IMF サーベイ・マガジン : 経済成長、鈍化する新興市場国・地域、好転する先進国・地域
2015年7月9日
- 世界経済成長率、今年は3.3%、2016年は3.8%と予測
- 先進国・地域の基本的なファンダメンタルズは強固。新興市場国・地域は減速
- 金融市場のボラティリティのリスクが残存
国際通貨基金(IMF)は最新のWEO改訂見通しで、世界経済は引き続き徐々に回復しているが、2015年の世界経済成長率は若干低下するとの予測を示した。これは主に北米の2015年第1四半期の経済活動の想定外の後退を反映している。
WORLD ECONOMIC OUTLOOK
「ギリシャの情勢は劇的である」と述べたIMFのオリビエ・ブランシャール経済顧問兼調査局長は「深刻化するギリシャ経済の問題の世界経済の他の国や地域への影響は限定的だろう」と述べた。
同氏は、全体としての展開は4月の見通しとほぼ一致していると述べた。「つまり、先進国・地域の回復は改善しており、新興市場国・地域の基本的な成長は鈍化している」。世界経済の成長率は、今年は2014年と同じく3.3%、翌年には3.8%に達する見込みである(表参照)。
他の動向について、WEO改訂版は、原油価格が2015年の第2四半期で回復するとともに、デフレリスクは減少し、企業と家計の債務者をめぐる金融環境は大半の先進国・地域で概ね好調だったと述べた。
先進国・地域は改善
2015年の世界経済の成長率の上昇は、先進国・地域の力強さを増す成長が原動力となろう。2014年に1.8%だったこれらの国や地域の成長率は、2015年には2.1%(4月見通しより約0.3パーセントポイント低い)、そして2016年には2.4%に達する見込みである。同報告書は、2015年の見通しの修正の大きな理由である同年はじめの北米の予想外の弱さは、一時的な後退である可能性が高いとしている。賃金の伸び、労働市場環境、緩和的な金融環境、燃料価格の下落、及び力強さを増した住宅市場といった、米国の消費と投資の基本的な原動力に変わりはない。
ユーロ圏の経済回復は、内需とインフレ率の上昇の兆しがみえるなど、一段と安定さを増している。多くのユーロ圏諸国(スペイン、イタリアなど)の成長見通しは上方修正したが、ギリシャについては、同国で続く情勢が、先の見通しと比較し経済活動にはるかに大きなダメージとなる可能性が高い。
日本の2015年第1四半期の成長は想定より力強かったが、このサプライズの大半が在庫の積み増しを反映したものだった。実質賃金と消費の基本的な勢いが弱まるなか、2015年の成長率の上昇は、より緩やかなものになると予想される。
新興市場及び途上国・地域は減速
新興市場及び途上国・地域の2015年の成長率は、概ね予想通り2014年の4.6%から減速し4.2%になるだろう。この減速は、特にラテンアメリカ(ブラジルなど)及び原油輸出国での、一次産品価格の下落と対外金融環境のタイト化のマイナスの影響を反映している。
その他の要因として、中国によるリバランス(再調整)、並びに構造的なボトルネックや、独立国家共同体や中東及び北アフリカの一部の国々などでの地政学的要因に関連する経済の停滞が挙げられる。
2016年の新興市場及び途上国・地域の成長率は、ロシアや中東・北アフリカ諸国の経済的に苦境にある国や地域の一部で経済状況の改善が見込まれることを主な理由に、4.7%まで回復するだろう。
しかし、低所得国グループとしての成長率は相当高い水準にとどまっている。2015年の成長率は、2014年の6%から5.1%に減速し、その後2016年に回復するだろう。この回復は、先進国・地域の貿易パートナーからの需要の増加も影響する。しかしここでも、一次産品価格の下落が成長のリスクとなっている。
見通しにかかるリスク
短期的見通しにかかるリスクの分布を踏まえると、世界経済の成長率は、予想外に想定を上回るのではなく期待に満たない可能性が高い。しかしその一方で、特に先進国・地域で、原油価格の下落による押し上げが潜在的プラスとなるかもしれない。
ギリシャの情勢はこれまでのところ大きな影響をもたらしていない。時宜を得た政策措置が潜在的な波及の管理で有効であろうが、金融ストレスの再発リスクが一部残っている。
より広義には、混乱を引き起こすような資産価格のシフトと金融市場のボラティリティの上昇が、新興市場国・地域での資本フローの反転といったこれに関連したリスクも理由に、引き続き重大なリスクとなっている。さらに米ドルの上昇は、特に一部の新興市場国・地域でドル建てで借り入れを行っている者のバランスシートのリスクとなり、資金調達のリスクとなる。
その他のリスクには、先進国・地域でインフレ率が極めて低く危機の遺産が残るなかで、中期的に続く低成長や完全雇用への十分な回帰の遅れ、中国の予想以上に急激な減速、並びにウクライナ、中東あるいはアフリカの一部での地政学的緊張の高まりの経済活動への波及的影響などがある。
低成長の罠を防ぐ
こうした状況で、世界経済の成長が見込みどおりに回復しない場合、実際の総産出量及び潜在GDPを需要支援策と構造改革を組み合わせて引き上げることを、引き続き経済政策の優先事項としなければならないとIMFは強調している。
多くの先進国・地域は、緩和的な金融政策により引き続き経済活動を支えインフレ率を目標まで再度引き上げるべきである。一部の国や地域におけるインフラ投資の拡大、並びに労働市場改革(たとえば若者の失業を減らす)、製品市場改革(参入障壁の撤廃)などの構造改革を、危機の遺産に対処し潜在GDPを押し上げるために行うことも、十分正当である。
多くの新興市場及び途上国・地域では、財政政策が、税制改革や歳出の優先順位付けを通し需要及び長期的成長を押し上げるためのツールと成り得る。生産性の向上と生産のボトルネックの解消のための構造改革が、多くの国や地域で早急に必要となっている。