財政管理強化の好機に恵まれるアジア
2018年6月4日
2018年東京財政フォーラム 基調講演
国際通貨基金 副専務理事 古澤 満宏
国際通貨基金(IMF)を代表して、第4回の東京財政フォーラムに皆様をお迎えできることを、たいへん喜ばしく、光栄に存じます。フォーラムの共催者である日本の財務省、また、アジア開発銀行研究所の皆様に御礼申し上げます。また、IMFとして、日本のサブアカウントを通じて開催されているこのフォーラムを含め、IMFの能力開発活動への日本の貢献に、改めて感謝申し上げます。
今年のフォーラムでは、財政ルールにおけるイノベーション、インフラのガバナンス、財政管理におけるデジタルイノベーションという三つの広いテーマを取り上げます。
こうしたテーマについてお話しする前に、議論の背景として、アジア太平洋地域の経済見通しを概観することから始めたいと思います。
アジアは、2018年と2019年において、いずれも5.6%の経済成長を遂げると予測されています。輸出と投資が、力強い世界需要に支えられるとともに、アメリカの財政刺激策の追い風を受けています。
このような経済成長の下で、アジア地域では、財政のバッファーを増やし、経済の潜在的な成長力を高める財政面での改革を追求することによって、逆境への抵抗力を高める良い機会を迎えています。
アジアの新興市場国と発展途上国では、公共投資が経済成長を促進する役割を担うことが期待されています。しかし、公共投資がもたらす効果を最大化するためには、健全な財政政策を維持することが非常に重要です。
こうした課題に対応するために、財政管理の強化が重要であることは明らかです。それを踏まえ、まずは、今日の一つ目のテーマである財政ルールのお話をしたいと思います。
財政ルールは、様々な政府支出への需要に優先順位をつけることを助けながら、公的債務の持続可能性を確実に担保することを目的としています。しかし、何が、財政ルールの期待される効果を高めるのでしょうか。
この問題に答えるために、IMFは90か国以上の財政ルールについて分析し、財政ルールをより効果的なものとするいくつかの特徴を明らかにしました。
- 第一に、十分に広い範囲をルールの対象とすることが、抜け穴をふせぐために重要です。すなわち、国よりも下位レベルの地方政府や、大きな財政リスクを生む可能性のある国営企業も含めるということです。
- 第二に、優れた財政ルールは、順調な経済状況の時に財政上の余力を蓄えることを促し、また、困難な時には財政政策が経済を支えることを可能にするものであるべきです。
- 第三に、成功する財政ルールは、財政の透明性と説明責任をより高めることに資するものでなければなりません。
- 第四に、経済状況の様々な変化に直面する中で、財政ルールは、簡潔で、柔軟で、かつ履行可能なかたちで設計された時に、最も効果を発揮します。
- 最後に、こうした財政面での施策に関して、政治的な支持を伴うことが、どのような場合であっても不可欠です。
本日のフォーラムでは、こうした効果的な財政ルールに関する様々な議論を前進させるとともに、新たにルールを設計する際に助言を与えることを目的としたIMFの最新の分析が紹介されます。
それでは、二つ目のテーマであるインフラのガバナンスにお話を移しましょう。
アジアの新興市場国と発展途上国において、公共投資は、これまでも、豊かな国と貧しい国の差を収斂させることを支える役割を担ってきました。しかし、より多くのより良いインフラを提供することが、さらに必要とされています。健全な財政運営と、優れたインフラのガバナンスによって、こうした取り組みを支えることが可能となります。
IMFは、こうした取り組みを強化するために必要とされる、各国における能力の開発に力を入れています。
我々は、インフラのガバナンスにおける弱点を特定し、対応するための評価ツールを開発してきました。これは「公共投資マネジメント評価」、もしくは英語名の頭文字を取って「PIMA」と呼ばれています。
こうした評価は、計画から、資源の配分、そして事業の実施に至るまでのインフラ投資に関する一連のサイクルの中で、それぞれの国において必要とされる改革を特定する上で役に立ちます。
これまでにPIMAは、アジアの中で、マレーシア、モルディブ、モンゴル、スリランカ、タイ、東ティモールの6か国で実施されました。それらの国々では、共通して、さらなる改革に結びついていきました。
例えば、モンゴルでは、正規の予算外で管理されてきたプロジェクトが、正規の国家予算に集約されました。その結果、より適切なコントロールが行われるようになるとともに、プロジェクトの事前評価と選定方法も改善されました。マレーシアでは、財政リスクを分析し緩和する組織的な能力がさらに強化されました。
インフラのガバナンスにとっては、官民パートナーシップ(PPP)の適切な管理も重要です。PPPは、予算や債務に関する当面の制約を回避する目的で使われることがないようにしなければなりません。
財政リスクを回避するためには、PPPを健全に管理するための枠組みと、プロジェクトに対する適切なリスク分析が必要です。
IMFと世界銀行は、「PPP財政リスク評価モデル」という分析ツールを開発してきました。これは「PFRAM」として知られています。このツールは、各国が、官民パートナーシップの下で行われるプロジェクトに伴って生じるコストとリスクを、具体的に特定し、定量的に把握するために役立ちます。
ブータンとカンボジアでは、PFRAM が大規模プロジェクトに適用され、より良い財政リスクの管理に向けたいくつかの選択肢が提示されました。
このフォーラムの三つ目のテーマは、デジタル化です。
最近では、デジタル化が、納税のコンプライアンス向上のために利用されています。各国の当局は、事前に情報入力された税務申告書類や、税の電子申告、ビッグデータを活用した納税者のリスク評価を導入しています。
また、デジタル技術は、公共サービスの提供方法を改善するためにも用いられています。
優れた事例として、社会福祉プログラムにおける生体認証技術の利用が挙げられます。こうした技術は、不正な受給を減らすとともに、給付の対象範囲を拡大することに役立ちます。
今、この分野で先陣を切っているのがインドです。12億人を超える人々が生体認証IDシステムの中に登録されています。
また、デジタル化によって、ガバナンスの強化や、より透明性の高い財政管理を促すことができます。例えば、韓国ではウェブベースの予算システム「dBrain」が、一般市民の参加を促進しています。
このフォーラムは、こうした分野で行われてきた様々な取り組みについて、その全体像を理解する良い機会となるでしょう。
最後に、IMFとして、加盟国の財政管理手法の強化に向けた努力を支えるために、政策への助言と、能力開発への支援に力を尽くしていることを強調して、締めくくりたいと思います。財政分野全体の技術支援の三分の一以上が、財政管理強化に充てられています。昨年、IMFは、全世界で、財政管理に関する99の技術支援ミッションと25のワークショップを行いました。
今年の東京財政フォーラムが、アジアにおいて、直近の経験を共有し、政策担当者がより優れた政策戦略を策定する上で役に立つ貴重な機会を提供することができれば幸いです。
皆様のご参加に改めて御礼申し上げるとともに、様々な議論を通じて、皆様が有益な2日間を過ごされることを願っています。
ご清聴、ありがとうございました。
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