IMF理事会、アルゼンチン向け500億米ドルのスタンドバイ取極を承認
2018年6月20日
IMF理事会は本日、アルゼンチンを対象としたスタンドバイ取極を承認した。期間3年、総額500億米ドル(353億7,900万SDR相当)で、同国のIMFクォータの約11.1倍に相当する。
理事会の承認によって、アルゼンチン政府当局は150億米ドル(106億1,400万SDR、同国クォータの3.33倍)を直ちに買い入れることが可能になる。この150億米ドルのうち半分(75億米ドル)が財政支援として用いられる。IMFによる金融支援である本スタンドバイ取極の残額(350米億ドル)は本取極期間中を通じて供与されるが、期間中にはIMF理事会によって四半期ごとにプログラムのレビューが行われる。アルゼンチン政府当局は本取極の第一トランシュを実際に引き出すが、その後については取極の残額を予防的なものとして取り扱うという意向を表明した。
このスタンドバイ取極により支援されるアルゼンチン当局の経済計画は、市場の信認を回復させることにより同国経済の強化を狙っている。この市場の信認回復は一貫性のあるマクロ経済プログラムを通じて達成されるが、このプログラムは資金調達の必要性を軽減し、公的債務を確実に減少させる軌道に乗せるとともに、より現実的なインフレ目標を設定し、同国中央銀行の独立性を強化するというものだ。重要な点は、この計画には社会で最も脆弱な人々を保護するための社会的支出を維持し、社会環境が悪化した場合は同国の社会的セーフティネットへの支出を拡大する余地を設ける諸策が組み込まれていることだ。
IMF理事会がアルゼンチンの経済計画を討議した後、クリスティーヌ・ラガルド専務理事は理事会の議論を次のように総括した。
「アルゼンチンは過去2年半にわたり、自国経済の制度変革に取り組んできました。こうした変革には、為替市場や補助金、税制の面での大きな変革に加えて、政府統計の改善が含まれます。しかしながら、市場心理が最近変化したことと、諸要素が不運なことに重なり合ったことで、アルゼンチンは大きな国際収支圧力にさらされることになりました。こうした困難な環境の中で、アルゼンチン政府は自国の政策プランを実行するためにIMFに支援を要請しました。
アルゼンチン政府当局が志向する政策は、貧困を削減しつつ、長年にわたる脆弱性に対処し、債務の持続可能性を確かなものにし、インフレを抑制し、経済成長と雇用創出を促進することを追求するものです。
過去何年にもわたる大幅な財政赤字を踏まえ、アルゼンチン政府の経済プログラムは2020年までに連邦政府が基礎的財政収支の均衡を達成するという目標に、しっかりと結びつけられています。これは市場の信認を回復する鍵となるでしょう。予算プロセスを改善し、財政政策にこうした中期的な安定目標を設定することは、これらの達成をより確かなものにする上で役立つでしょう。
また、アルゼンチン政府当局はインフレターゲットの枠組みの信頼回復を目指しています。このための施策としては、例えば、中央銀行の独立性の強化や、中央銀行による直接的・間接的な財政ファイナンスを終わらせることが含まれます。こうした取り組みによって、2021年までにインフレ率を1桁にまで下げることができると予測されています。
アルゼンチン政府当局は自由変動相場、市場で決定される為替相場を確約しており、為替市場への介入をボラティリティが非常に大きく、市場が機能しない時期に限定し、外貨準備高のバッファーを再構築する意図を有しています。
政府のプログラムは、社会の一体性の維持、ジェンダー平等の促進、国内で最も脆弱な立場に置かれている人々の保護をかなり重視しており、政府当局はトップレベルでこうした原則に力を入れています。最も脆弱な人々はしっかりと設計された政府支援プログラムによる支援を受けることになりますが、こうした政府支援プログラムはプログラム目標内で優先事項として扱われます。アルゼンチン政府はまた、アルゼンチンの女性が対等の条件で経済参加を果たすことによる潜在能力とメリットの実現のために、ジェンダー間の平等を優先事項としました。
