IMF サーベイ・マガジン : IMF、国際通貨制度の今後に関するディベートを立ち上げ
2016年3月17日
- 主要な構造的シフトが世界経済に課題を突きつけている
- 国際セーフティネットが十分であるか、また資本フローの安全性をどのように高めるかを検証するための研究
- システムの問題を特定し-是正する-ためにIMFは、他と連携
国際通貨基金(IMF)は、国際通貨制度が直面している課題を理解し、システムの問題を特定し、かつ改革の基礎を固めるための研究の立ち上げを進めている。
国際通貨システム
国際通貨制度は、各国間の財、サービス、資本の交換を促し、健全な経済成長を維持するための枠組みである。同枠組みがその効果を発揮するためには、各国のニーズ、そしてシステム全体のニーズの間でバランスをとり、経済と金融の関係性が変化するなかこれを長期にわたり維持しなければならない。
IMFのシダート・ティワリ戦略政策審査局長はインタビューで、最新の研究と今日国際通貨制度が直面している主な課題、そしてIMFの今後の役割について同氏の見解を述べた。
IMFサーベイ: IMFがこの作業に今着手すると決めた理由はなんですか?
ティワリ: IMFは国際通貨制度の中核にあります-多くの人がIMFをこのシステムの監視者だと考えています。直近の定期見直しは2011年に行われましたが、それから今までIMF、そして世界で様々なことが起こりました。IMFでは、金融部門の監視を強化し、統合されたサーベイランス決定が導入されるとともに、波及効果に関する分析が他の相互連関性に関する作業とともに拡大されました。さらに、我々はIMFの融資ツールキットを改革し、リスクと脆弱性へより焦点を合わせるようになりました。
またIMFの資金も約1兆ドルまで拡充されました。クォータが増額となり新規借入取極が発動し、二者間の借入取極が交わされました。こうしたことから、システムを再び見直す時期になったというわけです。
IMFサーベイ:今日の国際通貨制度についてどのように考えていますか。効果を発揮していますか?
ティワリ:世界経済では一連の構造的シフトが起こっており、こうしたシフトが重なり合い緊張とリスクが高まっています。まず、経常収支の不均衡は危機後縮小しましたが、これは主に先進国・地域の需要の縮小を反映したものです。ですから、経常収支の不均衡の問題は解決したわけではありません。
第二に、外貨準備高として主な役割を果たす通貨がひとつ、またはふたつであるということは、ひとつの国や地域の情勢が他に大きな影響を及ぼす可能性があることを意味しており、国内における政策の選択肢を狭めます。
第三に、国や地域の相互連関性が高まるなか、資本フローのボラティリティは常にどこかで発生しています。
第四に、金融部門サイド、特に金融機関とリスクの伝播で多くの作業が行われてきました。ノンバンク金融機関が重要なプレーヤーとなったことから、これも考慮に入れる必要があります。
そして最後に、米国、ユーロ、日本という外貨準備を構成する通貨の発行国・地域は、時間と共に、非伝統的金融政策に終止符を打たなければならないでしょう。これにより、新興市場国・地域でボラティリティが発生する期間が生じるでしょう。ですから、国際金融セーフティネットを強化する必要があります。
IMFサーベイ:今後、国際通貨制度にどのような新しい試練が待ち受けていると思いますか?
