IMF理事会、2017年の対日4条協議を終了

2017年7月31日

2017年7月26日、国際通貨基金(IMF)理事会は対日4条協議[1]を終了した。

日本経済は潜在成長率を上回る成長を続けており、需給ギャップのマイナス幅は縮小している。景気拡大は2015年と比べてより広がりを持ち、バランスの取れたものとなっており、民間消費の伸びはプラスに転じ、民間投資は住宅関連投資を背景に増加している。しかし、労働力不足は明らかであり、賃金の伸びも弱いままで、インフレ率も低い状態が続いている。

世界需要の回復と、エネルギー価格の低下による輸入減少によって2016年下半期の純輸出は増加した。これにともなって経常収支バランスは、所得収支が主要因ではあるものの、黒字が増加したが、一方で2015年から2016年の間に実質実効為替レートは大幅に上昇し、中期的なファンダメンタルズと整合的な水準まで動いた。

成長のモメンタムは、2017年中は持続するものの、財政支援が現在予定されている通り減退すれば2018年には弱まるであろう。財政刺激パッケージは消費と投資の押し上げを通じて2017年の成長を支えている。金融政策は緩和的な状態が続き、与信と経済の成長の好循環を促進することが予想される。しかし、オリンピック関連の民間投資の伸びが予想されるものの、2018年に起こりうる財政支援の終了は、外需の伸びの鈍化と共に、成長率を低下させるだろう。

高齢化と人口減少は金融仲介における銀行の役割を減じ、地方銀行や信用金庫に特に困難をもたらすだろう。金融セクターの安定性と長期的な課題はIMFの金融セクター評価プログラム(FSAP)において分析された。FSAPの結果は付随する金融システム安定性評価(FSSA)において要約されている。

理事会による評価[2]

理事会はスタッフの評価の要点に概ね同意した。また、理事会は日本経済のパフォーマンス向上を歓迎した。しかしながら、理事会は、最近の成長が主に好ましい外部環境と財政支援に根差すもので、一時的なものである可能性に留意した。更に、国内消費と投資の伸びは緩やかなままであり、賃金と所得は依然十分に上昇しておらず、インフレ率は引き続き目標を下回り、低金利環境と人口動態の逆風は金融セクターにリスクをもたらしている。こうした背景の下、理事会は、足元の良好な経済環境が、成長の持続を助け、インフレ率を引き上げ、財政健全化及び潜在成長率引き上げを含む中期の課題に対応するため、包括的かつ協調のとれた改革パッケージを推進する好機をもたらしていると強調した。

理事会は、日本をその野心的な目標達成に向けた軌道に乗せるためには構造改革が不可欠な要素であると考えた。労働市場の二重構造縮小と労働移動の増大による生産性と賃金上昇圧力を強化することにまず重点を置くべきである。潜在成長率を引き上げるため、投資促進及びと労働供給の多様化と拡大がこれに続くべきである。このためには、常勤雇用、女性及び高齢者の労働参加、そして外国人労働者の活用が促進されるべきである。これらの改革は、黒字企業の賃上げに対するより強いインセンティブを含む所得政策によって補完されるべきである。

理事会は、持続的な金融緩和が引き続き必要であることを強調した。また、理事会はイールドカーブ・コントロールの枠組みとインフレ目標をオーバーシュートすることへの日本銀行のコミットメントで示された政策のアップグレードを歓迎した。

理事会は、高い公的債務水準によるリスクに対応し、政策の不確実性を低減し、政策策定をアンカーするため、中期的な財政健全化が必要であることを強調した。この文脈で理事会は、若干名の理事が実施にかかるリスクを指摘したものの、事前に公表された段階的かつ継続的な消費税率の引き上げの道筋を概ね支持した。理事会はまた、社会保障費を抑制し課税ベースを拡大することを推奨した。多くの理事が経済に対する短期的な財政支援の必要性を支持したが、その他の理事の相当数は財政健全化の緊急性を強調した。