アルゼンチン政府のプログラムは、アルゼンチン国民が直面する状況に応じて特別に策定されたもので、アルゼンチン政府はこのプログラムに対して強い主体性を示してきています。プログラムにはリスクがつきものですが、政策プランを確実に実行することによって、アルゼンチンは経済的な潜在能力を余すところなく発揮することができ、また、将来、アルゼンチン国民全員が豊かさを享受することを確実にすることができるでしょう。」
別紙
最近の経済動向
アルゼンチンの金融市場は4月、様々な要因が重なった結果、突然のプレッシャーにさらされた。厳しい干ばつが農産物生産と輸出収入を急激に減少させると同時に、エネルギー価格が世界的に上昇し、さらには米ドル高と米金利の上昇によって世界的に金融が引き締まった。こうした変化は、財政や対外支払用の大規模な資金調達の必要性など、アルゼンチンの政策に従来から内包されてきた脆弱性と相互作用を引き起こした。経済的な力学は主に、アルゼンチンペソへの下落圧力、短期中銀債の借り換えに対する市場の懸念、そして同国ソブリン債のリスクプレミアムの上昇という形で現れた。
プログラム概要
IMFが支援するアルゼンチンの経済計画に対するIMFの支援は、次の4本柱に注力することで同国経済の強化を目指している。
• 市場の信頼回復
アルゼンチン政府は、連邦財政資金調達の必要性を減らして、公的債務を着実な減少軌道に乗せる明確なマクロ経済プログラムを履行することを約束している。これは力強く、持続可能かつ公平な経済成長と安定的な雇用創出への道を開く一助となる。この取り組みの肝となるのが、2020年までに基礎的財政収支均衡の達成を確実なものにする財政調整だ。この財政調整では、2019年に基礎収支の赤字をGDPの1.3%へと確実に減らせるよう、最初に大規模な調整を行うことになっている。
• 社会の最弱者の保護
社会セーフティネットを強化する諸策が実施される。例えば、一連の支援プログラムの再設計が施策のひとつであるが、こうした支援プログラムには重複がしばしば見られる一方で保護の網からこぼれ落ちる人々が出ている。また、世帯の2人目の稼ぎ手を対象とした懲罰的な課税の廃止や、共働き世帯への育児支援の提供による女性労働参加率の向上策もセーフティネット強化策である。本プログラム下では、社会保障支出は一定水準が確保されることになる。また、必要性が生じれば、質が高く資力調査を伴う社会的支援プロジェクトも事前に特定されたものの中から導入されうる。当局の目標は経済回復に予想より時間がかかった場合でも、こうした諸策で貧困率を減らし続けることだ。
• 中央銀行のインフレ目標枠組の信頼性向上
アルゼンチン政府は中央銀行にインフレ目標を効果的に達成するために必要な制度的かつ日常業務面での独立性を付与することを約束している。それに加え、中銀は3年間のスタンドバイ取極期間が終了するまでにインフレ率を1桁台に低下させるため、信頼できる新たなディスインフレ計画を採用した。中銀が健全なバランスシートと財務の完全な独立性を確保するための計画も策定中だ。同計画はペソ建ての短期中銀債(LEBAC債)から生じる中銀財務の脆弱性を解消するための施策も視野に入れている。
• 国際収支にかかる重圧を徐々に軽減
このためには、外貨準備の再構築と資本勘定にかかるプレッシャーに対してアルゼンチンが抱える脆弱性の軽減が必要となる。
表 1 アルゼンチンの主要な経済金融指標 |
|||||||||
予測 |
|||||||||
2015 |
2016 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
|
(括弧書きで別段の記載がない場合、単位は年間の%変化) |
|||||||||
国民所得、物価、労働市場 |
|||||||||
実質GDP |
2.7 |
-1.8 |
2.9 |
0.4 |
1.5 |
2.5 |
3.1 |
3.1 |
3.2 |
内需 |
4.2 |
-1.3 |
6.3 |
-1.4 |
0.5 |
2.0 |
2.7 |
2.8 |
3.0 |
消費 |
4.2 |
-0.8 |
3.3 |
-0.9 |
1.6 |
1.9 |
1.9 |
1.6 |
1.7 |
民間 |
3.7 |
-1.0 |
3.6 |
-0.6 |
2.3 |
2.5 |
2.4 |
1.9 |
2.0 |
政府 |
6.9 |
0.3 |
2.0 |
-2.2 |
