう。すなわち、当局の政策による危機の収束、また、その後の拡大的財政金融政策は、総需要の落ち込みを止め、その反転を促がした。また、当局の進める銀行、企業の構造改革は、短期的には、需要、雇用にネガティブに働くが、中期的には、ポジティブな効果を持ち、同時に、企業の体質、競争力を強化することによって持続的な景気回復の基礎を築くものである。

予測の前提およびリスク

 次に、以上に述べた予測の前提、また前提および予測の実現しないリスク、といったことについて触れておきたい。

 まず、アジア諸国自身の政策について。前述の通り、今回の景気回復は、政策主導型であり、最も重要な前提は、現在の政策が続けて実施されることである。すなわち、拡大的な財政金融政策を維持しつつ、金融部門、企業のリストラ、構造改革を続けることである。これは、言うに易くして、達成は難しい。後に詳しく述べるけれども、構造改革が景気回復とともに、中断されるリスクがあり、そうなると景気回復を続けることも難しくなる。

 次に、アジア諸国にとっての外的要因に関する前提について触れたいのであるが、これら要因の中で、最も重要なものは、日本、米国の経済動向、およびアジア諸国への資本の流れの三点であろう。

 第一の日本経済についてのIMFの見方は、アジア経済と同様、今年初頭に不況は底入れしたと考えている。但し、配布した資料では、昨年後半の大幅な落ち込みの後、弱い景気回復を予測しているため、統計的には、99年の予測はマイナス、また2000年の成長率も非常に低いものとしている。最近発表された第1四半期のGDPの大幅成長を考慮に入れると、統計的には99年からプラス成長となろう。もっと基本的には、IMFは、政府の拡大財政政策、銀行への資本注入、および日銀の低金利政策を高く評価しており、これらの政策が民間需要をどの程度喚起するか見守っているところである。もし、民間需要の低迷が続き、日本の景気回復が遅れると、アジア経済、ひいては世界経済への影響は膨大である。

 米国経済についてのIMF予測は、配布資料にある通り、成長率の緩やかな減速 - つまり、持続的成長率へのソフトランディングである。この予測自体、ニューヨーク株式市場の大幅下落はないとか、米国の家計部門が消費を急に抑制して、貯蓄増強に励むことはないといった仮定に基づいている。米国経済予測の問題点の一つは、好況が続けば続く程、ハードランディングのリスクが高まることである。もし、米国経済のハードランディングが生ずると、そのアジアおよび世界経済への影響は言うに及ばずであろう。

 アジア諸国の景気回復の第三の前提は、必要な外資が流入することである。民間資本の流れは、危機によりストップし、その後、段々と再開されたものの、昨年のロシア、ブラジル危機後のプレミアムのべらぼうな上昇により中断された。その後、プレミアムも下がり、インドネシアを除くアジア各国への民間資本の流入は加速しつつある。(但し、日本からの流入が少ないのは寂しい。)これも危機の際のリスケが、時間はかかったものの円満に進んだことの結果だと思われる。インドネシアについては、今の所、公的資本の流入のみであり、また今後のリスケ、債務免除の交渉の進展如何で民間資本流入の実質的ストップということにもなりかねない。こうなると、1980年代のラテンアメリカの「失われた10年」の繰り返しになる可能性もあり、このような事態は何としても避けなければならないと思う。

ここであえて付け加えれば、アジア諸国のみならず、世界経済にとっての潜在的問題の一つは、日米間の国際収支不均衡であろう。詳細は避けるが、両国の経済動向次第で、両国間の通商摩擦、円ドルレートの不安定という問題が生ずる。

 更に、中国経済、および人民元の問題もある。これについては、日本では悲観論が強いようであるが、IMFの前提は、国営企業のリストラ等の問題はあるものの、中国のここ数年の高度成長は、ここ一両年は続くとするものである。また、当局の人民元の対ドルレートを維持するという政策も支持している。私は、個人的には、中国経済、人民元の動向のアジア経済への影響は、日米のそれに較べて、比較的に少ないと思う。

政策課題 

 政策当局者にとって、当面の最大の課題は、以上に述べたようなリスクを回避し、アジア経済の回復を、また世界経済全体の順調な発展を、中期的に継続することである。このためには、冒頭に述べたように、アジアでは、銀行、企業のリストラ、およびもっと広い意味での構造改革、また世界全体としては、国際金融制度の改革が必要とされ、様々な努力がなされてきた。順を追って少し詳しく述べてみたい。

 まず、アジア各国の銀行、企業のリストラについて。大雑把に言って、今回のリストラの過程は三段階に分けられると思う。第一段階は、不良債権処理のためのフレームワークを作ること、金融機関の弱い部分を公的管理、または国有化することによって整理すること、残った金融機関は公的資本の注入等によって強化し、リストラを進めること等である。第二段階は、第一段階の成果を踏まえて、金融機関相互の合併、資本取得等により、金融部門の再編成を進め、同時に債権放棄等、金融機関のイニシアティブにより、企業のリストラを進めることである。第三の段階は、国営化された企業を再び民営化し、不良債権の売却、回収等の最終的処理を実施することである。同時に、第一、第二段階で投下された公的資金の回収を図るとともに、金融部門をあるべき姿に戻すことであろう。アジアにおける金融部門、企業のリストラは、多量の公的資金投入を含む政府の強力な介入によって進められている。何故、このような介入が必要とされたのか。また、企業の立場からは、何故介入を受けて、リストラを進める必要があるのかとの疑問が投げられた。この点については、アジアのいずれの国においても、議論がつくされ、いずれの国も政府主導型のリストラを続けることについての合意がある、と申し上げるだけに留めたい。