理事会は、2016年における実質実効為替レートの大幅な上昇が円をファンダメンタルズと整合的な水準まで動かしたことに留意した。強固な構造改革の要素を含む協調された政策パッケージは、若干ながら強い対外ポジションを中期的にファンダメンタルズと整合させる助けとなり、保護主義の高まりの国内へのスピルオーバーを和らげることができる。多くの理事は、この対外ポジションの評価の分析的基礎を精緻化することを求めた。

理事会は、当局に金融セクター評価プログラム(FSAP)の提言に沿って金融セクターの監督を強化することを促した。これらの努力には、完全にリスクに基づくプルーデンス監督への移行、銀行及び保険業界でのコーポレート・ガバナンスの強化、銀行のリスク特性の資本要件への反映、より強固な保険セクターの規制枠組みの実施が含まれる必要がある。理事会は、マクロ・プルーデンスの枠組みの改善に向けた努力を歓迎し、また、若干名の理事は金融庁・日本銀行連絡会(CCFS)のマンデートを更に明確化し、マクロ・プルーデンスの政策手段を積極的に拡充する必要性を強調した。

理事会は、マクロ経済と人口動態のトレンドの持つ意味合いについて金融機関と意見交換を続けることと、存続可能性に関する懸念が見つかった場合には迅速に対応することの必要性を強調した。また、公的支援への期待を制限するため、危機管理・破たん処理の枠組みの強化の必要性を強調した。理事会は地方銀行が手数料収入拡大、経費節減、及び統合を検討する必要があると強調した。
 

日本: 主な経済指標( 2012 2018

名目GDP: 4,941十億米ドル (2016)

 

 

 

 

 

 

 

人口: 127 百万 (2016)

 

 

 

 

 

 

 

1当たりGDP: 38,937米ドル (2016)

 

 

 

 

 

 

 

クオータ: 308 SDR (2016)

 

 

 

 

 

 

 

 

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

 

 

 

 

 

 

Proj.

成長率(変化率、% 1/

 

 

 

 

 

 

 

実質GDP

1.5

2.0

0.3

1.1

1.0

1.3

0.6

国内需要

2.3

2.4

0.4

0.7

0.4

0.7

0.7

民間消費

2.0

2.4

-0.9

-0.4

0.4

0.8

0.7

企業設備投資

4.1

3.7

5.2

1.1

1.3

3.0

3.3

住宅関連投資

2.5

8.0

-4.3

-1.6

5.6

3.1

2.4

政府支出

1.7

1.5

0.5

1.7

1.3

0.7

-0.2

公共投資

2.7

6.7

0.7

-2.1

-3.0

-0.2

-4.4

在庫投資 2/

0.0

-0.4

0.1

0.6

-0.3

-0.4

-0.1

純輸出 2/

-0.8

-0.4

0.0

0.3

0.6

0.5

-0.1

・サービスの輸出 3/

-0.1

0.8

9.3

2.9

1.2

6.3

2.4

・サービスの輸入 3/

5.4

3.3

8.3

0.8

-2.3

3.0

2.7

需給ギャップ

-3.6

-2.2

-2.6

-2.1

-1.8

-1.1

-0.9

 

インフレ率(年平均)

 

 

 

 

 

 

 

CPI 4/

-0.1

0.3

2.8

0.8

-0.1

0.7

0.6

CPI VAT除く)

-0.1

0.3

1.2

0.3

-0.1

0.7

0.6

コアコアCPI VAT除く 5/

-0.4

-0.2

0.7

0.9

0.6

GDPデフレーター

-0.8

-0.3

1.7

2.1

0.3

-0.1

0.9

 

失業率(年平均)

4.3

4.0

3.6

3.4

3.1

3.1

3.1

 

政府(GDP比)

 

 

 

 

 

 

 

一般政府

 

 

 

 

 

 

 

歳入

30.4

31.2

32.7

33.2

32.6

32.6

32.4

歳出

38.7

38.9

38.0

36.7

36.8

36.7

35.7

財政収支

-8.3

-7.6

-5.4

-3.5

-4.2

-4.1

-3.3

基礎的財政収支

-7.5

-7.0

-4.9

-3.1

-4.0

-4.0

-3.3

構造的基礎的財政収支

-6.3

-6.4

-4.6

-3.5

-3.6

-3.7

-3.1

公的債務(グロス)