-2.0 |
-1.6 |
-0.9 |
-0.4 |
-0.3 |
投資 |
3.5 |
-4.9 |
11.3 |
-1.2 |
-2.1 |
3.0 |
6.8 |
8.3 |
8.3 |
民間 |
4.4 |
-5.3 |
11.0 |
1.9 |
2.5 |
4.0 |
7.1 |
8.0 |
6.8 |
政府 |
3.9 |
-4.7 |
13.5 |
-12.0 |
-19.1 |
-1.6 |
5.3 |
9.8 |
15.9 |
輸出 |
-2.8 |
5.3 |
0.4 |
5.6 |
6.8 |
5.4 |
5.6 |
5.8 |
5.5 |
輸入 |
4.7 |
5.7 |
14.7 |
-2.7 |
1.6 |
3.1 |
3.8 |
4.1 |
4.2 |
在庫の変化と統計的不整合 |
0.2 |
0.2 |
1.6 |
-0.5 |
-0.5 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
名目GDP (10億アルゼンチンペソ) |
5,955 |
8,189 |
10,558 |
13,240 |
16,068 |
18,746 |
21,227 |
23,191 |
25,135 |
GDPギャップ(%) |
1.1 |
-1.8 |
-1.5 |
-2.9 |
-3.7 |
-3.3 |
-2.5 |
-1.8 |
-1.3 |
CPIインフレ (期末。対前年比%変化) |
… |
… |
24.8 |
27.0 |
17.0 |
13.0 |
9.0 |
5.0 |
5.0 |
GDPデフレータ (対前年比%変化) |
26.6 |
40.1 |
25.3 |
24.9 |
19.6 |
13.8 |
9.9 |
5.9 |
5.1 |
失業率 (%) |
… |
8.5 |
8.4 |
8.5 |
8.6 |
8.4 |
8.2 |
8.0 |
7.8 |
(別段の記載がない場合、対GDP比) |
|||||||||
対外部門 |
|||||||||
輸出(FOB)(財。10億米ドル) |
56.8 |
57.9 |
58.4 |
66.4 |
71.6 |
75.3 |
80.1 |
84.9 |
89.6 |
輸入(FOB)(財。10億米ドル) |
57.6 |
53.5 |
64.0 |
65.7 |
67.7 |
72.2 |
77.4 |
82.1 |
86.8 |
貿易収支 (財。10億米ドル) |
-0.8 |
4.4 |
-5.5 |
0.7 |
4.0 |
3.1 |
2.7 |
2.8 |
2.8 |
貿易収支 (財) |
-0.1 |
0.8 |
-0.9 |
0.1 |
0.7 |
0.5 |
0.4 |
0.4 |
0.4 |
交易条件 (%変化) |
-4.4 |
6.0 |
-2.7 |
4.0 |
-1.9 |
-3.0 |
-1.4 |
-0.3 |
-0.1 |
対外債務総額 |
27.9 |
34.2 |
37.0 |
51.3 |
52.6 |
52.0 |
50.8 |
50.0 |
49.2 |
貯蓄投資バランス |
|||||||||
総国内投資 |
15.6 |
14.6 |
14.8 |
15.1 |
14.8 |
14.9 |
15.5 |
16.4 |
17.2 |
民間 |
11.9 |
11.2 |
11.3 |
12.1 |
12.2 |
12.4 |
12.9 |
13.6 |
14.1 |
政府 |
3.6 |
3.4 |
3.5 |
3.1 |
2.6 |
2.5 |
2.6 |
2.7 |
3.1 |
総国民貯蓄 |
12.8 |
12.0 |
10.0 |
11.6 |
11.6 |
12.2 |
13.3 |
14.3 |
15.1 |
民間 |
18.6 |
18.3 |
16.5 |
16.7 |
15.4 |
15.1 |
16.0 |
16.9 |
17.5 |
政府 |
-2.1 |
-2.9 |
-3.0 |
-2.1 |
-1.2 |
-0.4 |
-0.1 |
0.1 |
0.7 |
経常収支 |
-2.7 |
-2.7 |
-4.8 |
-3.6 |
-3.2 |
-2.7 |
-2.2 |
-2.1 |
