Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : 北東アジアの女性の労働参加を拡大する北欧の教訓

2015年3月16日

  • 非正規雇用から正規雇用への女性のシフトは、女性の労働参加の拡大につながる
  • 子供のための現金手当てと賃金の男女格差が阻む女性の正規雇用
  • 女性の正規雇用の増加は、出生率の上昇と関係

ペーパーによると、女性が保障の限定的なパートタイム雇用や契約雇用に就く場合よりも、正規雇用に就きかつすべての関連する保障を受けるほうが、労働力としてとどまる可能性がより高くなるという。

韓国の職業安定所の求職中の女性。女性は、保障が確保された正規雇用にある場合に、職を維持する可能性がより高くなる(写真: Reuters/Truth Leem)

韓国の職業安定所の求職中の女性。女性は、保障が確保された正規雇用にある場合に、職を維持する可能性がより高くなる(写真: Reuters/Truth Leem)

女性の就労

この「アジアにおける女性の労働力参加を拡大するためには(What Can Boost Women’s Labor Force Participation in Asia?)」と題された報告書について、IMFのアジア太平洋地域事務所と経済協力開発機構(OECD)共催のセミナーで協議が行われた。今週前半に東京で行われた同報告書の発表には、政策担当者や学者が参加し、女性が労働力に加わり労働力としてとどまることを促すに必要な措置について、意見を交換した。

フィンランドとノルウェーが手本に

同ペーパーは、女性の労働力参加が高く出生率も比較的高い、男女平等の先駆者といえる、フィンランドとノルウェーを例に挙げ、こうした国々における育児休暇や保育施設の設置といった公共政策が、働く女性の数を増やしたのみならず、女性がより多くの子供を産むことにもつながったと指摘している。

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急速に進む高齢化を前に、韓国政府及び日本政府は、女性の労働参加の拡大をその改革プログラムの重要な柱と位置づけた。しかし、女性にとり仕事と家庭の両立は、何もこの両国に限ったことではなく全世界で、引き続き難しい課題となっている。

女性労働者の意欲をそぐ賃金の男女差

日本と韓国で働く女性の数は増えているものの、OECD先進加盟国の平均を依然下回っている。その理由のひとつが、男女間の賃金の大きな格差である可能性がある。

全OECD加盟国のなかでも、韓国と日本で男女間の賃金差が最も高くなっている。平均して女性の賃金は男性と比べ、日本、韓国でそれぞれ約26%、37%低くなっている。また出生率もOECD加盟国で最も低い。

対照的に、北欧諸国は、女性の労働力参加、出生率ともに高い。

女性のM字型就労パターン

日本と韓国の女性労働力全体の半分以上が、キャリアアップのチャンスが低く賃金も安い非正規雇用である。これには、女性が多くの場合、職業人生の重要な時に、結婚や出産などで労働力から離脱することも影響している。また、女性達は子育て後に非正規労働者として戻ってくることが多い。

こうした傾向は、女性の生涯を通して見られるM字型の就労パターンに反映されている。政策担当者は、生産年齢にある女性が子育て中もキャリアを維持できるよう支援することで、この女性の就労のM字型パターンを緩和する必要がある。

1970年代の北欧諸国は、人口の減少という人口動態の問題と女性の低い労働参加という課題に直面していた。その後、これらの国々は、包括的な育児休暇や公的な保育施設といったサービスから有給の育児休暇制度の法定化といった公共政策を実施してきた。結果、今日、賃金と労働力参加の男女差がOECD加盟国内で最小となっている。

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女性の就労を支援する公共政策

同ペーパーの経験的結果は、子供向け現金手当てと根強く残る賃金の男女格差が、正規雇用に就く女性の数にマイナスの影響を与えることを示している。そして、女性の正規雇用の割合の上昇は、完全な保障と雇用保障を理由に出生率の上昇と関連している。

こうした結果は、適切な政策に加え、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)、保育施設、育児への父親の参加といった好ましい環境により支えることで、女性が仕事と家庭を両立することが可能であることを示している。

また、手ごろな育児サービスの有無は、女性が職にとどまるか否か決断する際に、重要な判断材料となる。日本と韓国では、働く母親を支援するために、6歳~11歳児向けの育児サービスを拡大することができよう。

フィンランドやノルウェーでは引き続き、それぞれ育児支援全体の24%、15%を6歳~11歳児向けに割り振っているのに対し、日本や韓国の公的な育児サービスはほぼゼロレベルに落ちている。日本と韓国では家族給付への公的支出の一部は、税控除という形が取られているが、北欧諸国では極めて限られている。

日本と韓国と比べ、育児への父親の参加と柔軟な働き方も北欧諸国のより大きな特徴といえる。これは、女性が出産後も職にとどまることを助け、間接的に出生率の上昇も促す。

参加への障壁の削減で、公的セクター・民間セクターが担う役割

女性の就労と出産に関する判断は、国・家庭による選択の違いを反映しているものの、労働と子育ての機会コストを減少させるために、参加への障壁の削減と差別的なギャップの解消で、公的部門・民間部門が果たすことができる役割がある。

日本と韓国の両国政府は、女性の正規雇用の拡大に向け、子供を対象とした現金手当ての給付ではなく、より包括的な育児サービスを提供することができよう。

そして、より重要なことは、女性の労働力参加に関する決断は、出産に関する決断に密接に関係していることが多いことから、これは女性のみならず男性も下す判断だということである。社会全体が、家庭そして職場での男女平等のさらなる推進という考えを受け入れるべきである。民間部門は、より柔軟な職場環境の構築、仕事と生活の調和及び多様性の促進、並びに幹部レベルに占める女性の割合の上昇といったことに、前向きであるべきである。