236.6

240.5

242.1

238.2

239.4

240.7

240.3

 

金融(変化率、%特記ない限り期末)

 

 

 

 

 

 

ースマネー

19.3

60.3

36.7

29.1

17.9

16.7

14.5

ブロードマネー

2.8

4.0

3.0

3.0

3.4

3.1

2.7

民間部門への信用供

3.1

5.5

1.5

2.1

2.7

2.6

2.6

非金融機関債務(対GDP比)

134.3

134.7

135.7

131.7

133.4

134.9

136.2

家計債務(可処分所得比)

119.7

121.9

124.2

126.4

129.6

130.0

131.1

 

金利

 

 

 

 

 

 

 

無担保コールレート翌日物 期末)

0.1

0.1

0.1

0.0

-0.1

CD3月物金利(年平均)

0.3

0.2

0.2

0.2

0.1

公定歩合(期末)

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

10年物国債利回り(期末)

0.9

0.7

0.6

0.4

0.0

0.1

0.2

 

国際収支(10億米ドル)

 

 

 

 

 

 

 

経常収支

59.7

45.9

36.8

134.1

188.1

186.8

208.0

GDP

1.0

0.9

0.8

3.1

3.8

3.9

4.2

貿易収支

-53.9

-90.0

-99.9

-7.4

51.4

54.0

67.8

GDP

-0.9

-1.7

-2.1

-0.2

1.0

1.1

1.4

財輸出(FOB

776.0

695.0

699.7

622.1

635.3

676.1

705.0

財輸入(FOB

829.9

784.9

799.7

629.5

583.9

622.2

637.2

エネルギー輸入

272.2

257.4

241.8

133.8

94.9

114.4

113.6

FDI(ネット、GDP比)

1.9

2.8

2.4

3.0

2.7

2.5

2.5

ートフォリオ投資 (ネット、対GDP比)

0.5

-5.4

-0.9

3.0

5.7

4.1

3.8

交易条件(変化率、%

-1.8

-2.5

-1.0

14.1

9.3

-17.2

3.6

外貨準備高の変化

-37.9

38.7

8.5

5.1

-5.7

10.0

10.5

 

外貨準備高(金を除く)(10億米ドル)

1227.2

1237.3

1231.0

1207.1

1188.4

 

為替相場(年平均)

 

 

 

 

 

 

 

・ドル

79.8

97.6

105.9

121.0

108.8

112.2

110.8

・ユーロ

102.6

129.6

140.8

134.3

120.4

122.5

122.4

実質実効為替相場(ULCース)6/

118.6

95.9

86.8

83.6

93.6

実質実効為替相場(CPIース)7/

100.6

80.3

75.1

70.1

79.5

 

人口動態指標

 

 

 

 

 

 

 

人口増(変化率、%)

-0.2

-0.2

-0.2

-0.1

-0.1

-0.3

-0.4

老年人口指

37.8

39.8

41.8

43.5

44.9

46.2

47.2

出所: IMF Competitiveness Indicators SystemOECD及び IMFスタッフ推計及び見通し(2017612日現在)

 

1/年成長率及び寄与度は季節調整済みデータから算出

 

2/GDP成長率寄与度

 

 

 

 

 

 

 

3/2014年に関しては、国際収支統計作成方法に変更があり(BPM6移行)時系列的に断絶があるため、輸出及び輸入の成長率は高くなっている

 

 

4/2014年、2015年においては消費税率の引き上げの影響を含む

 

5/日本銀行の生鮮食品とエネルギーを除いた基調インフレ率

 

6/2005年を100とした単位当たり労働コストに基づく

 

7/2010=100

 



[1] IMF協定第4条の規定に基づき、通常IMFは加盟国と毎年協議を行う。IMF代表団が協議相手国を訪問し、経済・金融情報を収集するとともに、その国の経済状況及び政策について政府当局者等と協議する。本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会における議論の土台となる報告書を作成する。

[2]議長である専務理事は、審議終了時に結論を理事会の見解として要約し、その要約(本書)が各国の政府当局に提出される。専務理事による総括で使用される修飾語句の定義については以下リンクを参照。http://www.imf.org/external/np/sec/misc/qualifiers.htm.

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