 次に、アジア各国のリストラの進捗状況であるが、アジア各国は第一段階の不良債権への対応、弱い金融機関の国有化等については、相当の成果を上げている。現在は、この第一段階の作業を続けながら、第二段階の金融再編成、企業のリストラに取り組んでいるところである、と言える。第三段階については、国有化された銀行の外資への売却等の話もあるが、まだ本格化しているとは言えない。いずれにしても、アジア各国の銀行、企業のリストラは、最も困難な段階であり、今が、まさに正念場である。

 問題は、景気回復の始まりとともに、問題を先送りしようという雰囲気が出てきたことである。これは、90年代の日本の誤りを繰り返すことになる。IMFとしては、日本の経験を引用して、財政金融政策だけでは景気回復はできない。銀行、企業のリストラのペースを落としてはならないと、繰り返して言うところである。ついでながら、このことは、現在の日本についても言えることである。

 銀行、企業のリストラとともに、政策当局、およびIMFの推進してきたのは、経済運営、企業経営に関する広い意味での構造改革である。これは、危機の原因の一つが、外国投資家のアジアの経済運営、企業経営に対する違和感、またその不透明性のため、経済の情報が悪化してもなかなか把握できない苛立ち、にあったことへの対応である。従って、構造改革は、いわゆるグローバルスタンダーズを採用することであり、また、政策決定、企業経営、あるいは、政府、銀行、企業の関係等の透明性を増すことである。これは、アジア的とされて、これまで受け入れられてきた慣行 - 腐敗、馴れ合い、身贔屓等 - と決別することも意味する。技術的には、政府の統計、企業の財務諸表、経営指標等を国際基準に合わせて作成し、速やかに公表することであり、あるいは、破産法等の企業活動に関する法体系を国際基準に合わせて整備することである。

 このような形での構造改革は、危機前の感覚からすると信じられないほど、広範囲に受け入れられている。グローバルスタンダーズの採用、透明性の増大は、時代の要求に叶うものであり、導入時の面倒くさいことを除けば、経済運営、企業経営の改善に繋がる。また、アジア的とされて、これまで受け入れられてきた腐敗、馴れ合い等の慣行を絶つことも一部の当事者を除き、アジア各国の一般国民は熱狂的に受け入れている。

 しかし、そうは言っても、構造改革に対しては、心情的な抵抗感も残っているし、技術的な問題もまだたくさんある。その完全な実施は容易なことではなく、また時間かかると思われる。 

 最後に、国際金融改革 - いわゆる新しい国際金融体制(New Financial Architecture)の構築 - について。この改革もアジア危機の経験を踏まえて、危機を未然に防ぎ、あるいは危機が発生した場合は、より有効に対処しようということで始まった。色々な面があるが、大きく分けて三つあると思う。 

 第一は、市場参加者の情報アクセスの改善である。これによって、アジア危機の際に見られたような情報量の不足により市場参加者が軽挙盲動することを防ぐことである。具体的には、加盟国政府、中央銀行等の情報公開を進め、またその基となる国際基準を作ることである。従って、前述のアジア各国の構造改革と、その目的、手法ともによく似ている。主な違いは、アジア各国では、自国の統計、慣行を国際基準に合わせることであり、IMF等の場で行われる国際金融改革の作業は、その国際基準を作成することである。グローバルスタンダーズは既成のものがあるかの如く言われているが、実際には存在しないか、ただ今改善中というのが現実である。 

 第二は、資金面での危機対応を強化することである。アジア危機に見られたように、 型の危機は大量の資本流出によって引き起こされて、その対応には大量の資金を必要とする。そのためには、一つには、IMFから危機当事国への公的資金の供与額を増やす必要があり、またIMF自身の資金も増やさなければならない。この面での作業は最も進んでおり、既に必要措置は取られている。もう一つは、資金面から銀行など民間部門が危機対応に協力することである。危機の一因は、民間債権者が一斉に資金を回収することであるから、この債権回収の権利を一時停止するとかの提案がなされている。この点については、大筋の合意があり、具体策についての検討が始まったところである。 

 第三の面は、危機は市場の無茶苦茶な行動によって起こるものであるとした上で、その一部の参加者(例えば、ヘッジファンド)の行動を規制するとか、一部の国については資本移動そのものを規制することを認めようというものである。この点についても合意があり、具体策については検討が始まっている。 



III. おわりに - 新しいアジア 

 新しい国際金融体制は、資本移動、市場参加者の行動を部分的に規制することになるが、それはあくまで例外的なものであり、国際間の資本移動、それを扱う為替金融市場は、益々巨大化、発展して行くものと考えられる。その構成員である各国の金融機関(および監督官庁)は強化され、市場参加者の情報アクセスは改善する。しかし、そうだからと言って、市場参加者が急に賢明となって過激な行動に走らないということにはならない。従って、将来も危機は発生するであろうが、少なくともIMFの対応能力は大幅に改善していると言えよう。 

 アジア諸国は、リストラ構造改革を進めることにより、現時点から較べると、格段に競争力があり、効率的な金融、産業部門を持つことになる。また、経済運営、企業経営、および政府、民間の関係も国際基準にあった透明性の高いものとなる。 

 しかし、これはあくまで一つのシナリオであり、その達成には、内外ともに過大な障壁があり、大変な政策努力を必要とする。その意味で、アジア経済のバイタリティー、またその基になっているアジアのがむしゃらな頑張り精神に期待したい。更に付け加えれば、自信を取り戻しつつある日本のリーダーシップに期待する。