ティワリ:先進国・地域の危機後の成長の促進が主な課題です。我々が危機のさなかにあった際、新興市場国・地域は、そのバッファーを用い安定していました。そして、数年後には新興市場国・地域から先進国・地域へのある種の「バトンタッチ」が起こるだろうと考えられていました。しかし、依然バトンタッチがされないままとなっています。
これと関連することとして、グローバリゼーションの夢、すなわち、新興市場国・途上国の生活水準が最終的に先進国に追いつくこと、これが失われることが無いようにしなければなりません。
加えて、中国のリバランス(再調整)も課題です。中国のリバランスは必要です。成長率は低下することになりますが、安全性が高まるでしょう(これが他の国や地域に影響を及ぼすことは避けられないでしょうが)。
また、一次産品価格の歴史的な下落があります。これにより中東の産油国や他の一次産品の輸出国で調整が必要となっており、これらの国や地域には新たなビジネスモデルが必要となっています。
最後に、世界の主要国における金融の状況は異なっています。こうした米国、欧州、そして日本の金融政策のずれは、ボラティリティが継続することを示唆しています。私はこうしたことが今後の主な課題だと考えています。
IMFサーベイ:今後、IMFは国際通貨制度でどのような役割を担うべきでしょうか。
ティワリ: IMFは引き続き同制度の中核にあります。我々の加盟国の経済をモニターする際、世界の異なるパートで不均衡が発生しないよう、特に金融の不均衡が蓄積しないようにしなければなりません。また、新興市場国・地域の生活水準の向上のため、彼らの国際通貨制度への統合が確実に行われるようにする必要があります。金融の発達と深化が、特に市場のボラティリティが高い場合多くの加盟国にとり重要になるでしょう。
市場は特に今、新興市場国・地域に容赦しない可能性があります。収斂のプロセスには、ある一定期間、新興市場国・地域の経常収支赤字が少なく、そして赤字を補填するために資本流入を活用することが含まれるでしょう。ですから、資本の流入は、より長期にわたりより安定している必要があり、我々はどのようにしたらその安全性を高めることができるのか検証すべきです。その解決の一部が、マクロプルーデンス政策で、債務と自己資本のバランスにあります。
IMFの貢献には、十分なグローバル金融セーフティネットの提供も含まれるでしょう。このセーフティネット、あるいは融資枠組みは、世界経済の三つのニーズに対応しなければなりません。つまり、より良い政策策定の促進、無理の無いペースでの調整のための資金調達、そして影響を受ける可能性のある「無実の第三者」に対する保険の提供です。もうひとつのレベルのセーフティネットが、チェンマイ・イニシアチブなどの地域レベルの金融取極で、IMFはこうした枠組みとの連携を強化する手法を探す必要があります。
つまり、IMFは国際通貨制度の中核である一方で、中央銀行や他の基準設定機関を含んだより大きなシステムの一部でもあります。我々の役目は、分析を提供し理解の共有を進めることですが、改革の前進という責任は加盟国にあります。
IMFサーベイ:この分野でのIMFの作業のための次のステップはなんですか。
ティワリ:. IMF理事会は、国際通貨制度におけるIMFの役割に関する第1回目の協議を行いました。資本フローの安全性をどのようにして高めるか、グローバル金融セーフティネットの強化、そしてSDRの役目という、すでにワークプログラムに組み込まれている3つの作業分野が特定されました。
最初の点は、様々な段階で構成されます。第1段階は、資本フロー、そのボラティリティと方向の評価です。第2段階では、IMFの組織としての見解という枠組みの中での各国の資本フローをめぐる経験の見直しなどで、これは今年の半ばに予定されています。そして第3段階として、今年の年末にかけた時期に、各国の経験から我々は何を学んだか、そして組織としての見解の見直しが必要か否かの検討を始めることになっています。
国際金融セーフティネットについては、数週間後にこれを見直したペーパーについて議論することになっています。その後、IMFの規模に関するペーパーが発表となります。両ペーパーとも、その後のクォータに関する議論の背景となるものです。こうした作業の流れのなかで、我々は、我々のセーフティネットが危機の際に加盟国のあらゆる層を保護するに十分かどうか検討する予定です。
最後に、SDRに人民元が加わったことを受け、加盟国から国際通貨制度におけるSDRのより広範な利用について調査するよう要請が来ています。数カ月後にこれに取り掛かる予定です。
IMFサーベイ:政治的な賛同と支持を得るにあたって最も難しいことは何だと思いますか。
ティワリ:資本フローの安全性を高めるための枠組みに各国の合意を取り付けるには大変な作業が必要になります。しかし、これは不可欠であり、国際金融セーフティネットの強化と密接に関連しているのです。