-2.1 |
公的部門 (注1) |
|||||||||
基礎的財政収支 |
-4.4 |
-4.7 |
-4.2 |
-2.8 |
-1.3 |
0.2 |
0.8 |
1.2 |
1.3 |
(内、連邦政府) |
-3.8 |
-4.2 |
-3.8 |
-2.7 |
-1.3 |
0.0 |
0.5 |
0.9 |
1.2 |
(* 構造的な連邦政府の 基礎的財政収支)(注2) |
-4.2 |
-4.5 |
-3.7 |
-2.1 |
-0.6 |
0.6 |
0.9 |
1.2 |
1.4 |
総合収支 |
-5.8 |
-6.4 |
-6.5 |
-5.1 |
-3.8 |
-2.9 |
-2.7 |
-2.6 |
-2.4 |
(内、連邦政府) |
-5.1 |
-5.8 |
-6.0 |
-5.0 |
-3.7 |
-3.0 |
-2.9 |
-2.7 |
-2.3 |
歳入 |
35.4 |
35.1 |
34.8 |
35.0 |
35.6 |
35.8 |
35.8 |
35.5 |
35.2 |
基礎的財政支出 (注3) |
39.8 |
39.8 |
39.0 |
37.8 |
36.9 |
35.6 |
34.9 |
34.3 |
34.0 |
公的債務総額(連邦政府) |
55.1 |
53.3 |
57.1 |
64.5 |
60.9 |
57.4 |
55.8 |
54.1 |
53.0 |
資金と与信 |
|||||||||
マネタリーベース (期末。対前年比%変化) |
34.9 |
31.7 |
21.8 |
25.9 |
21.3 |
18.0 |
14.5 |
14.2 |
13.8 |
M2 (%変化) |
28.2 |
30.4 |
25.8 |
22.5 |
25.3 |
18.6 |
14.5 |
14.2 |
13.8 |
民間セクターへの与信 (期末。対前年比の%変化) |
35.7 |
31.2 |
51.3 |
34.9 |
21.9 |
18.0 |
23.8 |
16.9 |
16.2 |
民間セクターへの与信(実質) (期末。対前年比の%変化) |
… |
… |
21.2 |
6.2 |
4.2 |
4.4 |
13.6 |
11.3 |
10.6 |
金利(期末)(注4) |
32.2 |
23.9 |
28.8 |
37.2 |
22.5 |
15.8 |
11.0 |
10.0 |
9.7 |
実質金利(期末) (12か月先前年比インフレ率)(注4) |
… |
… |
9.7 |
17.2 |
8.4 |
6.2 |
5.7 |
4.8 |
4.5 |
実質金利(期末) (1か月先前年比インフレ率)(注4) |
… |
… |
7.4 |
14.2 |
6.6 |
4.5 |
4.5 |
4.7 |
4.4 |
その他 |
|||||||||
総外貨準備高(10億米ドル) |
25.6 |
39.3 |
55.1 |
65.4 |
69.0 |
79.7 |
88.4 |
96.0 |
103.8 |
純外貨準備高(10億米ドル)(注5) |
-1.5 |
10.3 |
27.9 |
29.7 |
33.4 |
44.0 |
54.6 |
69.8 |
83.2 |
REER変化 (期末。%変化) |
5.3 |
-3.4 |
5.4 |
-18.1 |
3.9 |
0.7 |
0.1 |
0.0 |
0.0 |
出所: アルゼンチン財務省、アルゼンチン中央銀行のほか、IMF職員の試算。 注1: 基礎的財政収支にはアルゼンチン中央銀行からの収益移転を含まない。 利払いは2016年より前の社会保障基金からの財産所得を除いたものである。 注2: 潜在GDPの%。 注3: 地方自治体への移転を含めるが、地方自治体支出は除く。 注4: 2017年より前については、全LEBAC債の満期の平均。 2017年以降はレポ・コリドーの中間レート(事前的な実質金利)。 注5: 第一トランシュ全額がアルゼンチン中央銀行に預けられたままであることを前提とする。 変更に応じて、予測とプログラム目標は調整されることになる。 |
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